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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
第一大陸編
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エネミー感知機能

エネミー感知機能


弘樹と十六那も川を渡って合流し、少年へと声を掛けると年の割にしっかりとした礼をし、名をコルトンと名乗った。


ヒダカ村から東の森に少し入ると小奇麗な一軒家があり、その家に住む子供だそうだ。

村八分のような状態なのかと思ったが、十六那いわく一部の薬師や錬金術師や魔法使いなどは、研究の邪魔や漏洩を嫌がりあえてそのような場所に居を構えることもあるのだとか。


効果のある魔除けを作るなり結界を張れるなら、特段珍しい事ではないそうだった。


コルトンは子供特有の明るい金髪に澄んだ青い瞳、やや不健康そうに見える白い肌はあまり日に当たらない環境にいたのだろうと想像出来た。


服はやや高価そうな白いシャツに茶色いズボンだったが、所々が土に汚れ、枝に引っかかった部分がほつれたり小さく穴が空いたりしている。


開拓村よりも深い森に暮らすとは思えない、そんな少年だった。


元々体が弱い少年は、空気の綺麗な森の中に建てられた一軒家で過ごしていたが、体調の良い日々が続いていたのでどうしても散歩をしてみたくてウズウズしてしまい、家をこっそり飛び出したらしい。

元々は都会生まれであり、この森の家でも庭に出る程度で森に踏み入った事がなく、ほんの少しだけ散策するつもりが道に迷ってしまったそうだった。


いや、ここ魔物の出る世界だよね?

保護者たち何してんの?と弘樹は思うが、冷静に考えれば昔の地球でも、熊や狼、猪、毒蛇すら出る山や森に村の子供が入ることもあったろうと考える。

生活のためか好奇心のためか、それは全く異なるが、開拓村とてある程度の年齢の子どもたちが薬草摘みや木の実を取りに行くこともあるだろう。

蛇口をひねれば飲める水が出る国もある反面、井戸もなく、川や泉などに往復数時間歩いて水を得ないと生きて行けない国とて地球にもあったのだ。


子供の頃からかなりの臆病者だった弘樹からすると、好奇心で森の中などあり得ない発想なのだが、常識が違うのだと思うしかなかった。


このままゴブリンの探索を続けても良いかと思っていたが、徐々に日が暮れ始めている。

ギフトで光に左右されない貴彦はともかく、他の面子は闇に影響を受けてしまう。

月光魔法で光を作っても目立ちまくる事この上ない。

木立や茂みも多い森の中、子連れで闇視能力すらあるかもしれない魔物相手に探索続行は厳しいと判断し、一行は村へ戻るついでにコルトンを家へ送ることにした。


彼らの移動速度は尋常ではないため、森の中、疲れた6歳児を歩かせる訳にもいかず、貴彦がコルトンを背負った。


先頭を探索系スキルを得たばかりの弘樹が歩き、貴彦、十六那、小春と続いた。

罠感知や探索、テレパシーにいくつかの感知系タレントを持ち、ついでに今日知ったが念動力で障壁を張れる事も判明したため、弘樹が先頭となったのだ。

いくつかの魔法を調べた結果、いわゆる超能力の類は燃費が悪い代わりに使い道が幅広いように感じた。


薄暗さの増した森の中をしばらく歩いていると、コルトンの言っていた一軒家が見えてきた。

一軒家と言うよりは、貴族か豪商の別荘の様な豪邸とも呼べる館ではあったが、確かに一軒の家ではあった。

「面倒な事にならないと良いのですが」

ポツリと貴彦が全員の気持ちを代表するように呟いた。


屋敷はおろか広い庭すら高めの石壁や鉄の柵で覆われており、明らかにヒダカ村より防御力が高そうだった。

館の内外はやや騒然としており、家人たち総勢十名ほどが手に松明やランタンを持って右往左往している。


その中の一人が小春日和の一行と少年に気付き、「ぼっちゃま!!」と悲鳴のような声を上げて駆けつけてきた。


他の家人たちも慌ててその場に集まり、大騒ぎとなったのは言うまでもない。


貴彦がコルトンをメイドと思われる女性に渡し、集まった面子の中でも立場が高そうな執事風の青年に、嫌な記憶を刺激されつつ簡単な事情を説明すると、是非屋敷へ!御恩を受けて礼をせねば主に叱られてしまいます!と縋りつかれ、半ば強引に一行は屋敷への招待を受ける事となった。


