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ぷよぷよ!!!!  作者: しーえー
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4 天才の甜菜

 それから。結局、出帆は入部することを決めた。深緒が厭味ったらしく「それで、負けたらどうするんだっけか? 一年もブランクのあるアタシにすら勝てない『定型の最果て』さん?」と煽ってくるものだから、アケコンの角で顔面を陥没させてやろうかとも思ったが、勝負が決した後にやったところで結果は覆らない。だから、次はきちんと戦いのさなかに肉弾戦を繰り広げてやろうと心に誓うだけに留め、代わりに「うるさいわね」と露骨に嫌そうな声を出した。

「いいわよ分かったわよ入るわ入れば良いんでしょう? でも団体戦に出るとは言ってないわよ。復帰戦を飾りたかったら勝手に個人戦に出ていなさい」

「は? 往生際が悪いぞ『定型の最果て』。それでもお前は誇り高きぷよらーか『定型の最果て』。おとなしく団体戦にも出場してアタシの足を引っ張ったらどうだ『定型の最果て』」

「鬱陶しい語尾をいちいちつけてやかましいわねそんなに羨ましいならあなたに『定型の最果て』あげるわよ。良かったわねこれで晴れてあなたが『定型の最果て』よ『定型の最果て』」

「定型を組まないアタシが『定型の最果て』を名乗ってなんになるんだよいらないなら灼にやれよ。弟子だろ?」

「弟子じゃないわ」

「……あのー。『定型の最果て』ってなんですか? 出帆さんのことですか?」

 灼の純朴な疑問。出帆より先に深緒が口を開いた。

「ああ、そう。全国トップクラスのぷよらーにもなると、二つ名がついたりするんだ。『ぷよ界のバイブル』とか『大連鎖王』とか。まぁ、こいつの場合実力的には全然そういうレベルじゃないんだけど、定型を組む奴の中では一応一番強いからな。なんかついてた」

「なんかついてた、じゃないわよ。勝手に人の二つ名解説して。私はその二つ名嫌いなんだから」

「えー! 格好いいじゃないですか! 『定型の最果て』だなんて。あきも二つ名ほしいです!」

 心底羨ましそうに言う。出帆はごまかすように苦笑いを浮かべ、「灼ちゃんも頑張ってぷよぷよを続ければ、いつか二つ名がつくようになるかもしれないわね」と諭す。

「わーい頑張ります!」

「そういえば、灼ちゃんはぷよ歴どれくらいなの?」

 これ以上二つ名の話を続けるのは好ましくない。そんな思いから、やや強引に話をそらす。灼はややきょとんとしつつも「えーっと」と斜め上へ目線をやりながら考える。

「大体十日くらいです」

「本当の本当に初心者だったのね」

 なるほど『お荷物を抱えて全国行った方が格好いい』という深緒の言葉は本気だったのかもしれない。さすがに二人も初心者がいては勝てるものも勝てないだろうから、おそらくそれで自分を呼んだのだろう。

 まぁ、協力する気はないのだが。

 ずるいだとか卑怯だとか言われようと、自分はもう大会になど出たくないのだ。勝った負けたの世界で生きることに、疲れた。

「どう? ぷよ、楽しい?」

「はい! とっても!」

 少しの濁りもない声で言う。

「そっか。それは良かった」

「お師匠さん! あきともぷよぷよしましょう!」

「お師匠さんって誰の事かしらねぇ。そこの岩浪深緒とかいう人の事かしら」

「あーん、出帆さんひどいです。あきのお師匠さんは出帆さんです!」

 ひどいと言いつつ楽しげだ。出帆は一つため息を吐く。

 これ以上問答を繰り返しても仕方ないだろう。彼女が勝手に言う分には立場は変わらないのだから、好きに言わせておこう。そう結論づけ、コントローラーを手に取る。ガチの戦いではないので本数は決めない。

 出帆はこれまで何万回と組んできた連鎖を手なりに構築しつつ、チラチラと灼のフィールドへ目をやる。

「えーっと、えーと、こう、こう……こっちかな? あ、ちがうズレた!」

 灼が組んでいるのは、オーソドックスな階段積みのようだ。ぷよぷよを触ったことのある人ならば必ず知っているであろう、縦3を並べる連鎖だ。操作もまだまだおぼつかない。ぷよ歴十日という言葉に偽りはないのだろう。

 まぁ、こんなものだろう。そんな感想は、一瞬で消えた。

「……うまい」

 うまい。思わず声が出てしまうほどに驚いた。非常に、手順が良い。


 将棋において様々な囲いや戦術がある様に、ぷよぷよにも連鎖の定跡がたくさんある。階段、鉤、GTR、だぁ積み、弥生時代、ペルシャ。挙げはじめればキリがない。当然どの積みにもメリットデメリットがあり、強さも特性も異なる。

 ただ、あらゆる形において共通する、一つの要素がある。


 大切なのは形そのものよりも、その形に至る手順である、ということだ。


 どれだけ無駄なく、効率よく、運に左右されにくい手順で組めるか。それこそ、土台手順だけで実力が測れると言っても過言ではないくらいに、ぷよを置く手順というのは重要な要素である。

