ぷすぷす
ぷすぷす
もしや旅の仲間に?!と期待した赤毛の女性はすでに他者とパーティーを組んで活躍しており、今日の打ち上げをしている所だった。
少し凹んだ二人を放置気味に、エアリスに先導させつつ十六那と小春は団体用の受付へと向かった。
夕方と呼ぶには早い時間帯であったため、すぐに彼らの順番となった。
「ようそこ、ラクヨの冒険者ギルドへ。私は受付部門を統括しております、加藤と申します。
皆様鑑定と登録で宜しいですかな?」
そこには真面目を絵に描いたような髪をぴっちり七三分けにし、銀縁メガネを掛けた40代の男性が担当者として座っていた。
「受付って美女揃いじゃないのかよ?!」などとアレな二人は騒いでいたが、その辺は無視してエアリスが四人を紹介する。
「この方々は本日こちらにいらした転移者の皆様です。
よしなにお願い致します」
エアリスはそう言いつつ書簡を受付男性加藤へと渡した。
男性は書簡を受け取ると、ピクッと眼鏡の奥の瞼が動く。
「失礼」
加藤は神殿の蝋印を押された書簡を開き、内容を確認するとゆっくりと頷いた。
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
加藤は立ち上がり、五人をカウンターの奥にある応接室へと案内する。
六畳ほどの部屋には大きなテーブルと椅子が八脚あった。
彼は下座の席近くに立ち、「皆様ご自由にお座りください」と声をかける。
十六那は加藤とは正面になる上座の席へと座り、他の四人は手近な席へ適当に腰を下ろした。
「すでにご存知とは思われますが、まずはここで行われる事を説明させていただきます」
加藤が生真面目そうに語っていると、「失礼します」と小さな声を掛けつつ、一人の女性が人数分のお茶の乗ったお盆を持って現れ、全員に配ると一礼して出ていった。
「まずは冒険者ギルドの役割や階級を説明させていただきます。
そこで登録の意志がおありの場合、こちらで皆様を鑑定させていただき、階級や冒険者登録、必要でしたらパーティ登録もさせていただきます。以上の流れになりますがよろしいですか?」
エアリスは黙って話を聞いており、四人は頷いて了承を伝える。
「まず冒険者ギルドですが…」
加藤は延々と仕組みや階級などについて話した。
主な内容は
冒険者ギルドは神殿組織の外郭団体である。
神殿及びギルドは基本的に国と独立して運営されているが、国や街などが魔物による危機に瀕した場合、率先してそれらから守る事を約束している。
これは特別な事情がない限り、冒険者、転移者共に参加義務は変わらない。
ギルドは仕事の斡旋、依頼内容の裏付確認、ランクの認定、転移者の保護育成、冒険者の育成、収集品の買い取り等を行っている。
冒険者ランクは最下位がF。
稀に素養の等の関係でE〜Dランクスタートとなる。
最高位は一般的にはAランクだが、その上にAA、AAA、S、SS、SSSがある。
AA以上は転移者しかなれないが、そもそもAランクになれる一般人は極僅か。
なお転移者は素養、能力的な観点と経験を加味してDランクスタートが多い。
例え強くてもAランク相当の難事件を未経験者が解決出来る可能性は低い為との事。
仕事は基本的に討伐や調査、護衛、採取が主体となる。
護衛も含め対魔物討伐依頼
は転移者が優先される。
なお、個人で転移してくるケースも多いが、皆が前衛やオールラウンダーと言う訳ではなく、魔法職などの後衛もいる。
生き抜く為に一般人冒険者とパーティーを組むことも多い。
と言うものだった。
「あの冒険者の育成と転移者の保護育成、どんな違いがあるのですか?」
「転移者の方はこの世界の事を知りません。
ですから様々な面で当ギルドが主体となって転移者の皆様方の生活や一般的な知識など依頼以外の面でもサポートする事になっているのです。
神々がお招きした方々を支援保護するのは信徒として当然のことなのです。
冒険者の育成は初心者用の講習会を開いたり、仲間探しを手伝ったり、一部有料となりますが情報提供を行っています」
小春の問に加藤はさらりと答える。
現地の人々と転移者の扱いは異なるという事か。
とりあえずは納得することにした。
「他に質問がないようでしたら、次に移らせて頂きます」
加藤はそう言いつつ両手に白い手袋をはめるとすっと立ち上がり、何処からか取り出した名刺大の厚紙四枚とペンを四本テーブルに並べた。
「順番にそれぞれ一枚ずつ手にとって下さい。そしてそのペンで名前を記入して下さい。
なおそれらは魔道具ですので決して他の方は触れませんように」
いくつかの魔法円や呪文と思しき文言が書かれた厚紙こそがステータスを判定するための道具らしく、名前を記入する欄も書かれていた。
「真名である必要はあるのかしら?」
十六那の問に加藤は首を横に振り、
「こちらにいらしてから付けた新しい名前や呼ばれたい名前でも構いません。転身者の方々の中には改名を望む方も多いので」
とやや苦笑気味に答えた。
多分あれだな。
中2病炸裂した名前にしたがったり、逆にキラキラネームを普通っぽくしたかったり、色んな人がいるんだろーなー。
弘樹はそう解釈するとペンを手に取り日本語で山野弘樹と記入した。
流石にこの面子の前で俺格好いい!な名前を書くほど面の皮は厚くない。
名前を書き終わり厚紙を手に取ると、文字や魔法円が直視出来ないくらい強い光を放った。
「うぉっ?!」
「きゃっ!」
弘樹と小春の声が室内に響く。
二人とほぼ同時に書き終わった貴彦と、カードを聖典の上に置いてペンを手に持ちながらブツブツ言っている十六那は特に驚かなかったのか、声もあげかなった。
光が収まると厚紙だったものは金属製のプレートになっていた。
錬金術的なやつだろうか?
