幕後 桜小路和雅編
石造りの塀を背にして、僕は地べたに座り込んでいた。目の前には鬱蒼と茂る木々とそれが部分的に焼失している空間。背後の塀を跨げば、平山神社の本殿の右脇へと戻れる。
つまりここは、シシ様がいなくなってしまった場所であった。
僕の左横には縦横二十センチほどの石が置かれている。
滑らかな楕円形をしていて──それは観光案内で小川にいった時、シシ様が気に入っていた形であった。
先ほど坂ノ下さんと一緒に、シシ様と所縁深いうちの山で見つけてきたものである。
墓石代わりだった。
ただの自己満足かもしれなかったが、それでも僕たちはこうせずにはいられなかったのである。
二十分ほど前まで坂ノ下さんもここで手を合わせていた。けど、僕が一人になりたがっているのを察したのだろう、気を利かせて先に帰ってくれた。
そういえば坂ノ下さんと次に会う約束をしないで別れるのは、これがはじめてだった。
この先僕たちの関係はいったいどういうものになるのだろうか、と少し考えてみたものの、正直まったく解らなかった。──ただ短かったとはいえ、かけがえのないひと時を一緒に過ごした仲である。きっとこれっきりということはないのだろう。
僕はふと、神社の裏手のほうに顔を向けた。周囲を覆う木々の向こうにうちの山の頂が望める。
もしも……僕がシシ様を落とさなかったら。落としたとしても、見つけられていたとしたら。彼女はいまも僕の部屋に置かれていたことだろう。さすがに幼い頃のように一緒に遊びにいくことはなくなっていただろうが、大切に置かれていたことだけは間違いない。あるいは東京にまで持っていっていたかもしれない。
しかし……そうなっていたなら。今年の春、うちの山の中で一人の少女が悲しい目に遭い、そのままになっていたことだろう。
どうにもならないことが、世の中には確かにあるのだった。
けどその一方で、本当ならどうにかなるはずことが最初から諦められてしまっている場合もあるのだ。
僕はゆっくりと立ち上がる。
高校を卒業したら、僕はこの町に帰ってくるつもりだった。
帰ってきてどうするかはまだ具体的には決まっていない。ただ、自分の生まれながらの境遇にしっかりと向き合うことだけは揺るぎなかった。
そしてそれは、幼き日々へのケジメとなるだろう。
僕はそれを以って、シシ様への餞とする──
福富司です。「ボーイ・ミーツ・お面」はこれにて完結となります。
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