森の奥とは言え村からは徒歩でも二十分ほどの距離との事で、私兵か護衛と思われる男性が二人、村長宅へ帰りが遅れる旨を馬で知らせに走ってくれることとなった。


夜襲の危険性も考えると早く村に戻りたかったのだが、相手のペースに引き込まれてしまい、応接室へと通された。


勧められるままに艷やかな革張りのソファに腰を下ろすと、滑らかな手触りとなんとも言えない座り心地が、明らかに高級品であることを物語っている。


屋敷を含め目の邪魔にならない程度に並べられた調度品や家具類も、高品質ながらも決して下品にならぬ様整えられており、主の人柄は決して悪いものではないかも知れない。


紅茶やコーヒーを勧められ、小洒落た籠に容れた焼き菓子を出され待つことしばし。

応接室のドアが開くと高級そうな服を筋骨隆々の肉体がはち切れんばかりの男性と、清楚なドレスに身を包んだ女性が入ってきた。

四人はソファから立ち上がり、家主夫妻と思われる二人へ軽く頭を下げて礼をする。


二人は何れも三十代前半だろうか。

男は青い瞳を持ち、やや額の広くなった明るい茶色の頭髪を短めに刈り込み、あごと鼻の下だけ短目に髭を蓄えており、アクション物メインのハリウッド俳優に仲間入り出来そうな凛々しいマスクを持っており、女は明るい金髪を結い上げ、清水のような澄んだ青い瞳を持つ柔らかな雰囲気と凛とした強さ、双方を併せ持つ不思議な雰囲気を持つ美女だった。


「息子を見つけ助けてくださったのはあなた達ですなっ!」 

感極まったのか、男が抱きつかんばかりの勢いで両手を広げて四人へと迫ってくるが、後ろに立つ女性が「あなた?」と優しく声を掛けるとピタリとその歩みを止めた。


「夫、ジェラルド・アークエットが失礼致しました。私は妻のシャーナ・アークエットと申します」

どうぞお座りください。シャーナはそう言うと夫を連れて自らも席へついた。


「コルトンは私共の息子で三人兄弟の末の子となります。

生まれた頃から体が弱く、空気の綺麗な所での療養をと考えていましたところ、夫の遠縁であるラクヨの領主、デレク伯の勧めでこの森へと参ったのです」 


貴族キター!

弘樹は心の中で叫んでみた。

貴彦はやや緊張した顔で話を聞いており、小春は村の様子が気になるのか少し落ち着かないようで気分を鎮める為にお茶を飲んでいる。

十六那は静かにシャーナの話を聞いていた。

「二人の子供達は王都で学校に通うため、屋敷に残しています。

この屋敷に来て半年ほど、コルトンは徐々に元気になり、最近では庭で遊ぶ姿も見られるようになったのですが…」

「あの子も私、ジェラルド・アークエットの血を引いていると言う事だな」

何故か嬉しそうに語る夫に、妻は冷たい視線を投げ掛けた。

「ここ数日、ゴブリンが森の中を彷徨いていると村人から聞きました。その事はコルトンにも話して聞かせたのですが逆に好奇心を刺激してしまったのかも知れません。

大変ご迷惑をおかけしました。

そして、助けて頂いて本当にありがとうございました」

「本当にありがとう」

夫婦は物語に出てくる貴族とは異なり、平民、とは言え全員転移者ではあるのだが、に謝意を込めて深々と頭を下げ礼を述べた。

「聞けば問題のゴブリンの調査と討伐にいらしたとか。

本来なら宴を開きこちらに宿泊していただきたいのだが、その邪魔をする訳にもいきますまい。

これは些少だが受け取っては貰えまいか」

ジェラルドが硬貨の入った革袋を何処からか取り出して、明らかに最年長者である弘樹へと差し出した。

亜空間収納か?

