彼等と自分を比べるな
彼等と自分を比べるな
「なお転移者の所属するパーティーの場合、転移者次第となる。
転移者が戦えるコンディションにないのに討伐へと向かっても浄化は出来ないからだ」
冒険者ギルドと言う名称ではあるが、実際には転移者がかなり優遇されているのが分かる。
それでも冒険者になる者がいると言う事は、何かしら理由があるのかも知れない。
弘樹は後で調べた方が良いのだろうと頭の中にメモをした。
「次いで採取だが、これは薬草や動物の部位、鉱石など様々な依頼の品を森や山、川など、時には異界化した場所、つまりダンジョンへ取りにゆく事だ。
勿論魔物に襲われるなどの危険はあるが、採取しに行くエリアによって危険度は異なる。
また薬草採取などは必要な部位や採取方法、保存方法などが細かく決まっているので依頼を受ける際に注意するように。
また動物の血抜きや必要ない部位は深い穴を埋めて埋める、燃やすなどの措置を必ず行う事。
悪霊が憑依してアンデッドなどになったり、近隣の魔物を呼び寄せる事にも繋がるからだ」
薬草や木の実など、森の浅い地域での採取なら村や田舎町の子供でも行っているし、死骸の処理も当たり前なのだろう。
特に質問する者は居なかった。
「なお、冒険者ギルドを通さずに直接商人等とやり取りする場合、査定や契約内容などはきっちりと行うことだ。
どちらとも取れる書き方をされて大損をした冒険者もそれなりに居るからな。
相当酷い場合には冒険者ギルドから抗議や何らかの対処をする場合もあるが、原則としては自己責任の範疇だと考えてくれ」
ノーマン本人も苦い経験があるのか、苦々しい表情を浮かべつつ説明していた。
「次いで調査だがこれは原則現地を調べるケースだな。
森で見掛けた魔物が何処に生息しているのかや、先程話に出た場合の事後調査などだ。
痕跡の確認や証拠品の確保など、達成条件は様々だが、冒険者ランクの指定基準以外にも基本的に素行が良いと判断された者しか受けることは出来ない。
小さな嘘がとてつもない被害を生むこともあるからだ」
それは何となく納得出来ると弘樹も思った。
恵那と金を得る為に見掛けた魔物たちに襲われたと嘘の報告をして討伐してしまったり、事件性のある調査で犯人に抱き込まれたり。
軽く見て回るだけで戻り、実は重大な事を見落としていたり。
下手をすれば調査結果を信じていたら、魔物の群れが襲って来たなど冗談でも許されない。
「護衛も同様に信用第一だ。冒険者にしても転移者にしても信用を失えば顧客から断られたりする事は普通にあるからな。
で、護衛だが商人や商隊の街や村を移動する際の護衛、住民が何らかの事情で村や町を移動する際の護衛が基本だ。
一般的には王族や上位貴族などの要人護衛は国軍や私設軍、元々の護衛などが行う。
ただし、魔物の出没するエリアなどを通りたいなどの場合、護衛として転移者や冒険者が雇われる事がある。
また私用で移動する際にも貴族が雇う場合がある。
期間限定の身辺警護は受ける事もあるが、長期的な物は原則受け付けていない。
我々は衛兵でも傭兵でもないからな。
さて、ここまでで質問が無ければ昼休みを挟んでスキルやタレントの説明をしたいと思うがどうだ?」
護衛時など各依頼に役立つスキルを聞こうと思っていた小六月の面々だったが、別途スキルの説明があるならばと質問はせず、お昼休みとなった。
このまま会議室を使って弁当を食べても良いし、近場で昼を済ませても良いらしい。
弘樹と貴彦は席を立ち、何か食べに行こうかと思ったが、小春が昨日訓練用品を購入するついでにあれこれ買ってきたと言う事で、皆でそれを食べる事となった。
亜空間収納は時間が凍結するらしく、氷を入れても溶けず、温かい物は温かいまま出し入れ出来る。
香辛料をまぶして肉を焼いた物や川魚の串焼き、梅干しのおにぎりなどを次々と取り出す小春。
流界者か転移者の知識なのか、割り箸やちょっとした容器も存在しており、材料は不明だが水筒や魔法瓶なども存在している。
思わず買っちゃいましたと取り出した魔法瓶には熱々のコーヒーが入っており、同じく亜空間から取り出したマグカップに注ぐ。
弘樹と十六那はブラック派だが、小春と貴彦は砂糖とミルクを入れたい派だった。
しかし流石にコーヒー用のミルクは見当たらず、少量の牛乳と砂糖を入れて飲んでいた。
多分お金を持たせたら駄目なタイプだなと、小春の買いっぷりを見て思う弘樹だった。
ノーマンとクリストフ、そして唯一の女性受講者も会議室を出ていったが、サムと言う少年と日本人にも西洋人にも見える少年の二人が残り、特に何を食べる訳でもなく机に寝そべっていた。
小春は二人が気になるのか、ちらりと弘樹を見る。
仕方ねぇな。
弘樹は席を立ち、少年たちの元へと向った。
「君たち、サム君とえーーっとそこの君」
ハーフっぽい少年の名前を聞いていない事を思い出した。
「少し教えて欲しい事があるんだ。
俺たちはこちらに来たばかりだからあれこれ珍しくてね、メンバーが余分に買ってしまったらしく、もし良ければ話を聞かせてもらいつつ一緒に食事をしないか?
