生きる意味とは。 声劇台本
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公平 人間 25歳 男
さち 金魚 11歳 女
登場人物表
公平♂:
さち♀:
公平(以下公)ナレーション「最近、よく夢を見る。赤い着物を着た女の子が、自分の手を引く夢だ」
さち(以下さ)「公平お兄ちゃん、遊ぼう。ずーと、ずーと、ここで遊ぼう」
公ナ「そんなことを言われて、気づけばゆらゆらとした緑の世界に連れていかれる夢だ。最初は疲れているのだろうとあまり気にしてはいなかったのだが、ここ最近は毎日、しかも色濃くなっていった」
さナ「タイトル、生きる意味とは。……始まります」
公「ふー、疲れた。今日は珍しく終電に乗れた……おっといけねえ、倒れる前に餌やらねえと……ごめんよ、さち、とうとうお前も手放さねえと駄目だわ……俺、なんか出世するらしいんだよ……責任と仕事量が増えるだけで、いつ家に帰れるかもわかんねえんだわ。安心しろ。友達が引き取ってくれるらしいから、そこで幸せになれよ……ん?なんか今日は餌の食いつき悪いな。まあいいや。さーて、明日は一ヶ月ぶりの休みだあ、もう寝るぞお!!」
間
さ「だーめ、お兄ちゃんは、私とずっと一緒にいるの」
公「え?」
さ「おいで、こっちだよ」
公「う、うわあああ!!」
間
公「いって!!腰打った……勘弁してくれよ、こっちは腰痛気味なのに……あれ?ここどこ?森?……いや、なんか覚えが……ここ?夢の場所か?この緑の感じそれだよなあ」
さ「あ!きたきた!!おーい!公平お兄ちゃん!」
公「ん?だれだ?」
さ「いらっしゃーい!!」
公「あれ?なんかあの子も見覚えあるような……」
さ「ばーん!!わーい!わーい!本当に公平お兄ちゃんだ!!」
公「えっと、君、だれ?いや、何か見たことあるな……夢の女の子?」
さ「私はね、さちだよ。ほら、このくりくりお目目とか、赤い着物とか、それっぽいでしょ?」
公「さ、さち?いや何言ってんだよ、さちはただの金魚だぞ!」
さ「公平お兄ちゃんと遊ぶために人間の姿になったんだよ!!」
公「はあ……あれか?これはまた夢か?いつもより結構輪郭はっきりした夢だなあ」
さ「夢じゃない!私が作ったの!……まあ今はそれでいいや。遊ぼう!何しよっか?鬼ごっこする?ドロケイする?そ、れ、と、も、増え鬼?」
公「二人しかいねえんだから大体一緒じゃねえか」
さ「じゃあ鬼ごっこにしようか、まずはお兄ちゃんが鬼ね。いっくよー!」
公「まだ遊ぶなんて一言もって、ちょっと待て!あー、行っちまった、てか、あいつがさちだとすると、ここ水槽かよ……どおりででけえ草がうようよしてるはずだよ。……まあ夢ならいいや。久しぶりに走るか」
間
さ「えへへー!お兄ちゃん!早く早く!!」
公「おい待て!おい、腰痛持ちSEにもっと優しくしてくれ」
さ「もう、お兄ちゃん全然捕まえてくれないんだもん!つまんないよお!!」
公「子供の体力に勝てるわけねえだろ、ましてやお前金魚だろ……勝てるか馬鹿野郎」
さ「じゃあ何する?手遊びも覚えたんだよ!ちゃつぼちゃつぼとか」
公「お前なあ……少しは休ませてくれよ……」
さ「だって!お兄ちゃんとずっと遊びたかったんだもん!!」
公「はあ……大体この夢いつ覚めんだよ……疲労感までリアルとか勘弁してくれよ……あ!やっべ!」
さ「どうしたの?お兄ちゃん?」
公「明後日までに会議資料作んねえといけなかったんだ!早く起きてやらねえと!えい!えい!」
さ「ちょっと!お兄ちゃん!ほっぺた叩いちゃだめ!痛いよ!」
公「なかなか覚めえなあ、頭もやるか……いってえ!!」
さ「あーもう、自分から痛いことしちゃダメだよ」
公「なんでだ……なんで覚めねえんだよ?」
さ「そりゃ、ここは夢じゃなくて、うちの水槽だもん!」
公「いやお前、何言ってんだよ」
さ「公平お兄ちゃん。私ね、もう生まれて11年経つんだよ、金魚の、それも出目金にしては長生きでしょ。猫又と一緒で、そこまで長生きすると妖力を得るみたい」
