あったんだよ
あったんだよ
村長宅へ挨拶を済ませ、小春日和の一行はラクヨの街へと向かった。
途中十六那がパーティー名を変更しようと言い出し、小春日和から小六月へと変更することになった。
小春はホッとした様だった。
マップの確認など辺りを警戒しつつ、スキルや冒険者ギルドですべき事も話し合い、途中野生の猪の襲撃を受けて撃退し亜空間収納に入れたりしつつ、ラクヨの街に辿り着いたのは昼過ぎ頃だった。
門番には兵士の倉田もおり、挨拶を交わしつつギルドカードを見せて通り、そのまま冒険者ギルドへと直行した。
受付には先日依頼を受ける時に居た受付嬢がおり、必要書類を提出して状況を説明した。
百を超えるゴブリンと進化種やドラゴンによるゴブリン襲撃など順を追って話すと、受付嬢の表情は固くなり、
「少々お待ちください」
と席を立った。
受付嬢と共に来たのは先日登録などを担当してくれた加藤だった。
確か受付部門の統括者だったはずだ。
「皆様、初の依頼達成おめでとうございます。
それと少々お伺いさせて頂きたいことがございますので、どうぞこちらへ起こしください」
と声を掛けられ先日通された応接室へと案内された。
椅子を勧められて座るとお茶が出され、それを飲みつつ話は再開された。
「つまりドラゴンの卵を何らかの理由でゴブリンが盗み、ドラゴンが取り返しに来て半数以上のゴブリンは殺されたと?
そしてそのドラゴンを討伐したという事ですな?
そのうえ生き残ったゴブリンに魔法を使う進化種のような物が居たが、それ含めて全てのゴブリンを退治したと、そういう事で間違いありませんか?」
ドラゴンの割れた卵を証拠品として提出したが、部屋が臭いで酷いことになりまた収納する事になった。
この他に魔石などの証拠の品があるので疑われた訳ではなく、森の危険度などを再度調査し危険度を検討する必要性が生じてきたのだろう。
ドラゴンがそう何匹もいるとは思えないが、自分たちが一般的な転移直後の転移者だったなら、今生きてはいないだろうし。
結局ゴブリン関連は魔石など通常のものや進化体の売却、調査や討伐費などで合計74600円だった。
それとは別にドラゴンの魔石を3000万円、角も一本3000万円で売ることになった。
魔石は主に魔道具の電池的な物に、角は武器防具の材料や薬、魔術の媒体などになるそうだ。
もう一本の角は小春個人の物だし、皮や鱗、牙に血液、肉は後々なにかに使えるかも知れないので売らないことにした。
6,0074,600円の収入となり、2000万プラス74,600円はパーティー資金にし、残りの4,000万を1,000万ずつ四人で分ける事となった。
「あの、通常よりも高品質だったり、特殊な材料を使った装備品はこの街では購入出来ないのですか?」
弘樹が前衛を目指す以上、先日冒険者ギルドで購入した通常の小剣や短剣では確実に役不足だった。
念動力を併用する事が前提なので、加減を間違えて壊してしまう可能性もある。
戦闘面での師匠になる予定の小春は、まずそこを確認しようと思い加藤に訪ねた。
「町の規模や産出される鉱石によっても鍛冶職人や錬金術師の腕は変わってきますが、ラクヨですとレベル3から4の者が殆どです。
高品質な通常の装備は作れますが、ドラゴンなど上位の魔物素材や特殊金属を使った品物もなると、5レベル以上の鍛冶師や錬金術師が必要になります」
加藤は現在の街の装備品事情を語る。
「レベルの高い方々が作る品は高価になる物が多く、月平均収入十万円の者では購入が難しく、冒険者も中級者が多い町ですからそこまで高価な装備は買えません。
結果鍛冶屋としても生活が難しくなるのです。
貴族の多く住まう都市や特殊金属が産出される地域の町、あとは魔物の出現頻度や格の高い物が出る町ですと事情も異なるのですが」