お礼は食事だけだけど」
と声をかけると、二人はそれぞれ、「いいんですか?」「まぁ話すだけなら」と弘樹と共に小六月の面々が居るテーブルへとやってきた。
適当に空いている席に座ると、小春や貴彦が食事や飲み物を勧める。
それらを口にしながらも、弘樹は早速質問することにした。
「俺たちはこの世界の事は殆ど知らない。だからこそ何が失礼になるのか分からない。俺たちの常識とは違うかも知れない。それを前提に聞かせて欲しいんだが、大丈夫か?」
弘樹の言葉にサムと少年、リンウッドと名乗った、は肉や魚を頬張りつつ頷いた。
「俺たちの国では、例えば親が農家でも子供は街に出て働いたり、商店の子供でも店を継がないで別の仕事をするのはよくある事なんだ。
こちらではその辺はどうなっているのかな?
それに冒険者は命懸けだ。
それを目指す人たちの理由は様々だろうけど、ギルドを見ていても冒険者がかなりの人数居るように思う。
何か理由があるなら教えてもらえないだろうか」
弘樹の素直な問いかけに、リンウッドが口を開く。
「オレは親父が日本からの流界者なんだ。
だから何となくその辺の話は聞いてるよ。
お前も好きな仕事を探せって言われてたし。
ここだと貴族も農家も店も、大抵は長男が跡を継ぐんだ。
女の子しか居ない家は婿を取るか親戚なんかから次男以降の養子を取る事が多いらしいよ。
ま、貴族もぴんきりらしいから詳しくはわかんないやー」
リンウッドの言葉を次いで、サムが農村の状況を語る。
「農村だと跡取り息子や跡取り娘以外は成人したら家を出ます。
家にもよりますけど、大抵三人から五人は子供が居るので畑も部屋も足りませんから。
たまに村の職人さんに師事したり、跡継ぎの居ない家や店などの仕事を任される事もありますけど、大体は村から出て伝手や親戚を頼って仕事を探します。
急に雇って欲しいと言っても、なかなか仕事なんてありませんから」
数日前までハローワークに通っていた自分を思い出し、何だかしみじみとした気分になる弘樹だった。
「そうなると冒険者を目指す人が多いのって職探しの一環なのかな?」
その言葉にリンウッドとサムは微妙な表情をした。
「なんてゆーか、成人までに三回ステータスを見てもらえる話、サムがしてたでしょ?
