小春日和
小春日和
何やかんやあったがエアリスの尽力で事なきを得た一行は、冒険者登録を済ませる事が出来た。
貴彦と小春、弘樹の三人は能力の高さからせめてBランクにと言う加藤の話を蹴ってDランクにしてもらい、十六那は彼らの戦闘面の師匠と言うことにしてランクCとなった。
なお神殿同様、飛ばされた白鳥千尋の情報は冒険者ギルドにも確認したが何も無かった。
また、正式なカードの発行を前に一行はパーティー登録も行うことになった。
恵那の分配や依頼の管理など集団行動するには楽なシステムが構築されていたのだ。
通常個別に与えたダメージや最後に浄化した者が多くの恵那を得るし、回復や支援を主とする者は僅かな恵那しか得られない。
しかしパーティーを組む事で恵那の分配が均等化され、護衛など複数名必要な仕事も受けやすくなる。
多少異界での戦闘や探索を経験した貴彦と小春、おまけで弘樹も、いわゆる冒険者としてはまだまだ経験値が低く個別に旅をするには心許ない。
千尋を探す事、元の世界に帰ることを主軸に動く事。
しかし焦って死ぬことなく全員生き残るためには、順を追って経験を積む事を決め、彼らはパーティーとなる事にしたのだ。
「新月神の剣とか格好いいと思うんですよ」
「いや、剣ってか本人ここにいるし」
「月兎とか可愛いと思うんですけど」
「いやいや、月から離れようよ!」
「魔術的にはあえて太陽や昼を象徴する名前も良いわね。月とぶつからない感じの名前とか。ここの主神太陽神だし」
問題はパーティー名だった。
痛い名前は避けたい弘樹、可愛い名前が良い小春、格好いい名前が良い貴彦、何でも良いと言いつつ拘りも多い十六那。
彼らはカードプレートを加藤に預け、酒場でお茶を飲みつつああでもない、こうでもないと話し合っていた。
支払いはエアリスがしてくれた。
そのエアリスはテーブルの隅にちょこんと座り、微笑みながら静かに彼らを見守っている。
何度も見たことのある光景なのだろう。
それぞれの意見を聞いては、うんうんと頷いていた。
「皆さん、ギフトの確認はまだですか?他の方々も何か目標や共通点があればそれを由来に名前を付けるパーティーもいるそうですよ」
おぉ!
四人はそれぞれ初めてステータウィンドウを開き、ギフトを確かめる。
弘樹は月、水、夢幻の三柱、貴彦は太陽、月、幸運の三柱、小春は地、風、月の三柱、十六那はムスッとし「アルテミスの加護があるわね。あとは…あいつらも関わってるの?面白がっちゃって」、とウィンドウを見てつぶやくのみで後は口を噤んだ。
「結局月繋がりなんだな」
「考えてみれば分体とは言えアルテミスと会ってるのだから、加護くらいつくわね。霊格の向上にも影響してるみたいだし」
嘆息する四人。
「もうあれよ。小春日和でいいわよ。
それが嫌なら八王子市退魔戦隊とかにしちゃうからね?!
師匠権限で決定!」
十六那が本気で面倒になったのだろう。
先程までの流れを完全に無視してメンバー名をもろに突っ込んだ、縁側で居眠りしたくなるようなパーティー名が決定した瞬間だった。
「えぇっっっ?!」
小春の悲鳴が冒険者ギルドに響き渡った。
申請を終えた四人は加藤からそれぞれランクとパーティー名を追記された各々のプレートを手渡された。
「依頼を受けるならつぎは装備類を揃えないとまずいですかね?
