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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第一大陸編
36/96

グリフォン

グリフォン


一日目の講習は午後二時には終わり、翌日の支度を冒険者ギルド内でさっさと済ませた一行は、夕飯時まで別行動をする事となった。


小春は小六を呼び出して胸に抱き、いそいそと散歩に出かけた。

また何かしら買い物をして回るのかも知れない。

十六那はそんな小春と小六の後を「いっ、イヌ…犬!」と呟きながら追った。

前から思っていたがやはり色んな意味で危ない人だと弘樹は思った。


貴彦は鉱石や薬草を扱う店や薬師、鍛冶屋などを見て回ると言う。

新たな道を目指す準備に入ったのだろう。


弘樹も武器や防具などを軽く見て回り、自分に何が出来るのかを考える事にした。


懐具合がかなり良くなった為、当初店を周った時と違い、手の届かないと思っていた品々を複数買ってもおつりが来るほどになっている。


「「あっ」」

いくつかの店を周り、自分があれこれ武器を振るう姿を想像していると、ある店先で見知った顔たちと出会った。

というより約一時間ぶりの再会だった。


リンウッドとサムだ。

その少し後ろをクリストフが少し勝ち気そうな目をした赤毛の少女と歩いている。

赤毛の少女は受講者の一人だった。

もしやパーティーを組んでいるのだろうか?

そんな事を思いつつ、「よう!さっきぶり!」と挨拶する弘樹。

彼らもそれぞれ「どーも」「こんにちは」等返事をするが、どうもぎこちない気がした。

こんな時にはサッサと離れた方が良いだろう。

弘樹はパッと軽く右手を挙げて、

「明日もよろしくな!んじゃ!」

と言うと彼らとは逆方向の他の店へと歩き出した。

「あ、あの、待って下さい!」

サムが声を上げ、複数の足音が弘樹に迫る。

彼の超感覚が勝手に起動し、自分に向かう感情を探り捉える。

困惑、動揺、好奇心。

悪意や害位はないようだったが、決して好意的とも言えない感情たち。

弘樹はややにこやかな表情のまま四人に向き直る。


地球にいた頃なら絶対ビビってたよなー。今となると全然怖くないけど。

そんな事を思いつつも余裕を持って彼らを見つめた。


そう、余裕があるのだ。

超感覚を使用しなくても、感覚的に力の差が、使用出来るエネルギーの総量が違うのが分かる。

ノーマンの語っていた小石でゴーレムの頭を吹き飛ばした転移者は指弾などの技を使ったのか、それとも弘樹と同系統の異能を持つのか、単にその筋力でゴリ押ししたのか分からないが、今の弘樹も同様もしくはより大規模な破壊すら可能だろうと自覚している。


「呼び止めてしまってすみません」

四人の先頭に立ったのはサムやリンウッドではなく、クリストフだった。

「ノーマン先生の話を聞いて、何だか訳がわからなくなってしまって」

そう話したのはサムだった。


「あー、亜神とか真似するなとか、あの辺の事かな?」

講習会の後半を思い出しつつ尋ねると、どうやらそうらしい。


転移者も流界者も多いとは言え、接する機会や状況は限られている。

そもそも特殊な状況で無ければ転移者とて普通に生活を送るものだ。


弘樹とて小春がドラゴンを倒す様をその目で見なければ、信じることなど出来なかっただろう。

単純に小春の実力と言う訳ではなく、攻撃力と言う意味では規格外である十六那の力が大半を占めていたのだが。


冒険者とは言え、転移者とパーティーを組むなり共闘するなりしなければ、その実力を見てノーマンの言葉を実感する事など出来ないだろう。


「あれなー。

ギフトについては他と比べた事がないから分からない。

ただ基本だけでもマップに鑑定、収納なんかはすでに一般の人からしたら規格外だよな。

霊格も最低でも2って言うけど、逆に言えばもっと高い転移者も居るってことだろ?

