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ぷよぷよ!!!!  作者: しーえー
9/21

8 壁の高さは同じ。異なるのは、

 逃げるように部室から出た。

 帰ろう。この二日間は、何かの間違いだったんだ。環境が変わってすぐだったから、なんかそういうアレだったのだろう。どういうアレなのか全く分からないけれど。多分、ビギナーズラック的な何かだ。

 鞄を背負いなおし、帰路を歩み始める。

「待てよ。逃げるのか」

 数歩進んだところで、早くも止められた。

 振り返るまでもなく、声の主は明らかだった。正直無視を決め込みたかったが、それで追いかけられるのも面倒くさい。

 経験上、目先の面倒くささよりも後の面倒くささの方が厄介な場合が多い。

 仕方ない。合理主義を自称する出帆としては、ここはおとなしく振り返るしかない。

 偉そうに腕を組んで見下してくる深緒へ、問う。

「逃げるって、何の話かしら?」

「逃げるなよ。ぷよぷよから」

 深緒の言葉を、出帆は鼻で笑った。てんで見当違いな指摘だ。

「逃げてなんかいないわ。そもそも私は定型が好きなだけで、ぷよぷよ自体はそんなに好きではなかったのよ。もともと心が離れていた場所からさらに少し離れただけ」

「……あえてぼかして言ってやったのにな。馬鹿な奴だ」

 深緒は、呆れるような、哀れむような目を向けてくる。

「じゃあ、言い方を変えるぞ。――才能から逃げるな」

 ぐぅ。今度こそ、返しに詰まった。

 図星だった。完全に。

 才能のなさから逃げて、才能のある人から逃げて。そんな自分を見て見ぬふりする才能だけは一丁前にあって。

 全く嫌になる。

 とはいえ。一つだけ反論したい。

「あなたにだけは言われたくないわね。私と違って、天才の冠をほしいままにしていたくせに。たった三年でぷよ界の頂点を掴みかけたのに。なのに、あっさり引退したあなたには、私の苦しみなんてわからないでしょう」

 負け犬みたいな悪態のつきかたに、嫌気がさす。しかし、そんな自分をコントロールする余裕は、今の出帆にはない。

「……ああその通りだよ。頂点に立つ化け物みたいな連中に勝てる未来が見えなくて、ぷよぷよをやめた。それからはぷよぷよから、才能の差から逃げて生きた。一年間、逃げ続けた」

 目線を落とし、忌々しげに吐き捨てる。

「そんなアタシだからわかる。逃げた先には何もないって。才能が壁として立ちふさがるなら、頑張って踏み台を組み上げなきゃなんねえんだって」

「……そんなの、わかっているわ」

 言われるまでもなく、わかっている。逃げた先の景色などまだ知らないけれど、簡単に想像がつく。

 才能の壁は努力で超えるしかないのだということも。

 でも。知ってしまった。

 どれだけ石を集め、丹念に磨き、整え、一つ一つ丁寧に積み上げても。

 高すぎる壁は、越えられないのだと。

「わかって、いるわ」

 小さな声で繰り返し、背を向ける。

 もうこれ以上、彼女と問答はしたくなかった。現実を見たくなかった。

 だから、歩き出す。

 そんな出帆の背を、深緒の、叫びに似た声が呼ぶ。

「灼は! 灼はどうするんだ! お前の弟子だろ!」

「……あの子が勝手に言っているだけよ。私は師匠なんかじゃない」

 振り返ることすらせず、出帆は静かに答える。

「あの子は10年に1人いるかいないかの天才よ。いずれ一人でも頂点まで登り詰められるわ。なんなら、あなたが師匠になってあげれば良いじゃない。あの子の才能は、私よりあなたの方が育てられるわ」

「……何も知らないくせに……」

 お互い様でしょう、それは。

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