あれで夢みる人も出てくるし一攫千金狙う人もいるけど、冒険者ってステータスを上げやすいしコネも作りやすいんだよね。
タレントとか自分が冒険者向きかどうかも何となく分かるし」
と、語るリンウッド。
「ボクは普通の農家の五男です。
跡も継げないし養子の口もコネもない。
開拓村もまだ成人したばかりの非力な人間より、部外者でも開拓や農業をちゃんと出来る人を求めてます。
タレントに剛力と頑健があるので見た目よりかなり力はあるし頑丈なんですけど、あるのは日雇いや期間の決まった力仕事ばかりで。
なら冒険者として経験を積んで、別の仕事を探すにしてもこれで食べて行くにしても頑張ろうと思って」
リンウッドの話に同意しつつ、サムは自分自身の事を話してくれた。
正直な話、いざとなったらバイトで食いつなごうとか、定年まで平でもいいから適当に生きていこうと思って働いていた事を思い出し、何だか恥ずかしくなった弘樹だった。
「オレはさ、さっき言った通り流界者の息子だから母方しか親戚はいないんだ。
平民の娘だから特にコネもなし。
子供はオレだけで兄弟はいないけど、継ぐ家も仕事もないんだよね。
ここより小さな町の生まれだけど、やっぱりそんなに仕事はないし。
親父はあれこれ日本の知識で稼ごうと思ったみたいだけど、何かのプロだった訳じゃないし、他の流界者がこっちでもうやってたりする事が多かったんだ。
ただ流界者は転移者ほどじゃないけどギフトやステータスがこっちの人より良い物が多いらしくて、一時期冒険者をしてレベルを上げてから、来た時に貰ってた亜空間収納とマップを使って物流関係の仕事でそこそこ儲けてたんだけど、オレは亜空間収納ないから継ごうにも継げないんだよね。
マップは受け継いでたからさ、子供の頃から近所の猟師さんに弟子入りして、ある程度スキルを上げてからこっちに来たんだ」
色んな意味でハーフな少年だった。
弘樹は二人の生い立ちを聞いて、これが全てとは言わないまでも、何となくこちら側の生活の一端を理解できた気がした。
昼休みも終わり、午後からはスキルやタレントについての講習となった。
講師は午前中同様ノーマンが担当するようだ。
「タレントとスキル、似た要素もあるが別物と言う意見が大半だ。
その理由の一つに特殊な能力がある。
水使いや風使いの様な異能系、頑健や剛力、敏捷強化や戦士の才能など、何らかのスキルや魔道具で真似は出来ても、スキルのように新たにポイント消費や修行では覚えられないものが多いからだ。
中には同系列の物や環境の変化などから新たに覚える事はあるらしいが、それも本人が選ぶ訳じゃなく気付けば得ている、そんな能力が基本だとされている。
ただし何故か錬金術など一部のみだが、スキルとしてもタレントとしても同じ物が存在しているケースもある。
前提条件も同じらしいが、これも詳細は分からない」
ノーマンの説明に十六那は「バグね」と小さく呟いたのが近くに居た小六月の面々には聞こえていた。
十六那も何かしら思う所があるのだろう。
下手に突っ込むと面倒そうなので皆あえてその程度の認識に留めていた。
タレントはまさに先天的もしくは個人資質の発現なのだろう。
小六月の面々も一部疑問な物もありはするが、タレントの大体は性格や戦闘スタイルなどに即しているように思われる。
「タレントもすでに持っている場合フリーポイントでレベルを上げることが出来るし、スキル同様に経験などによって上がることがあるのも同じだ。
レベル上限もこれから話すスキルと同じだ。
次はスキルだが、一般的には生産や知識、戦闘に魔法、補助などに大別される。
つまり一般の人々も勉学や修行、仕事を行いながら自然に、或いは意図的に覚える事が出来るものだし、フリーポイントを使っても取得可能だ。
これもレベルがあり、1が最低値、10が最高値となる。
とは言え一般的な生活をしているならば普通は高いスキルでもスキルレベル3か4、高くてもスキルレベル5で人生を終える者も多い。
逆に才能や資質が高ければ、短期間で上がることもあるし、より高くのスキルレベルを持つ者もいる。
特殊な武器防具などを作れる鍛冶師や錬金術師などもここに含まれると思っていいぞ」
特殊な装備を手に入れるのは大きな街などへ行かないと難しい理由がこれだ。
ノーマンは再び黒板へチョークを走らせ、何やら書き始めた。
「これはスキルレベルの目安だ。
色々な系統があるが冒険者ギルドでは職人の例を目安としている」
そう言いつつ書き出されたのは、