一般的な転移者のレベルや霊格の上限が幾つまであるのか分からないから何とも言えないけど、そう言う意味でも普通じゃないやな」


弘樹はあっさりとノーマンの話を肯定し始めた。


「例えばさ、ノーマンの言ってたドラゴン神速で倒したの、ウチの小春ちゃんなんだよね」

さらりと爆弾発言をする弘樹だったが、四人とも思った程驚いてはいなかった。


既に噂くらいは流れているという事か、と弘樹は冷静に判断する。


街の規模もギリギリ都市と呼んでいるレベルのものなのだ。


何でも周辺の村や小さな町を入れても人口六千人ほど、この都市だけなら三千人ほどなのだから。


都市と言いつつ広大な防壁内の大半は畑や田んぼ、畜産農家に果樹園などで占められている。

高レベルの鍛冶師や錬金術師が居ないのももっともなのだ。

現代日本人の感覚からすると村か小さな町レベルなのだが、中世ヨーロッパや昔の日本を考えれば納得出来るものだった。

温暖な気候や魔法、祝福にタレント、スキル、魔道具、そして持ち込まれた現代地球の知識。

それらが融合して中世よりも遥かに高い農作物や家畜の生産率を誇るからこそ可能な人口比でもあった。


そんな狭い町の同じギルドに所属している者が噂の一つや二つ聞かない方がおかしいのだろう。

機密事項としてどうなのだろうとも思うが、それは今のところ置いておく事にして弘樹は話を続けた。


「霊格が上がると疲れにくいし、無理も効く。

睡眠時間も短くなるし飯も水も霊格が上がる毎に必要な量は減るそうだ。

でもさ、俺たちは神様もどきじゃないと思うよ?

実際ある女神様の、多分本体じゃないよな、分身みたいな存在に会った事もあるけど、完全に別次元の存在だったしな」


女神に会ったと言う弘樹の言葉に、今度は皆動揺したようだった。

やっぱりここでは神様って、相当特別な存在なんだなーとぼんやりと思う。

転移者がその亜種のように言われれば、彼らも混乱するだろうと単純に納得した。 


「多分ノーマンは、皆に生きて欲しいんだと思うよ。

彼15年も冒険者をしているって言ってたよね?

その間に多分親しい人たちや、もしかしたらパーティーの仲間も何人か失っているのかも知れない。

転移者に憧れた後輩が無茶をして、何人か死んだのかも知れない。

だからさ、例え語弊込みでも伝えたかったんじゃないかな?

伝説の勇者とか神話の英雄とか、意味不明な転移者とかさ、そんなのの真似をしたら幾つ命があっても足りないって。

剣聖を目指すんでも英雄になるんでもなくて、俺達は冒険をこなして生きてゆく、冒険者なんだってね」

そうだ。

勘違いをしやすいんだ。

弘樹ははたと気付いた。


冒険者は一般人よりもスキルが簡単に得られ、成長も遥かに早い。

人生において5〜10レベルが平均のこの世界で、ノーマンですら霊格を上げ、レベルも霊格1の限界を突破している。


スキルとて普通に生活をしている分には5が最高、それもある程度年を経てから得られる物なのだろうが、冒険者は違う。

その時点で既に冒険者は転移者同様特殊な存在なのだ。

生活のため、生きるためと言う前提はあるものの、冒険者に憧れる者たちは一定数はいるのだろう。


没落した家の再興を考えるて冒険者になった者も居たと言うのだから、この世界での冒険者とは、一部のファンタジーにありがちな荒くれ者とは異なる面もあるのかも知れない。

考えてみれば神々が実在する世界の神殿が外郭団体として作り出した組織なのだ。

この世界で神々の存在が日本と異なる程に特別であるならば、その傘下の組織が無法者に近い者達で構成されているとは考えにくい。

そりゃ英雄とか目指しちゃうかも知れないと、弘樹はこのシステムを作った者たちに何だか文句を言いたい気分になった。

多分それは何柱かの神々によるものなのだろうと、そう思いながら。


道端で話し込んでいた五人だったが、流石に店先では邪魔だろうと話の途中で軽食屋へ入ることにした。

とは言え弘樹は大体話したい事は話してしまったので、店ではお茶を飲みつつ雑談がメインになってしまった。


「あたいだけ名乗ってなかったね。

あたいはタニア、苗字は実家に捨ててきたよ。

魔法と探索系のFクラス冒険者さ」


唯一会話していなかった受講生は、何だか特徴的な話し方をする娘さんだった。


「どちらも明日やる内容のスキル関係だね」

「そうなるね。

今日の授業はなかなか勉強になったよ。

あたいの両親は元冒険者でね。

父親が斥候担当、母親が魔法使いだったのさ。

二人にあれこれ教え込まれたけど、冒険者のルールなんかはあまり習ってなかったからね」


案外習う前に家出でもしたのかも知れないと弘樹は思うが、知り合ったばかりなのでそこは下手に触れないでおいた。


「そう言えばサム君やリンウッド君は実家の話を聞いたけど、君たちのタイプを聞いてなかったね。

どんなタイプの冒険者なんだい?

