頂上決戦~卑怯な魔王と卑怯な勇者~
「よくここまで来たな、勇者よ」
「……」
「待っていたぞ! この時を!」
「……おい」
「今こそ血沸き肉躍る戦いを……痛だだだだだ!? なにすんのよ!」
「お前が普通に始めようとするからだろうが!」
「せっかくの勇者との対峙のシーンなのよ!? かっこよく決めたいじゃない! あんたも協力しなさいしてよ!」
「かっこよく決められるような状況じゃねぇだろうが! お前自分の持ってる武器の名前言ってみろよ」
「……勇者の聖剣『エクスカリバー』です」
「俺の持ってる武器は?」
「……魔王の杖『ディスペア』……です」
「逆だろ! こんな状況でよくあんなセリフ吐けたな!」
「うるさい! こっちだってなんであんたがその杖持ってるのか謎でならないけど、そこをグッとこらえて憧れのシチュエーションの為に頑張ってたのに……台無しじゃない!」
「で、なんでお前がその剣もってるわけ? 俺その剣の取るためにそれなりに苦労したんだが?」
「こんなやばいアイテム勇者に渡すわけには行かないと思って最速で先回りしたんだけど」
「うわ、俺と同じ考えかよ……」
「同じ考えってことはその杖も先回りして取ったってこと!? そんな卑怯なことして勇者として恥ずかしくないの!?」
「同じことしてた魔王には卑怯なんて言われたかねぇよ」
「大体なによこの剣、結界無効、全能力強化、二回攻撃、全ステータス異常無効? チートよチート!」
「この杖だって魔力結界発動、魔力ダメージ二倍、詠唱短縮、全ステータス異常無効だろ! 渡せるかこんなもん!」
「私その杖手に入れるためにお墓のダンジョン歩き回ったんだけど!? お墓にダンジョンとか馬鹿なの? 怖いに決まってるじゃない! 覚悟決めて行って完璧にマッピングしてそれでないとか、もう二週目なんていく気力残ってなかったわよ! お墓だけに骨折り損だったわ!」
「お前あそこ広いだけだから別にいいだろ! 魔王がお化け怖がってんじゃねぇよ! 俺なんてその剣取り行くのに火山のダンジョン五週したわ! 暑さで脱水症状に何度なりかけてたかわからんし、途中で襲われるモンスターにも『またこいつかよ』みたいな顔されるし、あそこでレベルが10はあがったぞ! 終いにゃ火山のモンスターから『魔王様が持ち出してたからもうここにはないです。ですからここにはもう来ないでくださいお願いします』だとよ、まさかカジノより先に火山から出禁食らうとは思ってなかったぞ、おい」
「何よ! 私はそっちでも苦労してるの! 火山のダンジョンは地形効果無効の魔法で突破して剣はすぐに見つかったけど……問題はそのあと! 重いのよこの剣! 重量40って! 普通のロングソードが10ぐらいなのよ? 4倍重いじゃない! 重量制限でポーション類はいいとしてもお気に入りの帽子まで捨ててやっと持てるようになったのよ!? どうしてくれんのよ! あの帽子高かったのに! やっと持てるようになったけどやっぱり重いから引きずりながら歩いてたら町の人に『大丈夫? お嬢ちゃん? 手伝おうか?』なんて言われた私の気持ちが分かる!? どこの世界に町民から心配される魔王がいるのよ! 顔から火が出そうだったわよ! 火山だけにね!」
「知るか! お前の行いがお前に帰ってきてるだけだろうが! それに俺だってこの杖には苦しめられてんだよ! 二束三文で武器屋に売り払ってやろうと思ったらこの武器売れねぇじゃねぇか! 俺ここまで来るのに何で戦ってきたと思う? そうだよこの杖だよ! 盗まれたらてめぇの手に渡るからな! 攻撃力1ってなんだよ! 王様に持たされた棒っきれの方がまだ攻撃力あったぞ! 魔法の使えない俺からすれば売れない捨てれない装備外せないただの呪いのアイテムじゃねぇか! ここの中ボスっぽい剣豪のおっさんと戦った後なんて言われたと思う? 『まさか杖を持った勇者に負ける日が来ようとは……』だぞ!? 情けないやら申し訳ないやら恥ずかしいやらで死にたくなったわ!」
「えぇ……ガーランドさん杖で倒したの……あの人魔王軍一の剣豪なんだけど……」
「ガチで引くのやめろ、でどうすんだ? このままやるか?」
「無理よ、あんたはともかく私はこんな衣装ダンスみたいな重さの剣もって戦えるわけないでしょ……そうね……お互い武器のことは忘れて素手での戦いにしましょう、これならフェアだわ」
「どこがフェア!? なんで魔法職のお前に俺が丸腰で戦わなきゃならんのだ! 二秒で丸焼きにされるわ!」
「そ、そう? ガーランドさんを杖で倒してることを考慮するとちょうどいい気もするけど……なんかレベルも一回りぐらい違う気もするし……」
「誰のせいだと思ってんだ……却下」
「じゃあ武器を交換しましょう。お互いの苦労は無駄にはなるけど、元の鞘に収まる形にはなるわよ剣だけに!」
「まあ、それなら」
「いちにのさんで投げて交換するわよ……いち……にの……さん!……ってなんで投げないのよ!?」
「お前も投げてないだろ」
「わ、私は、ほ、ほら! 重すぎて投げられなかったのよ、杖投げたら剣返すから私を信じて!」