公「お、おう」
さ「それに気づいたときは嬉しかったんだ。お兄ちゃんとしゃべれるんだって、遊べるんだって。だから毎日連れてきて、二人で楽しもうと思ったんだ……なのに、離れ離れになるって言うんだもん!だから慌てて連れてきたんだよ」
公「ご、ごめん!!でも、それは、お前のためで」
さ「私はお兄ちゃんとずっといることが幸せなんだもん!」
公「……お前、本当にさちなのか?」
さ「そうだよ、10年前にお兄ちゃんに引き取られてから、ずっと一緒にいたさちだよ」
公「じゃあこの世界は……」
さ「お兄ちゃんと遊ぶために、作った世界だよ。本当はもといたどんぶりの方が良かったけど、そこまでは上手くいかなくて」
公「……ここまで来たらもう信じるよ……実際、時間の流れがリアルだし、疲労感はするし、ほっぺも頭も腰も痛いし、お前は確かに人間の感じがしねえし」
さ「本当?嬉しい!!じゃあ早く次の遊びしよ!」
公「いや、外に帰してくれ」
さ「え?」
公「悪いけど、いつまでもこんなところにいられねえよ。ここにいるってことは、現実世界は寝たきりって事だろ。仕事に戻んねえといろいろやばいんだよ!最近人手足りなくて俺居ないと回らないし、直近で持って帰った仕事も片付けなきゃなんねえし、とにかく忙しいんだよ!」
さ「なんでお兄ちゃんがそんなことしなきゃいけないの?」
公「は?」
さ「お兄ちゃんこれからずっと帰ってこれなくなるくらい仕事忙しくなるんでしょ?仕事はお兄ちゃんが生きるためにするんでしょ?でもそんなに仕事したらお兄ちゃん死んじゃうよ!私嫌だよ……私の知らないところで、お兄ちゃんが死んじゃうの」
公「で、でも……」
さ「でももだってもないよ!なんでお兄ちゃんが不幸になる道を歩んでるの?前の飼い主が私の事飼いきれなくなって、捨てられそうになったところを引き取ってくれた優しいお兄ちゃんが、そんな目にあうなんておかしいよ!」
公「……」
さ「そんなことに、いったい何の意味があるの?」
公「(小声)うるせえ……お前に何が分かるんだよ!(たたく音)」
さ「きゃ!!」
公「あ……ごめん」
さ「もういい!!お兄ちゃんなんか勝手に死んじゃえ!」
公「あ、おい、さち!……あーくっそ、子供に手を上げるとか最悪すぎるだろ……まてよ、ここどこだ?」
間
さ「お兄ちゃん怒らせちゃった……でも、お兄ちゃんが心配だったんだもん。ぐすん……あれ?なんか手に白い点点ある……なにこれ、痒い」
間
公「おーい!さちー!悪かったから出てきてくれ!!……あっ!やっと見つけた!!さっきは、っておい!」
さ「かゆいよお、なんなのこれ、かゆいよお!!」
公「おい、大丈夫か!?」
さ「体中がかゆいよお!たすけてえ!」
公「とにかく一度引っ掻くの止めろ!落ち着け!……あれ?白い点出てる?それもたくさん」
さ「これなあに?気持ち悪いよお」
公「これ、白点病だ!」
さ「な、なにそれ?」
公「金魚の病気だ。畜生、俺のせいだ、最近水替えもサボってたし、お前のことちゃんと見てなかったから……て、反省はあとだ!さち、今度こそ本当に俺を外の世界に戻してくれ!」
さ「なんで?」
公「すぐにここから隔離して塩水に入ればなんとかなるはずだ。薬もあるぞ。お前ももう金魚としては高齢だし、早く何とかしないと……」
さ「や、やだ」
公「こんな状況で何言ってるんだ!お前死ぬんだぞ!!そんなこと許さねえぞ!!」
さ「お兄ちゃんが死んじゃうなら、私もここで死ぬよ。どうせ死ぬなら、お兄ちゃんに見てもらって死にたい」
公「なんでそこまで……」
さ「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんが忙しくなる前どんぶりで飼われてたでしょ?」
公「あ、ああ」