クリストフ君のも聞いてないか。

俺は異能メインで他をどうにか覚えなきゃって感じなんだけど、今後の参考にしたいんだ。

もし良ければ聞かせてくれないか?」


転移者が新米冒険者を参考にするの?!と四人とも驚きつつも、クリストフから順番に大まかなタイプを説明してくれた。


「私は槍と長剣ロングソード、それに盾を使った戦闘が得意ですね。

弓や短剣も扱いますが得意ではありません。

魔法は日輪魔法を少しだけかじっています。

鎧に関しては正直悩んでいます。

元々騎士の方々に戦い方を習ったので、全身鎧プレートメイルを身に着けたい気持ちもあって。

どちらにしても最初は大した武器も防具も買えないので先の話ですが」


苦笑いを浮かべて語る十五歳の少年は、話し方や仕草などからも貴族や良い所の子弟なのだろうと見て取れた。


「オレは狩人の師匠に習った弓矢や罠、ナタや小剣ショートソードを使うつもり。

あと風と月光魔法を少し使えるよ。

探索系のスキルもあるしね」


軽い感じでリンウッドが話すと、


「ボクは前衛を目指してます。

大地使いの異能があるけど魔法は得意じゃないから。

鈍器や大盾を使えたらいいかと」

と農村出身のサムは答えた。


頑健と剛力のタレントこそあるものの、基本的には畑仕事や開墾など、家や村の手伝いをして過ごして来たのだ。

この中で一番一般人に近いのはサムなのかも知れない。


「なるほどな。

俺は異能メインなんだが、前衛職のスキルを何か取ろうと思ってるんだ。

ノーマンも言っていたけど、急に襲われた時に対応出来ないと不味いからな。

まだどのスキルを取るかは決めてないんだが。

今朝から小春ちゃんに鍛え出してもらったりしてな」

「魔法戦士や異能戦士のような感じを狙ってるのかい?」

弘樹の話にタニアが反応した。

「あ、やっぱりその手の戦闘タイプいるんだね」

と弘樹が返すと、新米冒険者たちはこいつ何言ってんだと言った表情を浮かべる。

「あの、中には武器戦闘のスキルだけで戦う人もいますが、基本的に冒険者も転移者も魔法や異能戦士のようなスタイルで戦うのが普通ですよ?」

クリストフが代表して話し出す。


「大体の人は大なり小なり異能や魔法を使えます。

ですから合わせ技を使う事が多いのです。

例えば剣に炎を纏わせたり、風で威力も命中も高めた矢などで戦います。

動きも風でサポート、地面で壁を作る、砂や砂利で鎧や盾を作る、器用な人だと目くらましや幻覚を混ぜて戦う事もそれなりにあります。

勿論神速で戦う、小石でゴーレムの頭を吹き飛ばす等はそうそう出来る事ではありませんが」

「えっ?」

マジでかっ?!

言われてみれば小春も剣術に魔法やタレントを混ぜ合わせて使っていた。

あれとて魔法戦士の戦い方と言えるだろう。

「ノーマン先生が言っていましたよね?中級の転移者だったと。

私達冒険者の最上位はAランクです。

最低でも霊格は2、レベルは120以上はあるでしょう。

そこに到れる者などそうはいません。

Aランクの中には霊格3の方もいるようですが、全大陸で数名と言われていますし、どの様な存在なのか予想もつきません。

通常戦闘で洞窟の岩ごと敵を切り裂くには、前衛で筋力や武器スキルにポイントを注ぎ込みAランクになって出来るレベルです。

BランクやCランクでも上位の前衛が大技、決め技としてなら出来るはずですが。

中級、冒険者で言えばDランクや下位のCランクが、それを通常戦闘でやってのける力、そこが凄いと言うことなのです」

「あー」

根本的に視点が違うのだと、この時弘樹は気がついた。


生まれた頃からスキルやタレントを持ち、当たり前に生活の中に組み込んで生きている人間と、そうでない者の差であり、レベルや霊格、能力値を肌身で感じている者とそうでない者の差だ。


知識もそうだが、それ以前の当たり前と言う前提が違うのだ。


魔法やスキルを合わせて使うのも、彼らの話からすると普通の事なのだ。


実際の戦闘を見ていなくとも、噂くらいは聞くだろう。

元冒険者の家族や知り合いが居ればその実力の一部を見ることもあるかも知れない。

貴族となればそれなりの情報も持っているだろう。


農業などにもスキルや魔法は使われていると言う。

弘樹は畑を耕し種を蒔いた後、何か呪文でも唱えて魔法を掛けているのかと思っていたが、それもきっと違うのだろう。


その上で弘樹は思う。

俺は俺の身体能力すら理解していないと。

スキルやタレント以前の問題ではないだろうか?


