世界は恵那で満たされています
世界は恵那で満たされています
「この世界は恵那で満たされています。
恵那とは神々の祝福なのです。
神話においても世界を創造する際に用いられたものとされ、全ては恵那で形作られているとも言われています。
私達はそれをある程度調べる術があり、それで銃器などに関する浄化の結果を推測する事が出来たのです」
エアリスは満面の笑みを浮かべつつそう告げ、今にも神々に喜びの祈りを捧げそうな様子だった。
あやふやな物を調べて結果とする、現代日本人としては今ひとつ納得のいかないものだったが、ここはファンタジー世界なのだ。
それも仕方がないのかも知れない、と貴彦や弘樹が思った時、十六那が苦笑を浮かべつつ口を開いた。
「恵那って私達に一番わかりやすい表現をするなら、経験値の一種よ」
そんなもんあんのかい?!
思わず心の中で突っ込む弘樹。
どれだけここの神々はゲームの影響を受けているのやら。
十六那の言葉に三人は驚きつつも先を促す。
十六那はちらりとエアリスを見つつ、「彼女の言っている事も事実ね。
この世界は恵那と呼ばれるエネルギー、簡単に言えば〈存在の力〉のようなもので構成されているわ。
それは人も同じなの」
そこまで語ると仲間の三人へと視線を移し、
「つまり存在の力を敵を倒す事で得る、まさに経験値なのよ。
それとは別に日々の生活を生きる、食べる、何かを作ったり開発して成功したり失敗したり、そんな色んな経験でも恵那は人々に取り込まれ、時に祝福し、その人の力になってゆくの。
ただ一番手っ取り早く恵那を得るには魔物などを倒す事なのね」
へー、ほー、なるほどー、そうだったのですね?!
四人が各々口にする。
一人興奮しつつ祈り始めた人も居たが、それは放置して十六那は話を続けた。
「アルテミスにもらったギフトと、彼女と一時的に繋がった事で漠然とだけどあれこれ分かったのよ。
恵那は全ての素であり、祝福でもある。まぁ実際の所、神々もあれこれ面倒だから、存在も経験も一緒くたにしたみたいね。
無関係ではないからこそ、双方を混ぜ合わせるのも簡単だし。
例えば超一流の戦士、これが存在する理由は?
素質や環境、訓練、実戦などの経験によって生まれるとかね?
それは新大陸なんかを作るのにも有効だしね。
恵那は存在であり経験であり、因果ですらあるとすれば、それを元に作られた新大陸は実は数千年の歴史を持った知られざる大陸だった!とか出来る訳ね」
確実に世界創造の秘密と思える内容すら語り始める十六那。
そしてそれを誰も止める事などできなかった。
「勿論神々も神々なりの倫理観を基本部分は統一したらしくて、昨日まで居なかった人間がNPCみたいにホイホイ現れるとか、その手の事はしていないらしいわ。
多少何かしら手を加える事はあっても、あくまでもルールで許される範囲内でやるって事みたいね。
よくやるのは他の大陸からの移住みたいね。
まぁ転移組転生組の時みたいに、穴だらけの約定も沢山作ってそうだけどね」
十六那は得たばかりの知識を語るのが楽しいのか、いつも以上に喋りまくっていた。
何なら神々をディスりはじめてすらいる。
聞いているエアリスは興奮から抜け出し、顔を蒼くして涙目を通り越し意識を失う寸前だった。
「それにほら、神々から人間に何かを与えるのにも楽なのよ。
例えば神の祝福としてギフトを与えたり、能力値やスキル、レベルを与えたり上げさせたり、逆に罰として奪ったり負の効果を与えたりね。
何しろ恵那を弄れば良いだけなんだから、一度作っちゃえば簡単じゃない?」
バッサリと言い切る十六那。
しかしてそしてその暴走は止まらない。
「でね、さっきの話に戻るのだけれど。転移者が剣や魔法で倒せば、浄化してくれてありがとね!って感じで経験値ボーナスがつくのよ。
でもただ倒すだけだとそれは発生しない。
つまりは戦闘時の経験値として恵那の数値をチェック出来れば、ボーナスありかなしかで判断が出来るの。
だから転移者に銃を使うパターンと一般的な武器を使って倒すパターン双方を試してもらい、それを計測して得た結果銃ではボーナスがつかない、つまりは浄化出来てないって事が分かったわけね」
スッキリした!