武器はともかく防具や回復薬、あと水袋とかあれこれ必要になりそうですけど」
貴彦の意見に弘樹も頷きつつ、
「あー、てか神殿から貰ったお金、いくらなのか数えてもいないな。そもそも貨幣価値とか分物価もからんのだが…」
と十六那をエアリスを見る。
アルテミスから基本情報をギフトとして受け取っている十六那と、この世界の住人にして転移者担当神官のエアリスが適任な内容と思われた。
「この国では円が通貨の単位になっています。
鉄貨1円、銅貨10円、銀貨100円、大銀貨1000円、金貨一万円、大金貨10万円、白金貨1000万円です。
基本的に市民は鉄貨から大銀貨を使用しています。
この街の一般市民の平均月給は十万円ほどとなります」
エアリスの説明に十六那が頷きつ追加の説明を始めた。
「現代日本人の感覚だと分かりにくいでしょうから説明するわね。
あちらでは既製品が多く出回ってたから定価もあったし、ネット通販なんかもあった。
流通もしっかりしてたしね。
でも、ここは違うの。
例えば海の近くなら海産物は手頃な値段で買えるし、塩も安価よ。
反面作物を作りにくい気候や土地柄なら穀物や野菜などが高くなる。
極端なことを言えば、ある町では鯛が千円、リンゴが一つ一万円、それが内陸では逆になったり、そもそも干物などを除けば流通していない事もあるわね」
ファンタジー物で何となく知っていた三人も、そうだよなーと頷く。
知識として知っているのと実際は異なる事が多い。
日本に比べて広大な大陸な上に魔物もいるのだ。
輸送だけでも特産品と希少製の高い品で差が出るのは当たり前と言えた。
「ただまぁ空間関係の魔法や保存系の魔法を使えたり、特殊な道具作れたり、私達みたいなギフトがあるとその辺は揺らぐんだけど。
それに転移者や流界者の知識も導入されているから、衛生概念なんかも含めて様々な点で異世界物とは違う可能性もある。
でもね?世界の人口に対して私達は極僅か。
そして流界者もそれなりに来ているけれど、必ずしも専門性を持った人たちが来ている訳じゃない。
知識の共有や補い合いが出来ればいいけれど、大陸一つでも広大なのに他にも幾つもの大陸があると考えると、中々に難しい部分はあるわけね。
それにあっちに無くてこっちにはある物もあるし」
貴彦は、あっ!と声を上げ、リュックからバイコーンの玉を取り出した。
十六那は頷き続ける。
「魔物のドロップ品や冒険者カードみたいな魔法技術、それに一般の人々もある程度の魔法は使えるものなのよ。
ピンキリだけどギフトを授かった者もいるし。
冒険者の人たちの中にもランクAを取れる人がいるようにね。
彼らでも霊格は2から3が普通らしいけど」
魔物の浄化や高位の霊格会得の可能性を除けば、一般の人々も戦える者も居るしレベルとて恵那を得ることで上がる。
神々の加護とて転移者だけのものではない。
「どんなの時代、どんな国に行っても善人もいれば悪人もいる。異世界であってもきっとそうでしょう。
地位や名声、富、それらに集る者も多い事でしょう。それもあってギルドは保護も謳っているのだろうしね?
