アレ
アレ
「簡単に言えばゲームによってはレベルアップの他にランクアップとかグレードアップってするのあるじゃない?
キャラが何段階か進化したり。
あれが霊格アップね」
滅茶苦茶分かりやすかった。
ゲーム経験者の三人はウンウンと納得し、一緒に聞いていたエアリスはキョトンとしている。
「そして、霊格が上がれば能力値も上がる。HPにMPも上がる。
魔法や攻撃の威力も上がるし、疲れにくくなる。
老化も遅くなり、睡眠や食事も段々と減らせるようになる。かなり霊格を上げれば若返る人すらいるらしいわ」
おー!
三人が歓声を上げ、ハッとした顔で十六那を見つめた。
「それってまさか…」
小春の問に十六那は頷いた。
「すでに貴方達の霊格は上がっているの。
異界に接し、怪異や魔性の王や神に合い、一部は倒し、そして異世界にまで来て、かつこの世界の主神格にも遭遇した。
単なる経験値とは呼べないレベルの経験をした訳よ。
そんな人が普通で居られるわけがないわよね?」
十六那の言葉に弘樹は大きく頷いた。
貴彦や小春の岩場での異常なまでの機敏さや、能力を受け入れてからの自分の耐久性や移動速度の増加。
十六那の普段の動きも含め、それなら納得が行く。
ここに来て睡眠や食欲にまで既に影響を与えていると言う事だろう。
弘樹同様に貴彦や小春も変化に気づいていたのだろう。
「でね、ここから話す内容が多分冒険者ギルドではまず説明されない内容なのだけれど、霊格の向上、進化と言うのは肉体にも影響を及ぼすけれど、実はそれおまけなのよ」
その概念はゲーム関係で見掛けた事がなく、エアリス同様4人ともキョトンと首を傾げた。
「簡単に言えば霊格はその人、とは限らないんだけど、存在の格の事よ。
腹立つけど例の老執事と鬼女化した仮面の女神、どちらが凄いか会っただけでわかったでしょ?」
確かに気配だけで老執事の方が遥かに危険で大きな存在だと弘樹たち三人には理解できた。
理解させられた。
存在そのもの、住む世界すらも異なるのだと分かるだけの強力な気配。
それはアルテミスにも言える事だったし、老執事同様強烈でありつつも月光のような、女性的な柔らかさがあったような気がした。
「そして人はそれに近い存在になれる。
場合によっては超えることも。
何故ならそれは、魂に依存するものだからよ」
見えない物の説明が多過ぎて、やはり理解出来ない彼らだったが、十六那は構わず話を続けた。
「日本やアジア圏では、そうね、例えば神社に祀る神様も元は偉人だったり怨霊だったりとかあるでしょ?
人が修行して仙人になったり、悟りを開いて神々よりも上の仏になったり」
あー、と何となく分かったような三人。
「つまりは人も特殊な経験を積めば、単に鍛えて体が強くなる、つまりレベルアップするだけじゃなくて別の何かに進化もするって事ですか?」
貴彦の言葉に十六那は頷いた。
「仙人の中には肉体を捨て自然と一体化する事もあるし、悟りを開いた仏もすでに肉体はないでしょ?
神社に祀られた方はそもそも亡くなった後だったり。
つまり肉体だけの進化や強化は所詮一面でしかないの。
ただその影響、おまけで肉体面も強化される。それが霊格のアップね」
分かったような分からないような。
「例えば…貴彦君と小春ちゃん、と呼ばせてもらうわね?