今朝になってやっと、何をすれば疲れるのか、どの程度で体力が回復するのかが分かった。

これはスキルにしても同じだ。

今日初めて集中、ゲームで言えば溜めが必要なタレントと即時発動のタレントがある事が理解できた。

でもそれでは駄目なのだ。

本番で試したら出来ませんでしたでは自分だけではなく仲間の命すら危うい。


何が出来るのか、大まかな内容は理解出来る。


しかしそれに実感が伴っておらず、あやふやな状態で力を使っていた。


小春と貴彦は異界化を数度体験し、弘樹とは前提条件が異なるように思える。


目の前にいる彼等はどのように理解してスキルやタレントを使っているのだろう?とも思ったが、どうやって歩いているの?と聞いてもうまく説明出来ないのと同じで、当たり前になっている事は説明が難しいかも知れない。


「うん、俺…マズイかもしれない」


四人の話を聞き、あれこれ考え過ぎて疲れ果て、真顔でボソッと呟いた弘樹の言葉に少年少女は慌てる事となった。


店で弘樹の泣き言のような話を聞き、彼等は町の外へと出た。

店は勿論弘樹の奢りだ。

時間が時間なので門の衛兵には心配されたが、冒険者カードを見せて事情を軽く説明すると、「暗くなる前に戻れよ」と送り出してくれた。


現在時刻は午後4時すぎ。

弘樹に同情したのか、日が暮れるまで後二時間ほどあるから特訓だ!とリンウッドとタニアが言い出し、他の面子もそれに乗ることとなった。

道すがらもあれこれ話し合い、魔法戦士や異能の戦い方を伝授すると息巻いている。

クリストフは当初やや冷静だったが、他の面子の勢いに圧され、いつしかやる気になって来たようだった。


「まず今現在弘樹さんは異能と探索系、魔法がいくつかあるけど前衛系のスキルは持っていないのですよね?」

クリストフの言葉に弘樹は頷く。


「ならばまずは魔法剣をお見せします」

クリストフはそう言うと、素早く祈りの文言にも似た呪文を詠唱し、剣に光を纏わせた。 

「おぉっ?!」

弘樹は光輝く剣をマジマジと見つめる。

「日輪魔法は光や熱、そして聖なる属性の魔法と言われています。

ですから熱に弱い魔物や闇や影の魔物、アンデッドに効果的であると言われています」

ブン!と剣を振るいつつクリストフが説明する。

「剣に魔法を付与するのは、攻撃力を上げる為だけではありません。

魔法は意思あるものに掛けると抵抗される事があるのですが、この様に意思の無い剣ならば中途半端な発動や効果がほぼ無かったと言う事を避けられるからでもあります」

クリストフの説明を受けてタニアが補足する。

「前衛の大半は魔力が人並みか少し多い程度なのさ。

だから日輪に弱い敵に光の矢を当てて下手に抵抗されたり、何発も魔法を撃つよりこうやって武器に宿した方がずっと効率が良いってことさ。

勿論いつもの剣より威力も増してるけどね。

魔力や魔法スキルレベルが高けりゃ威力もデカイからね、一撃で倒せる事もあるけど、どっちを使うかは状況次第ってことさね」


なるほど!弘樹は感動していた。

これだ!俺が習いたかったのはこーいうのだっ!

彼も謎の熱に取り憑かれたようだった。


個別のスキルの使い道は分かっても、それ以外の側面、例えば有効的な使い方は想像するか試すしかないが、こうして教えて貰えるとイメージもしやすく、他のスキルでもどう考えれば良いのかイメージしやすくなる。


「ところで抵抗って?」


「そんな事も知らなかったのかい?!

いいかい?