だからね、金銭の具体的な話なんかはここでしない方がいいわ。
まずは角と玉の換金、そして備品などの価格調査、換金したお金で宿の部屋を借りれるなら借りて、貰った金額の確認と必要な物の洗い出し、まずはこの辺かしらね?」
十六那はちらりとエアリスを見ると、エアリスはこくりと頷いた。
「神殿でもお部屋はご用意できますが、早くにこの世界を知っていただくには、宿探しや朝市で価格を見て回るなどした方がよろしいかと思います。
依頼時の金額が高いか安いかも分からないのでは、何かと困ってしまいますでしょうし」
穏やかに微笑み語るエアリス。
「ですので私はここで失礼させて頂こうと思います。
それと最後に3つほど。
皆様には転移者基本セットと呼ばれるギフトがあります。
それにある鑑定や収納を使えば、何かと便利かと思います。
それとこの街も治安の良いエリアと悪いエリアがあります。
中心及び大通り、各門周辺は比較的治安が良いですが、裏路地や門から離れた壁の内側は治安が悪いです。
お気をつけ下さい。
そして最後の一つ、いつでも私達神殿は、私は皆様方を支援させていただきます。何かありましたらどうぞご遠慮なく声を掛けてくださいね」
「ありがとうございます」「そうします」「またな!」「ありがとね?」
四人の感謝の声を受けたエアリスは、やんわりとした笑顔を四人に向けてペコリと頭を下げると席を離れて冒険者ギルドから出ていった。
冒険者ギルドの内の買取受付へ向かうとカードの提出を求められた。
メンバーなら誰でも良いそうなので弘樹が代表して提出すると、さっと確認してすぐに返してくれた。
「バイコーンの角二本と魔石だね」
買取受付は髪を短く刈り込んだ白髪混じりの男性が担当していた。
「うん、どちらも良い品だ。
バイコーンの角は強壮剤の材料として高く売れるし、魔石も中々に良いものだな」
そう言うと買い取り表最新版と書かれたファイルを取り出し、小春日和の面子に見えるように指さしながら買取価格を教えてくれた。
「採取依頼込ならもう少し高くなるんだが、買取のみだとこの高品質の物になる。良いかね?」
近隣に出没する魔物のドロップ品を主としたファイルには、五段階の品質とそれぞれの価格が記載されている。
「全部で80万か」
角一本25万、魔石は30万で合計80万円。
この街の市民の平均月収が10万のはずなので、その八倍を稼いだ事になる。
とどめを刺した十六那は均等に分けて良いとの事だったので、一人20万円。
これなら宿に余裕で泊まれそうだった。
早速それらを売り払い、弘樹が代表で受け取った。
エアリスに言われた亜空間収納にお金は入れ、今度は二階に上がり備品などの品揃えと価格を下見する。
小瓶に入ったポーション各種が棚にズラリと並べなれ、効能の書かれた紙がそれぞれの前に貼られている。
いわゆる軽傷用のポーションは500円。
毒消しは1000円、麻痺毒消しは1500円と高いのか安いのか分かりにくい表記がされていた。
貴彦と小春は顔を見合わせ、ちらりとリュックを見ていた。
武器防具もピンキリで、300円で買えるナイフもあれば数十万円のナイフもある。
材質や職人の腕、その他何かしらの効果も影響しているのだろう。
鎧も厚手の布地や鞣した革などから金属鎧まで置かれていた。
大体の値段を確認すると、とりあえずポーション類をいくつか購入し、店員の女性におすすめの宿屋を訪ねた。
「どのようなタイプをお探しですか?雑魚寝の大部屋主体や初心者用、中級者用、ご飯が人気など予算によっても変わります」
ごもっともである。
「女性もいるので治安の良いエリアで。清潔でご飯が美味しいならその方がありがたいかな?お値段は手頃な方がありがたいけど、相場が分からないんだよな」
弘樹の言葉に店員はあぁと頷き、
「この街ですと雑魚寝の大部屋で素泊り一人500円、初級者で個室希望だと1000円ほど。多分お客様方が希望なさる宿だとお一人3000円以上はかかると思います」
日本円として聞くと安いのだが、月給から考えると案外高いのか?とも思える。
安全を買うと考えるとそれでも安いと思えるし、判断に困るところだった。
「皆様方は転移者様ですよね?でしたら神殿の宿坊や冒険者ギルド直営の宿をご利用になるのもよろしいかと思うのですが」
