この、悪魔がっ
この、悪魔がっ
それ最初から出来たよね?絶対わざとやってたよね?てか誰か分からないけどその名前多分偽名だよね?
皆が心の中で思いつつその言葉を飲み込んでいると、少しカリスマ性のあるイケメン白人老執事となったセバスチャン・ハーレクインは、早速とばかりに本題に入っていた。
「我が主の命、それはっ!!
皆様方をあちらにお送りする事にございます!!
その為即座に光の柱を解析、クラッキングさせていただきました!
なぁに、ほんの児戯でございますとも!!フォフォフォ!」
クワッ!と目を見開き、断ったらどうなるか分かってんだろーな?と言う言外の意志を駄々漏れに、明らかな自慢話と高笑いすら盛り込んで、セバスチャンはステッキをトンネルに向けて叫んだ。
多分そうだろうなーと思っていた皆は特に驚くことなく、どう返事を返したら問題なくやり過ごせるのか頭を働かせていたが、一人だけそうは考えていない者がいた。
千尋の中の人である。
円環の縛鎖はセバスチャンの存在によって十六那の集中が解かれた為、気付いた時には消えていた。
十六那はこの老執事の前で無闇な魔術の行使は危険であると判断し、千尋の体は自由なままになっていたのだ。
「何言ってんのよ!主の命だか何だか知らないけど、そんなの規約違反になるじゃないよ!
それじゃ私が怒られちゃうのっ!!
そうよ、ここは一度あちらと連絡を…」
千尋は自由になったその身を起こすと、セバスチャンの目前へと躍り出てまくしたてる。
皆が慌てて止めようとするが、セバスチャンの動きの方が遥かに早かった。
彼はモノクルの奥の目をすっと細めると、ふわりと優雅な仕草でステッキを千尋の額に触れさせる。
「夜叉族のダーキニー種如きが。
邪魔はいけませんな」
その言葉と共に見えざる力がステッキより放たれる。
「あっひゃ〜!」
千尋の身体はトラックにでも跳ねられたように吹き飛ばされ、その身から長い黒髪に浅黒い肌の女性が弾き出されて地面をゴロゴロと転がる。
意識のない千尋の吹き飛ばされた先には例のトンネルがあった。
トンネルは強力な吸引力でもあるのか、千尋をそのまま飲み込みあっという間にその姿は消え去った。
「千尋!」「千尋ちゃん!」
貴彦と小春の声が虚しく木霊する。
二人はセバスチャンに何とか出来ないかと顔を向けるも、ゆっくりと首を左右に振った。
「いやはや、困ったものでございますな。こんな所で事故が起きてしまうとは。
かの者が既にあちら側へと渡った事は分かるのですが、果たしてどのような場所へ出たのやら。
私にも分かりかねるのですよ」
真顔で語るセバスチャン。
本気で困っているようなその様ですら滑稽な、嘘とも呼べぬ演技を弄する。
「この、悪魔がっ」
弘樹は思わず呟くと、セバスチャンの目が愉悦の光を帯びて彼をチラリと見、口元に僅かながらに笑みを浮かべた。
「?!!」
弘樹の腹部に軽い痛みが走る。
あっ?!!
それは記憶に新しい痛みだった。
家を出る直前、唐突に起きた軽度の痛み。
しばしの間トイレに座したその原因。
これが無ければここには居なかった、偶然の出来事なはずだったもの。
その痛みはすぐに治まったが、受け入れる事を決めたばかりの超感覚は、それを引金に走馬灯の如き閃きを弘樹に与え、いくつかのシーンを断片的に脳裏へと浮かび上がらせた。
霧の立ち込める保護樹林の中、六人の少年少女が自転車に乗ったまま脇道を進んで行く。
スーパーで割引された品々を吟味し買い物をする自分。
保護樹林の入り口で十本ほどの倒木を前に眉をひそめる十六那。
それは本来あった未来。
直感的に弘樹は理解した。
いや、目の前の悪魔に理解させられたのだ。
そして最後に見えたのは、金銀財宝が積まれた山の上、絢爛豪華な玉座に座る一対の黒い翼と二つの黒い鳥の頭を持つ、数多の悪霊悪魔たちの王たる威容。
「セバスチャン・ハーレクイン!
お前、最初から企んでいたんだな。
俺がここに居るのも偶然じゃない。
一石を投じて運命のレールを切り替えさせた!
そういう事だろう?!
黒き双頭の魔王様よっ!」
弘樹が怒りを滾らせ老執事を睨みつけるが、セバスチャンは心の底から嬉しそうに微笑む。
「え?それって…どう言うことなの?」
無言を貫き様子を見ていた十六那だったが、弘樹の怒りに満ちた言動に思わず尋ねる。
それを遮るような形で悪魔セバスチャン・ハーレクインはステッキを皆に突き付け宣言する。
「運命の悪戯で死の定めより逃れた、友に裏切られし者たちよ!
託宣によって訪れし邪教の巫女よ!
そして…偶然と言う名の運命に弄ばれし男よ!
さぁ、行くがいい!
我が主の命、それは絶対である故に!」
セバスチャンの言の葉に全ては済された。
逆らう事の許されない暴力的なまでの引力が、貴彦、小春、十六那、弘樹、そして千尋の中に居た人を襲う。
気付けば彼等は極彩色の世界へと引き込まれ、深く、あるいは遠く、何処までも続く穴の中を通り抜けて行くのだった。
未だ大きな月が泉の上に輝き、その地を柔らかく照らしている。
そこには誰の姿もなく、主を失った祠がただ静かにたたずんでいた。
やっと異世界転移ものになってきた気がする!