確か貴族の謝意を素直に受け取らないのは顔を潰すことになると何処かで聞いた記憶もある。

「謝礼を頂きたくて助けた訳ではございませんが、そのお気持ち、有り難く頂戴いたします」

失礼にならぬよう頭を巡らせ、弘樹は革袋を受け取った。

小春は村が心配なのか窓の外をチラチラと見ており、貴彦は気を使ってか弘樹と共に頭を下げる。

「過分な物をいただきありがとうございます。私どもは依頼の途中ですので、そろそろ村へ戻らねばなりません。

今回数匹倒しましたので怯えて逃げるかも知れませんが、逆に刺激してしまった可能性もありますので、そろそろお暇させていただきたく思います」

十六那は要件は済んだとばかりにすっと立ち上がる。

それにならって三人も立ち上がり、頭を下げた。

夫妻は「仕事の邪魔をしてしまい申し訳ない」と馬車を準備しようとしたが、四人はそれを丁寧に断り、かなり薄暗くなってきた森の中、家人に見送られながらやや早足で村へと戻った。

小走りだったためか五分ほどで到着した。

村の様子は落ち着いており、特段変わった事はないようだった。

「小説などの貴族は微妙な人々も出て来ますけど、良い人たちでしたね」

貴彦の素直な感想に皆も頷き、村長の家へと向かった。

「それよりも、これからどうするかだな。

村長に今日のことは伝えるとしても、夜襲の可能性も考えないといけない。

それに今回の件で分かったんだが、有用なスキルの取得は必要だと思う。

あとはラクヨに戻ったら冒険者ギルドで講習なりを受けて今の能力に見合った知識を得ないと危険かも知れない」

弘樹の言葉に皆賛成した。


村長宅に着くと歓迎され、簡素ながらも温かい食事を提供してくれた。 

森の中で起きたことを一通り説明し、貴彦はゴブリンの持っていたナイフなどを取り出して見せた。

ゴブリンに鍛冶などの技術があるようには見えず、村の関係者の持ち物である可能性もあったからだ。


現状確認出来ている範囲では村人は誰も被害にあっておらず、ナイフなどはどこか別の所で得たものではないかと言うことだった。

食事をとり体の温まった一行は、宿として離れを使うよう村長に言われたが、ゴブリンは夜行性の個体が多い事を説明し、小春と弘樹、貴彦と十六那の二手に別れて村の中を巡回する事にした。

畑などを入れればかなりの広範囲だったが、霊格の上がった彼らは特段疲れを感じる事もなく、かなりの速度で村の中を回る事が出来た。


「あっ!」

弘樹と巡回していた小春が立ち止まり、マジマジと空中の何かを見詰めている。 ステータスウィンドウだろう。

霊格の向上により同時に複数の事へ集中可能となった為、そこだけに集中しないのならば特段問題はなかったのだが。


「オートマップをためしていたんですけど、エネミー感知機能もあるみたいです」

やっちまったよ感丸出しの表情で小春がウィンドウから顔をそらし、弘樹を見詰めていた。


町中で危険度の少なそうなスキルやギフトを確認はしたのだが、オートマップは行ったことのあるエリアが地図として記録される程度の物として認識していた。


ゲームによってマップの性能は異なり、近辺やダンジョンなど地理や重要な場所のみ表記する物、仲間やモンスターなどを光点で表記する物などあるが、皆前者だと思いこんでいたのだ。


特に彼らが好んでやっていたRPGはエンカウント方式の物がメインだった影響もあるかもしれない。

外のマップやダンジョン内を歩いていると、唐突に○○が現れた!と半ば強制的に戦闘に突入するタイプのものだ。


自身の持つタレントやスキル、ギフトの確認や情報交換、購入装備の選択など短期間であれこれ一気に行った弊害だった。

そもそもが異世界に飛んでどこか浮かれていたのだろう。


ゲームでしか見たことのないポーションやら何やら。


異界化により地球世界で異能を使っていた貴彦や小春、否定し続けていたが強力な異能を持っていた弘樹。

しかし彼らは漠然と能力を使っていただけで、その技や術の名称や数値などを見た事がなかったのだ。

あれがこれだったのか!