日本でも小さな街に大きなデパートや有名ブランドの店などが殆ど無いのと理屈は同じだ。
第五都市とは名乗っているが、未だ開拓途中のこの町には特殊な品よりも一般的な物が遥かに需要が高いのだ。
「そのため冒険者や転移者、武具収集が趣味の好事家など誰かが手放すか、異界化したダンジョンなどで手に入れた品々が出回る程度なのです。
ただダンジョン産は良い武具なら手に入れた冒険者や転移者の方々がそのまま使う事も多いですから…」
確かに武器防具などの装備品は自らの命に関わる品だ。
今小六月の面々が求めるのと同様に、例え霊格が低くともそう手放すとは思えない。
「ですので高位の霊格やレベル帯の方々ですと、西部では第一都市。
国全体で言えば王都や他のエリアでも第一第二都市、特殊金属鉱山や多い地域近郊の都市が高レベルの鍛冶師や錬金術師の多い所となります」
「先程から鍛冶師の他に錬金術師の話が出ていますが」
加藤の話を聞いていて、貴彦が感じた疑問を口にし始めると、はたと気づいたように加藤が口を開いた。
「申し訳ありません。
ドラゴンすらも倒せる方々ですので、当方も勘違いをしておりました。
こちらにいらして数日。
レベルや霊格に比べてこちらの世界の知識が少ない、ごもっともです」
ペコリと加藤が頭を下げる。
「錬金術はそうですね、魔法的な職人や学者、薬師などの総称として使われる事が多いのです。
例えば家庭などで使われている普通の薬品は、数種類の薬草や鉱物等を使って作られますが魔法的な効果は薄いです。
しかし治癒ポーションなどは飲んでも塗っても効果がすぐに出る、つまり回復魔法の様なものです。
皆様方がお持ちのポーション類も魔法薬と言うことになります。
その殆どは錬金術師が薬草などから作るか、薬師が薬草に魔石や特殊素材を一部を混ぜ、魔力を込めて魔法薬を作っています」
ここまでは皆理解できたのを加藤は確認した後、続きを話し始めた。
「なお錬金術は例えば薬品なら、薬草知識や薬学など何かしら関係あるスキルやタレントを取得前提として必要になります。
武器や防具を作る錬金術は前提として武器鍛冶スキルや防具鍛冶スキルも持っているのです。
また薬師では作れない錬金術師のみの薬品も数多く存在していますし、武器防具やアクセサリー、魔道具も同様です。
この為、同じ物を扱う場合、錬金術師の方が上位とされています」
貴彦のタレントにある錬金術もその類なのだろう。
元々癒しの手を持ち、薬草知識も持っていた。
それが影響して取得したのが錬金術:薬品だということだ。
「また錬成のスキルを使えれば材料のみで薬品も武具も作れますが、完成品もさる事ながら工程をイメージ出来ないと精錬スキルを発動させる事が出来ません。
それに錬成のスキルレベルも仕上がりに影響いたします。
ですから例え薬師レベル10、錬金術:薬品レベル10があったとしても、錬成1レベルではそれなりの薬品しか作れないのです。
勿論通常通り作るなら最高峰の薬品が作れますが、物によっては何日、何ヶ月もかかる上に機材も大量に必要になります」
ゲームで言う取得前提スキルや下位、上位クラスのようなものだろうと貴彦は納得した。
スキルツリーが存在し、上位のスキルを得る為には下位のスキルを複数取得する必要がある。
もしくは下位クラスを一定以上上げないと上位クラスになれない。
そんなゲームは何気に多い。
貴彦のやっていたゲームの中にも多少なりとも存在していた。
また下位スキルや下位クラスも製造には欠かせない物があり、上位だけ高くしても成功値が低くなる等弊害があるゲームもあったのを思い出す。
「ただし、フリーポイントを使えばその限りではありません。
これは錬金術に限らず、戦闘や魔法などのタレントやスキル、能力値も同様です。
通常修行や経験によって得られるスキルやタレントですが、フリーポイントを使うことで新たにスキルを得たりそれらのレベルをある程度上げることが可能なのです。