1〜2 新人
3〜4 一般的な職人
5 親方
6 超一流職人
7 匠
8 巨匠(大規模な国に一人いるかどうか)
9 神がかり 大陸に一人いるかどうか
10 その道の神の子。世界で2〜3人いるかどうか
というものだった。
8から10が何やらとんでも無い事になっているが、それだけ取得の難しいものなのだろう。
確かに一時的に冒険者になり、スキルレベルを上げたくなる気持ちもわかる気がする。
レベル4か5もあれば食うには困らない位の腕になるのだろうし、フリーポイントを得やすい冒険者なら数カ月から数年でたどり着くだろうと思う弘樹だった。
貴彦もかなり真剣な表情で話を聞いており、ボールペンでノートにメモを取っている。
その姿を見て、あんな物もリュックには入っていたのかと感心してしまった弘樹だった。
「なおスキルはフリーポイントを使っても急には上げられない。
1レベルか2レベルを取得して、そのまま3レベルや4レベルを取ろうとしても資質などに影響はされるが大抵は弾かれる。
これはカード登録前に持っていたスキルも同様だ。
例えば持っていた剣術レベル3をレベル4やレベル5へ上げられる可能性はあるが、大抵はレベル6や7へは上げられない。
その後あれこれ経験した後、再度試すと可能になっているそうだ。
我々の体は恵那で構成されているが、スキルやタレントのレベルアップは恵那を弄る事で起こる事らしい。
なので一気に大幅にレベルを上げてしまうと体の負担になるからではないかと一部の学者は考えているそうだ。
ここまでで何か質問はないか?」
ノーマンの問にリンウッドが挙手をした。
「オレの親父は流界者で亜空間収納やマップのギフトを持ってました。
オレはマップだけ受け継ぎました。
一部のギフトやタレントは、他のスキルで真似出来るそうですが、亜空間収納の真似を出来るスキルはあるのですか?」
リンウッドなりに敬語を使いつつの質問にノーマンは「あるぞ」と答えた。
「かなり取得は難しいが、空間魔法の類だな。
それも最初は普通の鞄程度の広さらしい。
時間の凍結や収納可能な広さを得るのにかなりのレベルが必要になるらしいが、詳細は分からない。
魔法に詳しい人に訪ねてみると良いかもしれないな。
普通に聞いても教えては貰えないだろうが、依頼なら可能だろう」
やっぱり金とコネかとリンウッドはぼやくが、その表情は明るかった。
「さて、このタレントとスキルだが複数のスキルの合わせ技を使える事がある。
例えば剛力に筋力上昇の補助魔法をかけるなどだな。
あとは単純に普段使っている剛力と剣術などの組み合わせも実は合わせ技と言える。
使える組み合わせなどは試してみるしかないな。
魔法や異能だとそれぞれの補助、例えば詠唱短縮で呪文を短くしたり、本来単体に攻撃する魔法を複数にする等のスキルがあるそうだ。
なおより高位な合わせ技が錬金術と錬成だ。
錬金術のみでも時間を掛ければ作れるが、それを錬成する事であっという間に作り出す事が出来る。
ただし作る物によってそれなりに魔力を消費するそうで、大量生産には向かないと言われている」
小春がドラゴンと戦った際に使用した神速化、あれもまた合わせ技と言う事だろう。
錬金術と錬成に関しては再び貴彦が真剣な表情でメモっている。
「それとスキルの種類だが、似た物を含めてとんでも無い数がある。
例えば異能と魔法、それぞれ補助は別のスキルになる。
また武器戦闘でもスキルの剣術で剣を扱うのが一般的だが、スキルの武器戦闘でもある程度扱える。
武器戦闘は様々な種類の武器を使える反面、強打や受けなど使える技が少ない。
剣術だと剣を使った技のみだが、技の種類は豊富だ。
つまり似ているが実は浅く広くな物と専門化した物があったり、中にはその人だけのスキルが生まれる事もある。
知識もそうだな」
ノーマンはつらつらと説明を続けてゆく。
「それとな、例えば鷹の目の様に視力向上のスキルがあるんだが、弓や投擲などの補助として使える他、探索や索敵にも役立つ物だ。
つまり使い方によっては幅広いものがあるってことだな。
で、冒険者が一般的に必要とされるスキルだが、前衛後衛などで差はあるものの大体皆が取得しているって物はある」
と再び黒板に複数のスキルを書き始めた。
製造
薬品作成 武器作成 防具作成 調理
錬金術 錬成など
知識
魔物知識 薬草知識 鉱物知識
雑学 野外雑学 宝物知識など
戦闘
格闘 武器戦闘 剣術 棒術 棍術
杖術 槍術 弓術 投擲術など
魔法
