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ソウル・リファイン  作者: 弥生丸
地球編
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郊外の畦道

郊外の畦道


街灯どころかろくに家の明かりすらない夜の田舎道を、軽自動車がややゆるやかに走っていた。

日本の首都東京都にも田舎は存在する。

時に都下と評されるエリアは駅周りや大きな街道沿い、大手企業による住宅地の計画範囲内は発展しているものの、そこから少し足を伸ばせば未だ緑は多く、畑や田んぼすら普通にあり、バスや電車も本数が少なく、車がなければ生活の厳しい地域は未だ健在だった。


車を運転する男、山野弘樹は42歳、独身、厄年、求職中と、世間一般では中年、オッサンと呼ばれる世代であまり余裕のない日々を送っていた。


厄年のパワーは並々ならぬものがあった。

長年勤めた会社は倒産、ゴミ出しの際にぎっくり腰、そして老眼もはじまった。


未婚で都内とは言え市の中でも農地付近にあるアパートに独り暮らし。

両親はすでに他界し、元々距離のある関係だった兄と姉とも、ここ数年疎遠になっていた。


車が無ければ通勤や生活物資の買い出しすら危ういため、軽自動車は持っているが、それ以外に売れる物などろくになく、雇用保険で足りない分は貯金を切り崩し、ハローワークに通いつつどうにか生活している、そんな冴えない何処にでもいるオッサンだった。


長年働いた会社は潰れ、特に就職に活かせる資格を持っている訳でもなく、年齢もあって中々仕事は見つからない。


特技と言えば子供の頃流行したスプーン曲げを試したら結構な頻度で曲げられた事や、裏返したカードの図柄をなんとなーく当てる事くらい。

少し意識を集中すれば表情を読むのと同じ感覚で、ある程度相手の感情が分かることもあった。 

営業に活かせるかも?!と思った時期もあったが、そもそも「何となく」レベルであり、その上異様に疲れる。

スプーン曲げも曲げられた時は楽しくて何本も曲げてしまい、その後の倦怠感に寝込んでしまった事があるが、感情を読むのもそれと同じかそれ以上に疲れ、倦怠感の他に激しい頭痛すら起こるため、あるけど無い、いざって時に使えればいっか?程度の特技となっていた。 


老後どころか病気や大怪我を負ったらどうしよう?

このまま仕事が見つからなければ雇用保険も終わり、貯金も底をついてしまう。

 

ほんの少し考えるだけでも不安しかない、孤独死が待っているかも知れない。

このままだと確実に訪れる嫌な未来からは目を逸らし、若い頃から資格取得や財テクなど何の対策もしないまま、適当に生きて来たツケが今の現状となったのだ。

実際の所、零細企業勤めであったため、投資などに手を出す余裕など端から無かったのだが。


趣味はラノベを読んだり、ゲームをしたり、動画配信サイトに登録してアニメや洋画を見たりともっぱらインドア派であった。

声優のライブへ行ったり、フィギュア等のグッズを購入する程ではなく、ネットを通じてファン仲間と出会ったり、オフ会に参加することもない。


超能力もののアニメや漫画にはまった時は、手から光を!とか試した事もあるが、スプーンやフォークを曲げれる以上の効果はなく、現実なんてそんなもんだよなと思ったものだ。


ハローワークのみならず、無料配布の求人誌やアプリも使い探してはいるが、未経験な世界に足を踏み入れる勇気が持てず、それでもどうにか書類を送った先からもお断りの通知が来る、そんな日々。


弘樹はちらりと車内の時計に目をやった。

PM 7:25

予定より15分近く遅れている。


家を出る前に軽い腹痛があり、トイレにこもって時間を使い過ぎた。


弘樹は街道の外れにある地元でしか名前を聞かない、そんなスーパーの見限り品を購入すべく、畦道を走っていた。

惣菜や弁当、パンに肉に野菜など、午後7時半から閉店時間の9時までの一時間半、三割から最大半額まで値引きされる。


働いていた頃も手頃な値段とそこそこの味付けが気に入り時々利用していたスーパーだが、今では週に数度訪れる事も多かった。


その後もチラチラと時計に目をやるが、当たり前の事ながら時が止まることもなく、時計は時を刻んでいった。


まずい、これじゃ時間に間に合わない!

見切り品は売れ残りとはいえ人気のある品や比較的鮮度の良い品から売れてゆく。


独居の学生や高齢者、弘樹と同様の環境にある者など、様々な人達が虎視眈々と見切り品を狙っているのだ。


このままでは戦に敗れ、萎れた野菜やドリップ垂れ流しの肉や魚、やや人気の薄い弁当や惣菜しか買えなくなくなってしまう。


…仕方がない!

弘樹は決意した。


普段アパートからスーパーに行くために使うルートは、畦道を通り市内にある小規模な保護樹林地帯を迂回するようにして街道に出るのだが、実は保護樹林の中には林道が通っており、そこを通ればかなりのショートカットが可能だった。


弘樹はあまり運転が得意ではない上に、その保護樹林は最近ネットで女性の幽霊が出る心霊スポットとして、そして何故かパワースポットとしても市内では有数の地となっており、ホラー映画や怪談、なんならお化け屋敷すら苦手な彼は明るい時間帯すら避けて通っている道なのだ。

霊視とか霊感と呼べるレベルではないが、感情を感知したりカードの裏を感じ取る程度には、何かが見えてしまう事がある。

スプーンは曲げれても、幽霊的な何かを曲げることなんて出来ないし!と、極力避けて生きることにしていた。


保護樹林の手前、林道の入り口近くに差し掛かると、車のライトがあぜ道の隅を歩く少女を照らし出した。

慌てた風もなく振り返る少女。

その肩には体型に似合わない、無骨な印象を受ける大きめの革鞄を下げていた。


車はすぐに追い越してしまったが、ほんの一瞬見えた少女は、目鼻立ちがくっきりしており、かなりの美少女だったように思えた。


若い頃に行ったイベントなどを除けば、直にモデルやアイドルなど見たことなど無かったが、テレビや雑誌で見掛ける同年代のそれらより、ほんの一瞬すれ違っただけの少女の方が綺麗なのではないかと、そう思えた。


田舎の夜は暗い。

いくら都下とはいえ、保護樹林の近辺は家もまばらで街頭も少ない。

塾やバイトの帰りなど、学生でも自転車を走らせることはあるが、保護樹林はそんな地域からもやや外れている。


もしや…彼女が噂の幽霊?

そんな考えが脳裏を過るも、不思議と怖いとは思わなかった。

たまに見かける何かとは違って、あやふやではなくちゃんと実体を持っている感じもしていたし。


幽霊ってより妖精とか天使だよな。

 

そんな事を思いつつ保護樹林の林道へ入ると、再びライトに照らし出されたものがあった。

高校生くらいの少年少女たちが保護樹林の中、自転車を走らせていたのだ。


季節外れの肝試しか?


速度を落としクラクションを鳴らすと、彼らは道の隅へと左右に別れ、その間を車は通り抜ける。

男女三人ずつの六人か。

三人の少年のうち二人は見覚えのある制服を着ていた。

それは市内にある高校のものだった。

それとは別に後列の男女一人ずつがリュックを背負い、そこから竹刀袋に似た物が飛び出しているのが見て取れる。


クラスメイトか部活仲間、塾の友達って線もあるか?


弘樹は何で竹刀を背負ってんの?と思った程度で先程見掛けた少女ほど目を惹く事はなかった。

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