魔法ってのは自分の魔力を使って何かしらの現象を起こすことさ。

八柱魔法や神依魔法は神々への祈りと自分の魔力で現象を起こすし、異能も魔力を使って風を操ったり火を生み出したりするもんさ。

生き物には人間でも動物でも魔物でも、みんな意思があって魔力がある。

だからね、自分を害する魔法を喰らえば自然と抵抗してしまうものなのさ。

ほら、石が飛んできたら手で顔や頭を咄嗟に庇ったりするだろう?

あれと同じようなもんさね」


弘樹の問いに15歳の少女なはずのタニアは場末のオバちゃん口調のまま、十六那ばりの勢いで説明する。

魔法抵抗や魔法防御力みたいなものか。


「抵抗以前に光の矢を魔法剣で弾いたり、そんな使い方も出来るんです。

それと相手に耐性があると効果が薄かったり、無効化される事もありますね」

クリストフの話にタニアは大きく頷き、「相手を見極めつつ戦わないと痛い目を見ることもあるのさ。

あたいたちの知らない変なスキルやタレントを持った魔物だっているだろうしね」

なるほど!

再び弘樹は猛烈に感動していた。


「あのー、弘樹さんは小春さんと訓練した時、どんな風に異能を使おうとしたんですか?

もしかして、相手に直接何かを仕掛ける様な使い方でしたか?」

サムが弘樹の反応を見て何かを思い付いたらしい。

「あぁ、障壁はすぐに出せたんだよ。

でも動きを止めようとしたり、心を読んでみようとしたり…あっ」


弘樹は答えつつも、サムが何を言いたいのか気付いた。


「そうか、魔法抵抗があるから強く集中しなきゃ使えなかったのか」


後衛ならともかく、前衛として一対一で戦いつつも、合間合間に戦い以外に集中してたら、そりゃ発動する前に攻撃されて集中も途切れるよなー。

理屈を知らないからこその失敗だった。


「あとは慣れだと思います。

弘樹さんは普段から異能を使っていますか?

使い方によっては集中して時間のかかる場合もありますけど、例えば…」


サムは何気ない仕草で足元に指を突きつけると、あっという間に地面に小さな穴が空いていた。

それは集中すらしていない自然な仕草だった。


「異能系や身体関係のタレントは体の一部みたいな物だと思うんです。

ボクも最初の頃はうまく使えなかったんですけど、普段からある程度意識して使うようにしたらこんな風に使えるようになりました」


サムはそう話しつつも、土を盛り上げたり、粘土細工のように簡単な造形の動物や家の形にしたりしてみせた。


「弘樹さんてば昔から異能はあっても、殆ど使ってなかったんでしょ?

ならこれから毎日色んな事に使えばいいんじゃないの?

その様子だとマップも普段はまともに活用してないでしょ?

ちょっとマズイかもしれないよ」


それまで黙っていたリンウッドが、やや真剣な表情で近くの森を見、腰の小剣に手をかけながら語る。


弘樹も咄嗟にマップを開くと、そこには赤い光点が高速で接近してきていた。


「みんな、敵だ!」


弘樹は四人の前に立ち、赤い光点の主を探した。

新米冒険者たちも、皆服装こそ講習帰りのため普段着だが、最低限の武器の類は弘樹とサム以外は身に着けており、それぞれの獲物を構えた。


それは猛禽類の頭と翼を持ち、獅子のような身体をした魔物だった。

その嘴は大きく鋭く、前足は鉤爪状になっており、後ろ足は獅子のそれ。

牛や馬ほどもある巨体が、森の木々すれすれの低空を走るように真っ直ぐ彼ら目指して飛んでくる。


「グリフォンじゃないか!

霊格3の魔物だよ?!

こりゃまずいよ?!」


タニアの焦る声が弘樹の背後から聞こえてくる。

クェェーー!

グリフォンは一声鳴くと、一番前に立つ弘樹を標的と定めたのか、より速度を早めて迫ってきた。


直接的な力は弾かれるかも知れない。

ならばどうする?!

焦れば焦るほど何をすれば良いのか分からなくなる。


背後の新米たちの顔が次々と弘樹の脳裏に過った。

彼等は本来なら今頃町中の宿でその身を休めて居るはずだったろう。

明日の準備に勤しんでいたかも知れないし、屋台で買い食いをしていたかも知れない。

俺のせいか?

俺がヘタレた事を皆の前で言ったから?