弘樹は自分のプレートを裏返したり光に透かしてみようとしたりした。
「これで基本的な鑑定とカードの基礎板作成は終了致しました。どうぞ記載された内容をご確認下さい。なお基礎板のみでは冒険者カードとはなり得ません。冒険者登録後に正式な身分証明書となりえますので」
加藤は弘樹たちの様子に特に反応することなく黙々と語り、皆にカードの確認を促した。
名前 山野弘樹
種族 人間(転移者)
霊格 4 レベル 32
冒険者ランク ─
能力値 顕現値
筋力08 筋力32
体力08 体力32
敏捷08 敏捷32
器用06 器用24
知力12 知力48
魔力20 魔力80+50
加護10 加護40+30
▷残りステータスポイント59
耐性
睡眠無効・幻覚無効・魅了無効
水属性攻撃耐性
タレント(生来の才能・能力)
念動7 霊視3 感情感知2 思考感知2
透視1 テレポート1
スキル(取得技術・生後特殊能力)
自動車運転2 家事2 精神統一1
雑学4
※月光魔法1 ※夢幻魔法1 ※水魔法1
▷残りフリーポイント59
能力値やレベルは高いのか低いのかよく分からなかった。
スキルはあまり役立ちそうな物はなく、何故か知らない魔法が書かれている。
加藤にその辺を聞こうとカードを見せると、加藤の眉がピクリと動いたのが見えた。
「この世界の一般人の平均能力値は10です。つまり肉体面の値はかなり低いと思われますが、この魔力と加護の高さは驚愕に値します。
耐性も多数あり、複数の神々の加護を得られたのでしょう。
なお加護とそして神々から与えられる称号はカードに記載されませんが、ステータスオープンと言って頂ければ、そちらで詳細が閲覧可能となります。
またレベルは5が一般成人の平均、10が新兵士や新米冒険者の平均ですからそれなりの高さと言えます。
にしても、しかし、えぇ、この霊格の高さ!そして顕現値は霊格に影響された力です。
これは素晴らしい!
霊格に比べてレベルは低いようですが、一体どのような経験をなさって来たのか。
この街どころか西部地区にはこのクラスの霊格の方はおりません!」
強いんだか弱いんだか分からないが、それなりに凄いらしい事はわかった。
弘樹は微妙な気分で他の面々が加藤にカードを見せるのを眺めていた。
名前 渡来貴彦
種族 人間(転移者)
霊格 3 レベル 29
名前 佐倉小春
種族 人間(転移者)
霊格 3 レベル 29
何故か霊格レベル共に弘樹より低いのが疑問ではあったが、それでも中々に高い数値だった。
彼らの霊格も西部で4人しかいないそうで、かなり加藤に驚かれた。
しかし最後の一人は未だ聖典をテーブル代わりにして厚紙を睨みつけ、ブツブツと何かを呟いていた。
「…新月…闇に…惑わ…」
十六那は聞こえた部分だけでも物騒な文言を呟き終えると、気合をペン先に込めて一気に名前を書き込んだ。
瞬間、室内がこれまでにない閃光に包まれ、次いで光一つ差さない漆黒の闇となった。
闇は一瞬で圧縮され、本の上の厚紙に押し込まれるようにして消えて行く。
「出来たわ」
何事もなかったようでいて、実は自信満々気な顔の十六那の手には、煙をぷすぷすと吐き出す金属製のカードが握られていた。
それを加藤に差し出し、他の面々も内容を覗き込む。
名前 望月十六那
種族 人∋(転移§) ※年齢18歳!
∞∪5 ◎ベ□222
「何やってんのっ?!」
思わず横から突っ込む弘樹。
「霊格5、レベル222って」
「貴彦さん、そっちに目が行きますか?!」
弘樹は何故かさん付けで再び突っ込む。
「でも多分、これ全部嘘なんですよね?」
そう、エアリスを含む四人は十六那がこの世界の創造の神々が一柱、アルテミスの三相の一体とされる存在だと知っている。
レベル上限などは分からないが、霊格や年齢を含めてもっと高い事など想像に固くない。
若い年齢を強調するとか、確実にもっと歳上な証拠だと弘樹は思った。
「てか文字化けに年齢の強調とか何やってんすか?!それにこれ、ぷすぷすって煙出てるよ?!」
弘樹の突っ込みににっこりと微笑む十六那。
有り得ぬ術式介入と確実に嘘の羅列と化したそれを見て、加藤は彫像のようにしばしの間動かなくなったのだった。