ただし個人差なのか実際の経験が結局は必要なのか、大抵は一気に高いレベルを取ったり能力値を一気に上げる事は出来ないのです」
多少なりとも制限はあるという事だ。
ポイントが余っているからと全て0から鍛冶10、錬金術:武器鍛冶10、錬成10を一気に取って、あっという間に世界最高峰の武器鍛冶錬金術師誕生!などは無理と言うことだ。
なお錬成は薬品や武器など複数取得する必要はなく、錬金術なら全て関係なく使用可能なのだそうだ。
また今の話だと弘樹が前衛を目指しても、一気に剣術10、筋力20などの上げ方は出来ないと言うことだった。
罠発見など1レベルでも霊格が高い為かなり使えたので、それほど困る事でもなかったが、同霊格の敵とは当分渡り合う程の実力を持つことは難しいらしかった。
霊格4の敵などそうそう出没しないそうだが。
貴彦、弘樹、そして弘樹の師匠を目指す小春はそれぞれ今後の事をあれこれ考える必要があるようだった。
その後、小六を冒険者ギルドに従魔登録し、小春のガードにも追記してもらう。
従魔の証となる品々は複数あり、首輪を選んで受け取った。
魔物には様々な形態やサイズが存在するため、ネックレスにブレスレット、伸縮自在など証の種類も豊富だったのだ。
小六の首輪も伸縮自在系の物だった。
成長する都度買い換えるのは流石に大変だったのでそれにした。
登録に一万円、特殊な首輪に十万円ほどかかった。
そして改めてパーティー名を変更したい事を加藤に話し、小春日和から小六月へと正式に変更してもらい、カードの訂正をしてもらう。
小春が霊格3になった事もカードでバレ、ちょっとした騒ぎになったが、そこは適当に流しつつ加藤に現状の問題点を話すことにした。
なお、スキルの件も含め、探索のいろはも分からないので、講習会などに参加したい、それが難しいなら講師として冒険者か転移者を雇いたい事も加藤に話した。
毎回ドラゴン級の敵と戦う事もないだろうが、洞窟や遺跡、護衛の常識に野営の常識など、何もかもがよく分からない。
必要なスキルすら分からないので下手に取得し、死にスキルだらけで残りポイント0など笑えない。
王都や第一都市など、大きな所に初期の転移者の多くは飛ばされるため、ラクヨでは転移直後向けのノウハウが無く、専門の指導員もいない事が判明した。
現在ラクヨで受けられるのは初級冒険者向け、つまり現地人向けの基本講習程度しかなかったが、現地の人はスキルなどの事をある程度理解している事も多いかも知れず、求めているものと一致するとは限らない。
それでも参考にはなるだろうと明日から座学実技込の5日連続で行われる講習会に参加登録することとなった。
一行は以前泊まった冒険者ギルド直営の宿へ向かい、先日泊まった部屋が空いていると言うので5日間泊まる事にし前金を支払った。
部屋に入るとアークエット家でコルトンを助けた際と、ドラゴン及びゴブリン討伐後にもらった革袋の中身を確認すると、どちらも大金貨が十枚ずつ計二百万円入っていた。
かなりの太っ腹である。
ただしドラゴンの血は小瓶一本でも二〜三百万するらしく、十六那個人からすると損をしているのだが、お代はちゃんと頂いたので問題ないと本人は主張している。
あの時の十六那は他のメンバーにとってもかなり怖かったので、余計な事を言うのは止めておこうとそれぞれ心に誓っていた。
なお癒しの杖は適正的に貴彦が持つ事となった。
こちらはかなり高価な品だろうと思われたが、売る気もないのでギルドで査定はしてもらわなかった。
あとは明日まで自由行動となり、それぞれ別料金のお風呂に入ったり、ステータスの再確認をしたり、近所に買い物へ行ったりと自由に過ごすのだった。
そして翌朝、まだ太陽が登りきらぬ頃に弘樹は小春に叩き起こされた。
「さぁ、弘樹さん!