タニアの言葉が事実なら弘樹が倒されてしまったら、霊格1で低レベルな彼らに為すすべなど無いだろう。


こいつ等は絶対殺させない!

弘樹の中で何かが切り替わった気がした。


それは鬼女と化した泉の女神と相対した時同様の、己の内側から溢れ出る何か。

今になって弘樹は気付いた。


受け入れたつもりでも、知らぬ間にセーブしていたのだ。

あるのに見ない、使わない。

誰も傷付けないよう、暴走しないよう。

あるがままとは全く異なる、セーブした力の行使に留まっていたのだ。


「俺達は餌じゃねーぞ?!

みんなの事は俺が守るっ!」

弘樹の声に答えるように、彼の数メートル前方に複数の巨大な障壁が展開されて空間が僅かに歪んで見えた。


グェェッ!

グリフォンは僅かな歪み、見えざる壁に気付き回避しようとするも、その勢いを殺し切れず、やや減速しつつも障壁へと激突した。


複数展開した障壁は撓む事すらなくグリフォンを弾き、10メートルほど跳ね飛ばした。


霊格3の魔物が早々自滅する筈もなく、即座に起き上がるとその目を怒りに爛々と輝かせて弘樹を睨みつける。


その怒りに答えるように風がグリフォンを包み込み、風が幾多の刃となって弘樹へと襲い掛かった。


「効かねーよ」

弘樹は平然と障壁で風の刃を受け止める。


「そもそもさ、その程度の風で俺の力を防げると思うなよ?」

弘樹はすっと威嚇するように翼を広げるグリフォンの右翼を指さした。


べキッゴキッ


空間が歪み、それに巻き込まれた右翼が歪み折れ血飛沫を上げる。


クォォォーッ!


突然の痛みに前足を上げて怒り狂ったように暴れるグリフォン。

風はより激しく渦巻き、風の刃の数も増した。


しかし弘樹は怯まない。

障壁はいくつか砕けて消えるも、弘樹がすぐに新たな障壁を作り出す。


「相手を見て襲ってこいよ?

なぁ、鳥頭」


弘樹は一歩一歩、まるで弱者を見下すような目を向けつつグリフォンへとゆっくり近付いた。


グリフォンの左前足や背中、左脇腹などに次々と先程の歪みが襲い掛かり、血飛沫や肉片が舞う。

魔物を覆う風はいつしか消え去り、風の刃も飛んでは来ない。


グルルルル…


グリフォンはその身を横たえつつも、近付いてくる弘樹を睨み続け、後ろ足に力を溜め込む。

弘樹はそれに気付きつつも平然と倒れた巨体へ近付いて行く。


舐め切った弘樹の態度にグリフォンの怒りはより一層高まり、その身から怒気が溢れ出たがそれでも彼の歩みは止まらず、後数歩の所まで近付いていた。


コロス!


弘樹の脳裏に一瞬、グリフォンの強い思念が過った。


グリフォンは溜め込んだ力で後ろ足を蹴り出し、無事な右前足の鉤爪で襲い掛かる。

しかし弘樹の姿はフッとかき消え、グリフォンの鉤爪は空を切った。


「やっばり鳥頭だな」


弘樹の冷淡な言葉を耳にしたその瞬間、グリフォンは何が起こったのか理解する事なく息絶えていた。


ふぅ、弘樹は大きく息を吐くと、新米冒険者たちの様子を見るべく振り返った。


彼等は驚愕の表情を浮かべて弘樹とグリフォンの遺体を見比べている。


やり過ぎたか。

弘樹の脳裏に薄っすら後悔が過る。

いざ戦って勝てると踏んだ弘樹は、高揚感に任せて彼等に習った事をあれこれ試してしまい、ついついやり過ぎてしまったのだ。


これじゃ力に溺れた化物じゃないか。


兄や姉の異物を見るような目、いや、あれは母のものか?

自分に向かって化物と叫ぶ母の声が脳裏に蘇る。


またやってしまったのか?