八柱魔法 神依魔法 治癒回復魔法
補助魔法など
補助
忍び足 探索 話術 マッピング
毒感知 指導 罠発見 罠解除
隠密 聞き耳 追跡 鷹の目 暗視
闇視
敵感知 看破など
「まず製造、これは物を作るスキルだ。料理などは無くても作れる訳だが、料理上手や店を出せるレベルだとこれが重要だ。手早さやアレンジなどもここに含まれる。長期の野外活動やダンジョンなどでも活躍する事が転移者の活動で判明した」
やはり食のこだわりが強い者がいたのだろう。
硬いパンや干した果実、干し肉や魚の干物ばかりだと肉体的にも精神的にも疲労する。
狩りなどで素材その物が手に入っても調理出来なければ不味いそうだし。塩を振るくらいは出来そうだが。
冒険者の多くは亜空間収納を持たないし、あっても非常時で材料しか入っていない事もあるだろう。
弘樹や貴彦は数多のグルメ要素があるラノベを思い出した。
「この他武器防具の作成スキルがあれば、応急修理や適度な手入れ等が可能になる。
後ほど説明するが予備の武器を持つことも重要なんだが、今ある武器を活かし続ける事も重要だ。
何しろ収納の類が無ければ水や食料など嵩張る物も多いから、かなり荷物は厳選しないとならない。
そうなると予備武器も限られた数しか持てない訳だ」
小春の場合、対ドラゴン戦では小太刀が灰になってしまったので修理どころでは無かったが、刃こぼれやちょっとした歪みなど、簡易的に修理可能なら確かに有り難いだろう。
「そして知識だ。
これは直接的には使えない物もあるが、実はかなり重要な物だ。
魔物知識なら習性を知っていたり弱点が分かることもある。
特殊な攻撃をしてくる魔物も多いからな。
それを知っているかどうかで生死に関わる重要なスキルだ」
知っていても倒せるかどうかは別として、知っている事で有利に動ける事もある。目を見たら石化とか知らなかったらパーティー全滅もあり得るだろう。
「また薬草や薬品に詳しければ採取に有利だったり、状態異常への対処、異界で得た薬品を調べる事も出来る。
鉱石なども特殊効果がある事もあるし、薬品などと同じく使える。
さてこの雑学と野外雑学だが、実はこれもそこそこ使える事が分かった」
ノーマンは転移者の面々をチラリと見る。
多分この発見も転移者絡みなのだろう。
「専門家ほど詳しい理屈は分からない反面、広範囲の知識を網羅している物だと思ってくれ。
例えば毎日何冊も専門性を持たずに本を読むと、深い理解はしていなくても大まかにあれこれと知識が蓄積される事がある。
詳しい理屈は薄ぼんやりとしているが、確かこんなの見た事ある、聞いたことがある、そんなレベルの物でも案外役に立つものだ。
逆にいうと専門的な部分は全くわからないのだがな」
弘樹自身も持っているスキルだが、何となく言っている意味は分かった。
普段普通に生活している中でも、小説からの知識やドキュメンタリー番組や医学バラエティなど、何気に見たり聞いたり読んだ事が役立つこともある。
インターネットの普及で情報も調べやすくなっていたが、この世界はテレビもインターネットも存在しない。
図書館や本屋もある程度の規模でなれけば存在しないだろう。
なお昼に現地人である少年二人に聞いたが、製紙技術や印刷製本の技術はそれなりにあるらしく、一般的な中世ファンタジーに比べればかなり安価であり、識字率も神殿などが授業を行い、それなりに高いそうだ。
それでも生活費などから考えると相場としては高いのだそうだが、イメージしていたよりは安かったのだ。
「そして野外雑学だが、これもある程度使える。
食べれる実や草を探したり、動物の足跡などを探したり、簡易的にだが方角を調べたりだな。
ただここで言えるのはあくまでも汎用と言うことだ。
足跡を見つけても探索スキルほど細かい情報は得られない。
追跡も不可能と見ていい。
裸足の人間に似た魔物の足跡だが、それがどんな魔物かは分からない。
そんなアバウトなものだな」
あるとお得、ヒント程度にはなる、そんなスキルのようだ。
「宝物知識はダンジョンなどを専門にしているパーティーなら一人は持っていないと厳しいな。
それに敵対者などが持っている特殊な武具などの性能を知ることも出来るだろう。鑑定があれば大体は必要ないんだが、鑑定は簡易的な説明中なので深く知るにはこちらだな。
売値なども大体分かるので買い叩かれにくいというのもある」
鑑定では大まかな説明と性能しか表記されない。