と言う顔で語り終えた十六那は冷めた紅茶を飲み始め、エアリスは泡をふいて倒れていた。
うん、話し始めた時点でなんかこうなる気がしてた。
弘樹たち三人は十六那を生暖かい微笑みで見つめるのだった。
しばしの時を置いてエアリスは復活した。
ただし一部の記憶はなかった事にしたようだった。
「こほん。では続きを始めますね」
精彩さの欠けた様子でエアリスは説明を続ける。
他の基本的なことと言えば、
浄化可能な戦える地球の人間を、基本的には承諾を得て召喚している事。
世界の拡張や変化は日々続いており、近日新大陸が開放される事。
なお、現在第七大陸まで公開されている。
神々の敵対者である唯一神を名乗るものの系譜(天使や堕天使など)は原則侵入禁止としている事。
エルフやウンディーネ、天女など異種間交配可能な種族はいるが、あくまでも神使や精霊、妖精などであってファンタジー世界における人種ではなく、神話伝承に基づくものである事。
そしてレベル以上に戦闘や寿命、その他様々な事に大いに影響を与える霊格と呼ばれる進化形態があり、それはある意味神化形態でもある事。
霊格の話が出たとき、一瞬十六那が何かしら言いたそうにしていたが、詳細は冒険者ギルドで語られると説明を受け、渋々口をつぐんだ。
「説明は以上となります。そして私共ラクヨ神殿より些少ですが旅の支度金を進呈させていただきたいと思います」
エアリスはそう言うと、革製の巾着袋を取り出しテーブルへ置いた。
ジャラリと良い音を立てる袋の中身は、硬貨の類であろうか、かなりの枚数が入っているように弘樹たちには思えた。
「これは私達から皆様方へのお礼の意味を込めてのものです。
全ての八柱神殿で、はじめて説明を受けた転移者の皆様へと贈らせていただいておりますので、遠慮なくお受け取り下さい」
エアリスは今までで一番真摯な顔で、四人に頭を下げた。
見習い神官であった頃、エアリスは王都の神殿で修行していた事があった。
彼女は深く考える事なく、先輩神官たちに付き、転移者と呼ばれる人々への説明やサポートの助手を勤めていた。
先輩神官たちが真摯になって彼らに尽くす姿は単に深い信心故だと思っていた。
当時のエアリスにとって、転移者とは人で有りながら、神々の計らいによる奇跡の一環であり、生まれながらの戦士や魔法使いなのだと勝手にそう思い込んでいた。
いや、本当は薄っすらとは感じていたのだ。
ただ無意識にそう思い込む事で自分の心の負担を少しでも軽くしていたのかも知れない。
しかし実際に彼らと接すると、その多くは神々への信仰を持つ者が少なく、神の使いとは思えぬ人たちばかりだった。
特別な力を持っており、知識や社会常識が違い、変わった人たちが多かったが、笑い、怒り、泣いて眠り、食事もする、ごく当たり前の人々なのだと、そう気付いてしまったのだ。
自分たちの世界のために、幾ら基本的には本人の承諾済とは言え、異世界で家族や友人たちと暮らしていたはずの人間を連れてきて命懸けで戦わせる。
そもそもろくに魔物も居ない、世間的には居ないとまでされている世界で、それも戦争が長らく行われていない国からも、生きようと思えば戦わずに生きて行ける者たちが連れてこられるのだ。
王都から出たこともない武術や魔法を習得した民が、ある日急に魔物が跋扈する森へ送り込まれて平気な訳がないのと何ら変わらず。
それどころか頼る家族や友人、知人すら居ない環境で生きてゆくのだ。
本人は承諾していてもその家族は?
恋人や友人たちは?
二度と会えぬ彼らの帰りを待つ人々が、別の世界に居るかも知れない。
そんな事実に気付いた時、エアリスも先輩神官同様、献身的にサポートしようと、出来る事なら友人知人の一人になり、支えられるよう、日々の勤めを全うしようと、それが自らの信仰だと心に誓っていたのだった。
硬貨の入った革袋を弘樹が受け取り、十六那に手渡す。
何しろ鞄の類を持っていないので。
そんな弘樹の姿を見て、着の身着のままの転移者対応マニュアルを作らねば!
そう心に誓うエアリスだった。