そんな思いが弘樹の胸中に広まった。


グリフォンはとてつもなく鋭利な刃物で斬られたように頭と上半身、そして下半身の三つの部位に分かれて転がっていた。

その身は光の粒子となって弘樹に吸い込まれて行く。


その姿を見つめる新米冒険者たちだったが、


「すっげぇー!かっけー!」

最初に復活したのはリンウッドだった。


「驚いたー。

って、弘樹さんアンタ余裕あり過ぎじゃないさ」

一瞬少女のような口調に戻ったが、すぐに場末モードになるタニア。


「なんだ、自然に異能を使えてるじゃないですかー」

何となく間延びしたような声を掛けてくるサム。


「ノーマン先生の言葉が分かったような気がします。

転移者とはこうも凄まじいものなのですね」

畏怖とも尊敬の念とも取れる瞳で見詰めてくるクリストフ。


新米冒険者たちはワイワイ言いながら弘樹の元へと駆け寄って来た。


「あ、れ?」

彼らの予想外の言動に少し戸惑いつつも、思わず顔がニヤけてしまう弘樹だった。


グリフォンのドロップ品はドラゴンより一回り小ぶりな茶色と金色の混じった魔石、捻れて歪んだはずなのに何故か元の状態で綺麗に切り取った様な一対の翼、同じく前足二本と綺麗な状態の獅子のような毛皮。

そして肉が500キロほどバナナの葉に似た物に包まれていた。

小瓶に入った血液も40本ほどあり、ドロップ品て一体何なんだろう?と思えて来る。


「グリフォンの部位って個別に見るとライオンと鷲を別々に倒したみたいになるね」

あえて触れないでおいた事をリンウッドが言い出し、あーでもないこーでもないと騒ぎ出す新米冒険者たち。 


弘樹は全てのドロップ品を回収すると、その中からグリフォンの血の小瓶を一本ずつ取り出して各自に渡した。

「少なすぎるかも知れんが、これはお礼と迷惑料だ。

とっといてくれ」


ドラゴンの血だと一瓶2〜300万円らしいが、グリフォンの血ならそこまで高くは無いだろう。

命を掛けて戦う彼等だからこそ、戦闘に参加していない状況で必要以上に高価な品を提供するのは失礼な事だと思ったのだ。

そう思っていた弘樹だが、

「こんな高いもん貰えるわけねーじゃん!」

「迷惑料とお礼って、こんな高価な物絶対にありえませんよ?!」

「はぁ、アンタ普段どんな生活を送ってるんだい?」

「だ、ダメです、こんな高価な物、手が、手が震えます!」

四人ともまたもや予想外の反応が返ってきた。


グリフォンの部位は薬効が高く、中でも爪や羽はそれぞれ最高級の薬品の素材となるらしい。

また武器の素材としても使えるのだそうだ。


勿論血液も同様で、弘樹の予想通りドラゴン程ではないものの百万円以上するのだとか。

正直な所予想外だったが、実際弘樹にとってはそれだけの価値がある特訓だった。

あんな技、皆にスキルやタレントの事を教えて貰うまで思い付きもしなかったのだ。


念動の障壁は攻撃を一時的に受ける程度の認識しかなかったが、意識してみれば見えない壁として、物理的にも魔法的にも攻撃を防げる事がわかった。


そしてスキルやタレントの掛け合わせを意識してテレポートと念動力、その二つを掛けてみると空間を歪ませる事が出来ると分かった。


対象はあくまでその空間であって、グリフォンではない。

それなら魔法抵抗などは関係ないと判断したのだ。


実際その歪みに巻き込まれたグリフォンはあの様な状態になった。


そして数度歪みによる攻撃を行う内に、空間を弄る事に慣れた影響か、空間を一時的に切り裂く事も可能となったのを悟った。


そこで鉤爪攻撃をテレポートで回避しつつ、グリフォンの居る空間を切り裂いてみたら三枚おろしになってしまった。

思った以上に凶暴な技だった。


「いやいや、皆にあれこれ教えて貰わなかったら、かなり大変だったんだ。これは本当に受け取って貰わないと困るから」

弘樹の様子にある程度納得した四人は、有り難く受け取る事にした。


家出をした者、ほそぼそとお金を貯めて冒険者となった者など、皆生活の余裕はなかったからだ。


今のランクでは薬草の採取や動物の狩りなどでギリギリの生活費を稼ぐしかない。


大部屋で雑魚寝は当たり前。

食事も安いパンやちょっとした惣菜程度で済ませたり、採取の時に食べ物を一緒に採ってきたりと日々の生活はカツカツだった。


初心者講習は命に係るような内容も教えてくれるらしい為、どうにかやりくりして参加したが、無駄な内容だったらどうしよう?と頭の片隅では思っていた者すらいた。


その講習会でこんな出会いがあるとは、彼等は思っても居なかったのだった。

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