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#5話:後半 市場

「なるほど。詐欺師呼ばわりはカモフラージュというわけだ」


 俺たちが苦笑を交わした時、奥の方で歓声が上がった。競りが終わったようだ。最後まで競り合っていた裕福そうな商人の一人が、素材庫のナンバーの付いたカギを受け取っている。俺はボーランドと話している二人の首元に違和感を覚えた。


「あの二人のプレート。どっちもここ(リューゼリオン)のじゃないよな」

「最近外からの商人が増えてるんですよ。あの二人は確か西と東の都市連盟の商人ですね……」

「ラウリス連盟とグンバルド連盟から来た商人なのか」


 東のラウリスと西のグンバルド。グランドギルドの大基地を前身とする大都市国家だ。それぞれが中心となっている都市の緩やかな集まりと聞いている。


「最近加盟都市を増やしているという話は有ったけど。こんな遠くまで……」


 リューゼリオンは二つの中間に位置する。逆に言えばどちらからも最大限離れているのだ。双方の中心、ラウリスもグンバルドも、単都市としてもリューゼリオンの五倍以上の人口だと聞いたことがあるぞ。


 大体、都市はその周囲の狩猟によって自給自足が基本だ。俺は昔の記録で国を跨いだやり取りの多さにびっくりしたことがある。


 使節が来たとか貿易協定を結んだとか、貴族たちの日記に頻繁に出てくるのだ。今も全くなくはないが……。


「何か気になることでも?」

「……ちなみにそれぞれの商人同士は対立してるのか?」


 明らかに険悪な外来商人二人を見る。東西の大勢力が対立関係にあるというのは、リューゼリオンにもかかわる情報だ。


「あんまり仲が良くないみたいですよ。それぞれの商圏で使う通貨が違うでしょ。両替商があるらしいです。まあ、いくつもの国を跨いで商売できるというのは少しうらやましいですが」

「商人的にはそうだよな。いや都市自体にとってもそのはずなんだが……」


 まあ、そう思うのは旧時代の盛んな交易の時代を知っているからか。大昔に記録された大量の数字が頭をめぐる。ただ、今の都市くにと昔のくには概念自体がちょっと違う。大体、長距離の輸送には昔とは比べ物にならない危険がある。


「西は大きな川が二つ交わるし。東はその川が注ぐ大きな湖がありますから。そこからの水路がこちらまで伸びてますから。東のラウリスは大きな湖に船をたくさん走らせてるとか」

「川はたくさんの物を運べるし、移動も早いか……。狩りの獲物も遠ければボートで運ぶからな」


 魔の森の中を流れる細い川は猟場と関係がある。


「商人同士が東西で縄張り争いしてるのは分かった。金の動きに国境はないか。でも、ギルドはどうだ。昔の国境と違って猟地は境界があいまいだ。争いが起こったら危ないだろ。どんな仕組みでまとめてるんだ?」


 縄張りを守ることは騎士(ギルダー)にとってすべてがかかる。リューゼリオンは他の都市と離れている。最寄りの都市が三十年前に滅んだからだ。その前はいろいろあったらしい。といっても、この話はあんまりレイラには出来ないが。


「……だからこそ中心となる都市が統制するのか……? でも、その場合も力の投射の方法が必要なはずだ。いかに大きな都市でも、周囲に力を及ぼすのは……。ああ、それも水路か……。でもな…………」


 その時、俺の脳裏に本業の副務の命令がよぎった。


「今言ったような都市連合内でマスター家の結婚とかはどうなってるんだ」

「大きな商人同士は聞くことがありますね。でも、騎士(ギルダー)様同士はどうでしょうね。少なくともウチらの間じゃ聞かないです。商人と違って騎士(ギルダー)様たちはお金じゃなくてプライドが無駄に……っと。今のは聞かなかったことに」

「わかってるよ」


 まあ、騎士(ギルダー)が魔物ではなく騎士(ギルダー)同士で戦うなんて大損だ。狩りと違って獲物が手に入るわけじゃないのに、貴重な騎士(ギルダー)を失うなんて、勝っても滅びかねない。その恐怖が抑止になっている、あたりだろうか。


 そもそも騎士(ギルダー)勢力同士の対立なんて、同じ街の中でもあるからな。俺の手がここにはない白墨を回す。


「今後はそこら辺のことも注意しておきますか?」

「ああ、助かる」

「いえいえ、リーディア様絡みとあれば。レキウス様が出世すれば私にもメリットがありますから」

「リーディア絡みなんて言ったか? まあ、城での出世は期待しないでくれ。採算割れの公算大だぞ」

「事情は知ってますけどね。ただ……」

「なんだ、やけに持って回るな? 時は金なりのレイラはどうした」

「いえいえ、レキウス様はちょっと抜けた部分がありますから、そこらへんが少し心配です。特に女性絡みでは」

「失礼な。俺くらい色仕掛けが効かない文官はいない」


 女難の相なんて出ようがないくらいもてないのだ。


「……そういうところですよ。まあとにかく、例の件よろしくお願いします。あっ、そうだ、また工房にも顔を出してください。職人が喜びますから」


 レイラはそう言うと、彼女の商売の材料である赤い花や、紫の根が並ぶ店に向かった。

俺は実験サンプルと試薬の素材、そして新しい実験道具をしまうと、城へ戻るために市場を出る。


◇ ◇ ◇


 文書保管庫で最近の二大派閥の狩猟結果を調べる。記録として納められている一月前までの報告を見る限り、やはりデュースター派とグリュンダーグ派は東西に住み分けている。騎士院で対立しているからこそ、直接衝突を避ける仕組みは維持されている。


 だが、最新の記録をみると傘下のパーティーが少しずつ北部へと狩場を移動させているように見える。これは無視できない動きだ。騎士の動きはそれだけの理由がなければおかしい。普通なら……、例えば大物狙いの偵察を兼ねた行動とかだ。


 あの火蜥蜴サラマンドルか。下級に比べて中級、中級に比べて上級魔獣は、それぞれ希少性も価値も十倍を超える。


 いや、だからこそ上級魔獣を前に対立するパーティーがバッタリなんて悪夢のはずなんだよな。まてよ、もうすぐ城の宴会があるな。両派とも見栄えのいい獲物は欲しいところだ。うーん、だからといって……。


 まだはっきりしない。だが、魔獣の狩り、都市活動の中心において、リーディアの結婚相手候補の二大家が何らかの、今までにない動きをしているのは確かだ。リーディアのいっていた現状を最大限考慮と関係するのか?


 もうちょっと突っ込んだ情報が欲しいところだ。そうだな、三番目の候補であるカインはこの手のことには目ざとい。彼との接触のついでに聞いてみるのがいいか。


◇ ◇ ◇


 官舎に戻る前に学院により、学務課からカインのメッセージを受け取った。どうやら明日には戻って来るらしい。わざわざ俺の問い合わせに応じて来るのが彼らしい。


 家まで近道しようと、校庭の横に向かう。姦しい笑い声を聞いた。学院の一階から笑いながら出てくる学生たち。


「あの子また失敗してる」「平民出の評判が落ちるのよね」など言いながら、寮の方へ向かっている。寮住ということは平民出身者か。


 一階の実習室を見た。窓の向こうで白い髪の少女が一人、机に向かっている。俺はレイラから受け取った木箱を抱えなおして、校舎へと進路を変えた。


2019年8月30日:

次からいよいよ錬金術です。

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