「お前のどこに信頼に足る要素があるんだよ、魔王ってことを除いても無理だろ」
「これもダメならこのまま戦う? 私一瞬で負ける自信あるけど」
「えらく後ろ向きだな」
「攻撃力がないのはどっちも同じだけど私は機動力もないからね、あーあ、杖が! 杖があればまともに戦えるのに! あんたも『勇者が魔王を杖で倒した』なんてふれまわれたら困るでしょ!?」
「『魔王が勇者に杖で倒された』ってのが広まった方が恥ずかしいよな?」
「私に社会から後ろ指刺されながら暮らせってこと!? お願いだから交換してよ! 土下座ぐらいならするから!」
「お前ほんとに威厳のかけらもないな」
「プライドで飯は食べれないのよ」
「お前が言わなきゃ最高にかっこいいんだけどな」
「あれもだめ、これもだめ、なんかあんたからいい案ないの?」
「あるな、俺もお前も納得できて世間体も守れるやつが」
「おお! 最高じゃない! でその案って?」
「……お前俺の仲間になれ」
「……」
「……」
「……えぇ……普通逆じゃない? 私があんたを悪の道に引きずり込もうとするセリフじゃないの?」
「お前が俺と戦って改心したことにすればいい、俺の人間性に惹かれたとかで」
「惹かれたというよりドン引きなんだけど」
「殺すぞ」
「……うわぁ勇者様サイコー」
「まあなんにせよだ、これならお前が日陰者にならずに済むだろ? ついでに今から戦わなくてもいいしな」
「うぅん……でも大魔王様怒るかもなぁ……」
「おいおいおい! 今さらっと黒幕がいること暴露されたんだが!?」
「やっばっ! ご、ごめん、今のオフレコで」
「できるか!」
「ま、まぁ、仲間になるんだから……いいよね? 私を倒しても私の後ろには大魔王様がいまーす」
「軽い……軽すぎる……全身から戦ってもいないのに力が抜けていく……」
「ほ、ほら! きちんと立って! 立ち上がれ勇者! 傷は浅いぞ!」
「……魔王が勇者に激励すんな」
「ちょっと通信術式してきていい? 大魔王様に」
「……好きにしてくれ」
「ありがとう、それじゃあちょっと失礼して……あ、もしもし大魔王様ですか? 実はちょっとお話がありまして……」
~五分後~
「良かった! 大魔王様全然怒ってなかった! 『次の職場でも頑張ってください』だって!」
「お前それ『勇者の仲間になります』ってちゃんと言ったか?」
「言ったよ、『それがあなたの選択なら私は止める権利はありません』だって、さすが大魔王様は器が違うよねー人間出来てるっていうか」
「人間出来てる大魔王様というパワーワード……この魔王にしてこの大魔王ありって感じだな」
「私が魔王辞める手続きも、後任の魔王の選任もやってくれるみたいだし私すぐに仲間になれるよ」
「二代目魔王爆誕してんじゃねーか!」
「当たり前でしょ、私辞めるんだから」
「……ここで待ってれば魔王無限沸きかよ」
「させないわよ? 魔王軍の人材にも限りあるんだから」
「これからどうする? やることなくなっちまったし、大魔王の足取りでも探すか……」
「待って、私を仲間にする上でいくつか条件があるんだけど」
「なんだよ?」
「一つ目は魔王軍と対立しないこと、魔王軍って結構いいことしてんのよ? 危ない場所に来た人間を追い返したり人間の町に来る理性のない魔物の進行を食い止めたり」
「お前ら本当に悪の組織かよ」
「地域密着を目指してるからね、善良な市民には手を出さないのがウチのモットー」
「一つ目は分かった。二つ目は?」
「これは大魔王様からの命令なんだけど大魔王様の詮索をしないこと。大魔王様すっごい秘密主義だからね、声も変えてるから私も男か女かも分からないし、私が知ってるのはお茶づけが好きだってことぐらい?」
「ずいぶん庶民派な大魔王だな……しかし調べるなって言われるとますます気になるもんだよな」
「だよねー調べちゃう?」
「命令はいいのかよ?」
「私もう魔王軍所属じゃないしー大魔王様の命令聞かなくてもいいよね?」
「ホントいい性格してるな……あてはあるのか?」
「大魔王様に直接会ったことのあるポイントってある国の周りばっかりなんだよ、情報統制やら規制もそれなりに出きるっぽいからその国の王族か貴族だと思うんだよね」
「んじゃまずその国目指すか……」
「うん……でもその前に私の行きつけの店で一杯やらない?」
「お! お前いける口か、どうせなら飲み比べでもやってみるか? 負けた方が飲み代払うで」
「いいの? 私、魔王軍ではそこそこ強い方だよ」
「勇者に魔王が勝てるかよ!」
「魔王の力見せてやるわ!」
その後、ついに魔王が倒されたという知らせが各国を駆け回った。勇者は右手にグラス、左手に酒瓶という装備で魔王を倒したらしい。居酒屋には魔王の『うう、頭痛いぃ……』という断末魔がこだましていたという。勇者は大魔王のもとに向かう、二日酔いでふらふらの魔王を引き連れて、勇者の旅路は続く。
『状況描写が下手ならやらなきゃいいじゃない!』をコンセプトとして作った作品、『練習しないからいつまでたっても上達しないんだよ』という指摘は受付けない。こんなんだから長編小説書けないんだよなぁ……