今日からビシビシ鍛えますからね?!」
「えぇ?!今日からなのっ?!」
下着姿で寝ていた弘樹は動きやすい服装に着替え、宿の玄関前で待つ小春の元へと向かった。
その騒ぎで目を覚ました貴彦は、「頑張ってくださいね」と生暖かい目で弘樹を応援すると、再び眠ってしまった。
弘樹が玄関へ到着すると、「まずは基礎体力作りです!」と街の外へと連れて行かれ、防壁の周りを十周周る事となった。
弘樹は先日の依頼で筋力、敏捷、体力共に少しだが上昇している。
つまりは基礎体力作りをある程度行えば、そこそこの上昇が望めるのではないか?という小春の判断だった。
マラソン気分でゆっくり走るのは禁止され、全速力で防壁の周りを走る。
敏捷、体力共に顕現値36は伊達ではなく、かなりの速さで走っても疲れる事はなかったが、顕現値92の小春に追い立てられ、走り方の指導もされて全周回り切る頃にはそこそこ息が上がっていた。
「次は素振りです!」
昨日の夕方買ってきたと言う鉄の棒を手渡され、まずは百回自分なりに振る様に言われて実行する。
弘樹としてはドラマやアニメのシーンを思い浮かべて格好良く素振りをしたつもりだったが、小春から体幹が悪い、太刀筋がぶれ過ぎるなどあれこれ指摘されつつ、その後千回も素振りをする事になった。
だいぶ疲れが出始めた頃、
「今度は打ち合いをしてみましょう!何か見えてくるかもしれません!」
と小春が木刀を持ち出した。
最初は普通に打ち込んでいたが、魔法戦士っぽい物を目指すなら攻撃したり交わしたりしつつ異能を使わないと!と注意され、思考感知や念動力を合間合間に使おうとするが、素早すぎる小春の動きに翻弄されてまともに集中する事が出来ず発動出来なかった。
「いやぁ、距離を取ろうにも簡単に接近されちゃうしな」
ゼェハァ言いつつ弘樹はボヤく。
そもそも霊格は同格とは言え、倍以上の敏捷値を持つ小春と敏捷以前に戦闘経験そのものが少なすぎる弘樹では比べるべくも無く、一太刀も入れることなく朝練は終わることとなった。
途中、障壁を咄嗟に張って小春の攻撃を受け止めたりは出来たが、人間などを相手に対発動させるタイプの力は多少なりとも集中が必要だったのだ。
「あの障壁はなかなかに良かったです!咄嗟に出せるものとそうでないものがあるって分かっただけでも成果はあったと思いますよ」
小春の言葉に、確かにそうかも知れないと納得する弘樹。
久々に物理的に疲れた気がする。
弘樹はヘロヘロになりつつも、ふっとある事を思いついてステータスウィンドを開きスキルを調べつつ歩いていた。
小春も何かを考えながら宿へと向かい、二人はそれぞれの部屋で濡れたタオルを使いあちこち拭いて着替えた後、貴彦と十六那に合流して朝食を済ませて皆で冒険者ギルドへと向かった。
「小春ちゃん、実はさ、あったんだよ」
小春は唐突な弘樹の言葉に首を傾げた。
「いや、的がある場合多少なりとも集中しないと使えなかったろ?」
「はい、障壁以外は多少なりともタイムラグや集中する必要があるみたいでしたね」
「でさ、よく漫画なんかで詠唱破棄とか詠唱短縮とか、範囲や対象を拡大したり、あれこれ上級の使い方するキャラが出てくる話多いなーと、もしやと思ってスキルを調べてみたらね…」
「あったんですね…」
「あったんだよ」
「やっぱり訓練して良かったってことですよね?!」
「うん、そう思う」
「…」
二人して顔を見合わせ、同時にハァと溜め息をついた。
そんな二人を見て笑いつつ、貴彦と十六那は冒険者ギルドの扉を開くのだった。
なお弘樹は筋肉痛や疲労感から丸一日使い物にならないのでは?と不安で一杯だったが、霊格故か疲労も早い段階で治まり、筋肉痛も一時間ほどアチコチが痛い程度で済んでしまった。
単に能力値だけではなく、レベルや霊格の補正もあるのかも知れないと、そう思うのであった。