こんな事も出来るようになるのか?!

ポイントの消費は先々の事を考えて温存する事となってはいたが、それぞれにどう成長していくか想像したりもしていた。


マップは近隣、中距離、広範囲と三段階に切り替える事が出来、パーティーメンバーは緑の光点、村人は黄色で表記されていた。

近隣は本人を起点に30メートル四方ほど、中距離は500メートル四方、広範囲は5km四方ほどに広がる。


カメラなどで捉えた映像画像の類ではなく簡易表示がされており、門、村長宅など施設として認識している所のみ名称が表記されていた。


そして広範囲に切り替えた時、森の中に赤い光点が複数表示された。

小春があまり焦っていなかったのは、光点がマップの外周に近いエリアに居たからだろう。

赤い光点の移動速度なら、村へ辿り着くまでにまだまだ時間がかかる。


「あー、あっても知らないって本当に…」

弘樹はスマホやパソコン、家電など必要最低限の説明しか読まず、使わないタイプの人間だった。

他の人々の話を聞き、えっ?!そんな事も出来たの?!とそこだけ調べて使い出すような。

小春も多分同じ部類なのだろうなと薄々は感じていたが、やはりそうだった。


「これは十六那さんと貴彦君にも伝えないと」

二人は頷き合うと、緑の光点へと小走りに向かった。


2つのチームはすぐに合流し、マップと光点の説明をする。 

「あー、ごめんなさい。一気に情報を押し込まれたから、少し混乱している部分もあってうまく説明出来てない事が多いみたい」

十六那がまたもや素直に謝った。

「いえ、そんなこと気にしないで下さい! 

十六那さんのお陰で本当に色々と助けられていますから!」

小春の声に弘樹と貴彦も頷く。

「そうですよ。

僕と小春だけだったら、今頃祠で死んでいました。

もし生き残ってこちらに来たとしても、神殿にこもっていたかも知れません。

十六那さんだけじゃなく、弘樹さんにも感謝しています」

貴彦が二人に頭を下げる。

「うっ、いや、あれだ!そんなの気にすんなよ!

ほらとにかく、今はマップを使って作戦を立てよう!」

ちょっと照れてしまった弘樹は慌てて今後の事へと話をそらし、皆それに賛同して意見を述べる。


「数がかなり多いですし森の中で分散しています。迎撃に出るか迎え撃つか、悩むところですね」

貴彦が言い、それぞれがマップを開き敵の動向を確認する。


「でも変ですよね。村を夜襲するつもりなら、こんなにバラバラに向かってくるでしょうか?あ、また増えた」

小春が冷静に動きを見つめながら言う。

確かに川沿いで遭遇したゴブリンたちも、練度が低いとは言え集団で行動していた。

マップの圏外に大きな集落でもあるのか、ただでさえ多かった赤い光点が徐々に増えながらこちら側へと向かってくる。

特に増えた光点は最初に見掛けた者たちより素早く動いており、ざっと見て百以上に増えていた。

「これはまずいんじゃ」

苦虫を噛み潰したような顔になる弘樹。

いくら弱いとは言え、百以上のゴブリンが雪崩込んできたら、村人たちを守りつつ戦えるだろうか?

「避難場所があるなら何処かへ逃した方が良いかも知れない」

弘樹は何処か使えそうな場所はと村周辺のマップを睨みつけた。

と、

「あっ?!これは…もしかして、逃げているの?!」

小春が何かに気付き声を上げる。

こちらに向かっている光点が外周に近い辺りからどんどん消滅してゆくのだ。

最初は一つ、二つと消える程度だったので見間違いかとも思っていた。

しかし一気に広範囲の光点が消え去り、これは違うと確信した時、東の森の奥から彼らの耳にそれは轟いた。


グルォォォォッ!

ズズーン!


それは大きな肉食獣を喚起させる雄叫びと、何かが吹き飛ぶ音だった。

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