価格価値やフレーバーテキスト的な事以外は分からないが、それに詳しければ何らかのヒントとなり得るし、単純に損をしにくくなる。
確かに重宝するスキルなのだろう。
「なおフリーポイントでスキルを1でも得ると、何故か知らないことを知っていたりと言う事が起こる。
これは戦闘関係や探索などもそうだな。
これも恵那による影響らしいが詳しい事は分かっていない。
次は戦闘系だが、剣術、槍術のように武器を特化した物と、投擲や武器戦闘のように複数の種類の武器を使える物がある。
単純に言えば極めた方が強くはある」
そこで言葉を切り、小春とクリストフへと目を向けた。
「しかし鍛冶の所でも説明したが、汎用性というのは捨てがたいんだ。
冒険者の立つ地は戦場ではない。
そもそも戦争の大半は神々の介入でほぼ起きないが。
例えば魔物は草原など開けた場所に居るとは限らない。
槍はリーチなどの問題で初心者でも使い勝手が良いし強い反面、木立の多い森の中や狭い洞窟では使えない事も多い。
大きな剣や振りの大きな鈍器もそうだな。
大きな武器や重い武器は威力も大きい反面、地形などの環境で左右されてしまう。
狭い環境で振るえない時にはナイフ等で戦う必要性も出てくる。
また刺突や斬撃が有効打になりにくい魔物も存在している。
スケルトンやガーゴイルなどだな。
この手の魔物には鈍器の方が有効だ。
我々は冒険者だ。
中には強い拘りを持つ者もいるが、基本的には剣聖などを目指している訳ではないだろう。
いかにして勝ち、いかにして生き残るか。
その為の手段としては複数の武器を使用出来たほうが良いこともある。
これは勿論後衛もそうだ。
咄嗟に回避する、詠唱が難しい場合には最低限の動きや武器による戦闘が出来なければ命を落とす危険性がある。
魔法も武器の一つだと思えばいい。
あとは立ち回り、立ち位置などを体で覚える上でも前衛職をある程度理解していた方が、タイミング的にも支援や回復をしやすいだろう。
事前情報などを調べた上で必要な武器防具を選択することも大事なことだ。
金属鎧などは確かに丈夫だが、動きが鈍くなりやすく音もするので調査や探索、水辺などでの戦闘には向かない。
この他にも香水の類、匂いの強い食べ物など注意すべき点はある。
また体臭も人間を食らう魔物は敏感に反応する」
ノーマンは転移者の面々と受講生を見回し、
「生き残りたければ不要なこだわりは捨てろ。
武器や防具に愛着を持ち過ぎるな。
命より大切な物など冒険に持ち歩くな。
逃走の際、愛用の武器を拾いに行き殺された者がいる。
騎士の出で没落した家の再興の為にと、先祖伝来の金属鎧を意地でも脱がずに湿地帯へ赴き帰らなかった者がいる。
思い出の品の為に帰らなかった者もいる。
家族や友人、仲間の事を思うならまずは生き残れ。
生きて街へ戻ってこい!」
そこで言葉を区切り、彼は冒険者たちを見据えた。
「新米冒険者たち、お前たちは転移者を真似るな!
比べるな!
彼らは界を超えた時点で霊格が向上している。
神々からの祝福も我らが与えられた物より強力なものが多い。
スキルもタレントも段違いな場合も多い。
目指すのは構わない。
憧れるのも構わない。
しかし彼等と自分を比べるな。
何人かの中級と言われる転移者と依頼を受けたことがある。
彼等はその力故に無理が効く。
無茶が通る。
ある転移者は剣で洞窟の岩ごと敵を切り裂いた。
ある転移者は小石でゴーレムの頭を吹き飛ばした。
そしてある転移者は傷一つ負うことなく神速でドラゴンを斬り殺した。
今の俺は霊格2、レベル61、冒険者歴は15年になる。
だが…何をどうすればそんな事が可能なのか全く分からん。
超えられない壁がある事を知れ。
そして生き残れ。
目の前にいる転移者は単なる人ではない。
神に近い存在、亜神のような方々なのだと思え」
帰らぬ友を思い出したのか。
目の前で決して手の届かぬ高みを見て絶望したのか。
ノーマンは自らが興奮しているのを自覚していた。
「以上で初日の講習は終わりとする。
探索系と魔法に関しては明日の講習で実技を見せつつ説明する。
明日は北門前に朝八時集合だ。
日帰りもしくは一泊予定だが、装備や食事は十分に整えて来い。
以上だ」
急に熱く語った講師にポカンとしていた新米冒険者たちは席を立って「ありがとうございました」と頭を下げ、亜神とまで言われた転移者たちは気不味い気分で礼をする。
ノーマンは転移者たちの前を通るとき、微かな声で「すまん…」と呟いた。
「気にすんな」
弘樹は何となくノーマンにそんな言葉を掛けていた。