さ「私ね、それが嬉しかったの。お兄ちゃんが直接餌をくれて、お兄ちゃんがのぞきこんでいっぱい話しかけてくれて、部屋の中のお兄ちゃんのいる所に連れてってくれて……でも、お兄ちゃんが忙しくなってから、水槽に入れられて、餌は直接貰えなくなって、話しかけてもくれなくなって……さみしかったんだよ」
公「さち……そうだな、水槽の方が水替えしなくて楽だし、お前も広い場所で泳げると思てって。ごめん」
さ「でもそれ以上に、お兄ちゃんが辛そうなのを見るのが私は辛かった。毎日毎日疲れた顔して、まともに御飯も食べずに寝て、それもすごい短い時間で会社行ってを繰り返して……体壊れちゃうよ」
公「……」
さ「身体だけじゃないよ、心もだよ。いつも疲れたとか死にたいとか言ってるの気づいてる?」
公「それは……」
さ「お兄ちゃんが外でそんなに辛いのなら、せめてここで休ませてあげようと思ってこの世界を少しづつ作ってたの。でも、お兄ちゃんが私を手放すとか言うから焦っちゃって」
公「……それは分かってる。けど、それは生きていくためだし、俺のエゴでお前を死なせるわけにはいかないし」
さ「じゃあお兄ちゃん、今の仕事辞めて」
公「は?」
さ「お兄ちゃんが仕事辞めて、新しく家に帰れる仕事探せば、私もお兄ちゃんもずっと幸せだよ」
公「お前、こんな時に何交換条件なんかだしてんだよ」
さ「お兄ちゃんが幸せになる事を諦めるくらいなら、私は死んでもいいよ」
公「本当に、なんでそこまで」
さ「お兄ちゃんが、私のこと愛してくれたから、私だって、その分を返したいんだもん」
公「なんだよそれ……あーもう!わかったよ!!何言ってもお前聴かねえからな!」
さ「お兄ちゃん……」
公「だから早く帰してくれ!!」
さ「うん、わかった。だから、約束だよ」
公「ああ!」
さ「じゃあ、行くよ」
間
公「うお!……ここは、玄関?俺こんなところで寝てたのか?……いやっちょっと待てよ……さち!やっぱり白点病になってる!すぐ塩水しないと……」
間
公ナ「塩水や薬など、手間暇かけ、さちの病気は治った。そのあとは結局、さちは一度友人の元に預けている。しかし、俺は今の仕事を辞め、転職活動を始め、とうとう仕事に就くことが出来て、引き取れることになった」
間
公「ん、また、この夢か……いや、さちの世界か。おー、さち、久しぶり!ごめんなあ、待たせて」
さ「お兄ちゃん」
公「どうした、なんか元気ないなっておい!」
さ「はあ、はあ、」
公「急に倒れるなよ。受け止め切れたからよかったけど」
さ「はあ、お兄ちゃん、わたしもう駄目みたい」
公「え?」
さ「流石に寿命には勝てないね……もうすぐ死ぬと思う」
公「おい、何言ってんだよ、俺お前に会うために頑張ったんだぞ、待ってろ、すぐ原因を調べるから」
さ「もう無理だよ、私もう十二歳だよ、妖力も使いきっちゃたし、しょうがないよ」
公「なんだよ、なんだよそれ」
さ「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、今幸せ?ちゃんとお兄ちゃんが生きていける仕事に就けた?」
公「ああ、とりあえず一月様子見たけど、ちゃんとした職場だ。お前をまたどんぶりに戻せるぞ」
さ「ならよかった。私嬉しい、お兄ちゃんが私と幸せになる事を考えてくれて」
公「ああ、だから、生きてくれよ、さち、さち!」
さ「お兄ちゃんとこうして話せるようになってよかった……お兄ちゃん、これからも、幸せになる事を忘れないでね……」
公「さち、起きろよ、起きてくれよ、さち!さち!!」
さ「さようなら、お兄ちゃん」
間
公「うわ!……玄関?は!さち!!……死んでる。なんだよ、なんだよそれ……」
公ナ「結局、そのままさちは亡くなった。しばらくは泣いてばかりだった俺だが、時間をかけてどうにか今は生きている。でも、一つ確かなことがあった、毎日家に帰れて、ゆっくりとご飯を食べて、眠れる生活は、心に余裕を生む。少なくとも、そこには確かな幸福があった。これは、さちが作ってくれたものだ」
さ「お兄ちゃん、今は何のために生きてるの?」
公「さちがくれた幸福を生きるためだよ」