二人は友に裏切られ、その友だった者たちが死に、その上友の一人は行方不明になった。
そして更には戻れるかも分からない異世界に飛ばされここに居る。
ほんの短時間でそれだけの事が起きたのに、貴方達は一見あまり慌てても悲しんでも、なんなら気にすらしていないように見えるわ」
十六那の言葉に二人の顔は強張った。
「でもそれも霊格による影響なのよ」
優しい口調で語る十六那に、二人の表情は多少和らいだ。
「気にしていない訳じゃないんです。でも麻痺しているって言うか、あぁ、そうかって、すとんと受入れてしまったと言うか」
小春の言葉に貴彦も頷いき、
「もっと落ち込む事だと思うし、あれこれ頭が一杯になりそうな事なのに、何故か冷静な部分が強くなっていて。それに霊格が影響しているんですか?」
と続けた。
「ええ、そうよ。
霊格の向上は認識力や体力などの向上もするけれど、感情や記憶、情報を制御する力、処理する力も増すの。
色んな経験を積んだ人の方が咄嗟の対応を取れたりするようにね。
特殊な状況で恐慌状態になったり、泣き崩れてたら死ぬでしょ?」
そうだった。
三人の遺体を見たとき、冷静さを欠いていたなら二人はおろか弘樹すらここには居なかっただろう。
ずっと弘樹が二人に感じていた違和感、それはこのせいだったのかと納得した。
「勿論気持ちを力に変えるのも、この制御力が影響するから、怒りを力に変えるなんてことも実際可能なのだけれど、でもそうね、今日はこの辺でやめておくわ。流石にこれ以上話したら皆こうなっちゃいそうだもの」
チラリと目をグルグル回しているエアリスをチラッと見て、十六那はクスッと笑うのだった。
あぁ、彼女はすでに二人が悩んでいる事に気づいていたのかと、その為にあえてここまで説明したのだろうと、弘樹は十六那の不器用な優しさに触れた気がして、何だか嬉しかった。
霊格の話も終わり、五人は神殿の隣に建つ冒険家ギルドへとやってきた。
冒険者ギルドはイメージしていた通りの作りだった。
大きな両開きの扉から室内に入れば、正面にはいくつもの受付カウンター、そこから少し離れた右手の壁にはボードがあり、そこに幾つもの依頼書が張り出されている。
カウンターは右から少人数用受付5つ、大人数用受付3つ。
そしてその隣には広めのテーブルが置かれており、買い取りカウンターとなっていた。
そして扉を背にして左手には、人が三人横に並んで上がれる程の大きな階段があり、その先にはいくつかのテーブルと椅子、カウンターテーブルも用意されており、軽食や酒を飲めるようになっており、すでに酒盛りも始まっている。
入り口付近など要所要所に日本語の案内板が設置されており、それによると二階には冒険に必要な道具や薬品、有料の治療院に数こそ少ないものの武器防具なども売られているようだった。
「やばい、本当に冒険者ギルドだよ!やっぱお決まりのアレが来るんじゃね?!」
「アレってやっぱりアレですか?!」
弘樹と貴彦の二人は勝手に盛り上がり、酒場の雰囲気に引き気味な小春は十六那の背に隠れるようにしてギルドへと足を踏み入れた。
「そこのお兄さんたち、新人いびりとか難癖つけて絡むとか転移者にそんな事する馬鹿はいないからね?
何故だか期待する転移者は多いみたいだけどね」
アレの話で盛り上がる弘樹と貴彦に声を掛けたのは、燃え盛る炎のような赤い癖っ毛の美女だった。
身長は170センチ強、革製の軽鎧を身に纏い、大きな胸が零れ落ちそうになっている。くびれた腰には長剣と小剣を下げ、その手には泡立つ琥珀色の液体が入ったジョッキを持っており、それをグビッと飲み干した。
「あっ、え?そうなんですか」
「ですよね。お約束とかそーはないですよね」
一瞬しょんぼりしつつ返す男二人。
しかし次の瞬間には弘樹と貴彦の目が輝き、それを見た小春と十六那の目は氷のように冷たくなった。
二人はそれに気付かずに、周りには聞こえる程度のヒソヒソ声で
「おぉ?!きっとアレだよ、かなり強くて高ランク、ヒロインの一人的なアレだよ!」
「あー、よくあるパターンですよね?クッコロ的な立ち位置かも知れないですよ?!」
どうやら別のアレの話に切り替わったようだった。