宿坊はともかく、冒険者ギルド直営の宿があるのか。
とりあえずそこに一晩宿を取ることになり、詳細を聞いた。
「これはギルドの転移者様保護のための宿ですので、現地人は転移者様と同じパーティーのメンバーでない限り原則宿泊出来ません。料金は部屋のランクによって異なりますが、先程おっしゃっていた部屋でしたら朝晩の食事込みで2500円ほどになるかと思います。予約は必要ありませんので…」
宿の場所を教えてもらい、四人はギルドを後にした。
神殿と冒険者ギルドで半日近くの時間が経っており、外に出た時には空は日が傾き始めていた。
冒険者ギルドを出て大通りを歩き、2分ほどで教えてもらった宿屋に到着した。
高級過ぎず安っぽくもなく、丁度よい具合にまとめられた感のある五階建ての宿だった。
扉を潜るとチリンチリンとドアベルが鳴り、「いらっしゃいませー!」と元気の良い声がホールに響く。
宿の受付に居たのは十代後半くらいの少女だった。
弘樹たちは冒険者カードを提示し、部屋を二部屋一泊だけ借りる事にした。
前払いとのことだったので一人2500円、弘樹が代表して一万円金貨で支払った。
夕飯は17時から20時まで。
朝ご飯は6時から9時まで、一階の食堂でとの事だった。
ちなみにこの世界、一日は24時間だった。
仕組みは謎だが時計もそこそこあり、なんならステータスウィンドウにも時計が表示可能だった。
四人は鍵を受け取り、三階の一番奥とその手前の部屋へと案内された。
一旦全員手前の部屋に入る事にする。
12畳ほどの広めの部屋には、ベッドが2つ並び、壁には壁掛けのフック、収納用のクローゼットもあった。
そしてソファが一つテーブル一つ、椅子が二脚置かれていた。
皆適当に座ると、早速お金の話となった。
「買い物のときにも思ったんですけど、宿代やパーティー用の回復薬などはパーティー用の共有資金を作って、そこから出した方が良いかもしれませんね。
怪我や病気などの非常時も考慮しておいて損はないですし」
貴彦がそう言うと、十六那も頷きつつ、
「各装備や予備の薬品、私物は原則自腹として、宿代と食費、基本的な物は確かにその方が良いと思うわ」
そう言いつつ鞄からドサリと革袋を取り出した。
「まずは確認しましょう」
巾着状になっており、紐を緩めて中身をテーブルの上に出す。
大金貨、金貨、大銀貨、銀貨など複数の硬貨が入っており、合計で160万円となった。
使い勝手なども考慮して、銀貨類も入れてくれたのだろう。
今回は78万円をパーティー資金として十六那が管理する事となり、立替えた宿代金貨一枚は弘樹に返された。
バイコーン分の一人20万円と今回の一人頭20万円、合計40万円は各自の物となり、そこから自身の装備は整える事になった。
また野営に必要なテントや調理器具などは資金から出すことが決まった。
先程ギルドで買った品々もパーティー管理費からだすこととなった。
金銭に関して話し合いや分配が終わった後、貴彦と小春はお互いに頷き合い各々のリュックをテーブルに置いた。
「実は異界化した時に手に入れた物なんですが、これを…」
貴彦がリュックから取り出したのは、冒険者ギルドで売られていた小瓶に入ったポーションとほぼ同じ品だった。
「見たとおり傷薬や解毒剤、それから他にアクセサリー類もあります。
僕らは当時鑑定のギフトがありませんでしたけど、千尋は似た能力を使えたので単なる小物やアクセサリーではない事は一応確認してあります」
貴彦と小春、それぞれがリュックからいくつかの小瓶や水晶瑪瑙紅水晶など貴石類の磨き小石が入った巾着袋、銀のブレスレットなどを取り出してゆく。
「ポーションもそうですけど、いくつかはギルド内のお店でも売られているのを見ました。どう言う関係があるのかは分からないけど、どうせなら共有として使って欲しいなと思って」
小春が手にした小瓶は中級ポーションだった。
かなり酷い怪我にも効果を発揮すると言う。
磨き小石も詳細は不明だが何かしら力があると千尋が鑑定し、小春が預かっていたものだった。
「鑑定のギフト、使ってみようと思います」
小春はそう言うと紅水晶の小石の一つを手のひらに乗せ、じっと見詰めるのだった。