 その点において、灼は既にかなりのレベルにある。

 手順は勉強量と練習量が物を言う。ぷよ歴一週間でこのレベルとなると、相当に詰め込んだのか、あるいは天から授かった才能か。もはや驚異的と言って良い。

 操作に慣れ、もっとさまざまな形を覚えたら一足とびに勝率が上がることだろう。

 そして、それ以上に目を見張ることがあった。

 灼が、一手一手、必ず考えて置いていることだ。

 初心者や初級者、それこそ中級者ですら、何も考えずフィーリングでぷよを置いてゆく人がほとんどだ。何も考えず、ノンストップで連鎖を組んでゆく方が、目先の勝利に繋がるからである。

 しかし、灼は違った。

 目先の勝利に固執せず、一手一手にきちんと意味を持たせている。

 こういう子は、伸びる。すさまじく伸びる。才能のなかった自分でさえ全国レベルに乗れたのだから、これだけの才能を持つ灼が同じことをすれば、その成長速度、到達点は自分の比ではない。かなり良いところまで行けるのではないだろうか。


 正直、嫉妬した。自分には一人前未満しか与えられなかった才能。それを、この子は、一体何人分持っているのか。その上、心底楽しそうに連鎖を組んでいる。羨ましくて仕方ない。

 と、いつの間にか上部まで連鎖が組みあがっていた。これ以上伸ばすのも難しい。ちらりと改めて灼のフィールドを見ると、おそらく10連鎖程度は組みあがっていた。このままこちらが本線を発火しても、ただ一勝を挙げるだけだ。彼女の実力を見るためにも、とりあえずもう少し様子を見てみよう。

 とりあえず、三連鎖で様子を見る。はたしてどんな反応を見せるか。

「えっ、あっ、えいっ!」

 一瞬の戸惑いを挟んで、即座に本線――10連鎖を発火した。

 ふむ。この思いきりの良さは素晴らしい。まだまだ伸ばしやすそうだったが、今のを伸ばそうとしたら完全に死んでいた。おそらく深緒が即座に発火するよう教えたのだろう。

 とりあえず出帆は灼の連鎖が終わるギリギリまで連鎖を増やし、発火。15連鎖。

 15連鎖が全て消えるまでにかかる時間は、大体22秒くらいだ。その間、灼は好きに連鎖を組むことができる。

 これをセカンドと呼ぶ。

 15連鎖の間、ノータイムで連鎖を組んでいけば、最大で約22手、つまり11連鎖分のぷよを手に入れることができる。

 もちろんこれは理論値であり、思考速度や操作速度、回収率の問題により、通常セカンドの火力は大きく落ちる。ましてや灼は、たぐいまれな才能の持ち主とはいえ、ぷよ歴10日の、まだ操作もおぼつかないド素人だ。4連鎖組めたら上出来である。

 だから、大した連鎖にはならないだろう。そう思っていた。

「こう、こう、こう」

 灼の顔つきが、変わった。先までの楽しそうな表情を一転、真剣な目つきで画面を睨み付ける。

「こう、こう、こう、こう、こうこうこうこう」

 出帆は、その射殺すような目の先に置かれるぷよたちを見て、思わず声を上げた。

「これは……えっ、えっ?」

 一見して、それは、ただ何も考えずに置いているだけのぐちゃぐちゃなぷよたちのオブジェに見えた。しかし、灼の表情は至って真剣であり、その視線はフィールド上をめまぐるしく駆け巡る。

 まさか、この、ぐちゃぐちゃに置かれただけに見えるぷよたちが、繋がっているというのか? いや、ありえない。ぷよ歴10年の自分にすら見えない連鎖を、ぷよ歴10日の初心者が組むわけがない。

「こうこうこうこうこう」

 では、この声は、目つきは。この、寒気は。一体なんなのか。

「こうこうこあー!!」

12手ほど置いたところで、おじゃまぷよが灼のフィールドを埋め尽くした。

「うーん、くそう。次です次」

「ちょ、ちょっと待って」

 次の試合に向けて座りなおす灼にストップをかける。

「灼ちゃん、あなた今どんな連鎖を組もうとしていたか覚えている?」

「えーっと、多分」

「じゃあ、ちょっと、作ってみて」

 一旦ぷよぷよを終了し、シミュレーターを起動する。フィールドの好きな場所に好きな色を置くことができる機能だ。

 出帆は自分の覚えている範囲で先の灼の連鎖を組む。

「大体こんな感じだったわよね?」

「はい」

「それで、この後はどんな形を想定していたの?」

「えっと……」

 コントローラーを渡し、組んでもらう。

 一つ一つ色を置いてもらうたびに、出帆は、頭がクラクラしてきた。

「これは、繋がるの?」

 完成形を目にしても、どれだけじっくり見つめても、出帆には、連鎖を追うことができなかった。なんとなく、どう繋がるのだろうというのは経験則によって予想できるのだが、本当にそれが繋がる未来が見えなかった。

「繋がるはずですよ」

「ええ……それじゃあ、とりあえず消してみるわね」

 言って、シミュレーターを実際にぷよが消えるモードにチェンジする。

「…………………………とんでもないわね」

 消えた。消えた。ものの見事に、全て消えた。最初の連鎖で残っていたぷよも全て消えて、合計9連鎖。

 こちらの15連鎖が消える約22秒の間で9連鎖を組むとなると、それこそ全国上位クラスのぷよらーでもないと無理なレベルの話だろう。

 セカンドに限って言えば、少なくとも県内に敵はいない。

 なんという初心者だ。とんだ化け物ではないか。出帆は思わず言葉を失い、ただ茫然とその連鎖を見つめる。

 神様の理不尽さに腹を立てているし、これほどの圧倒的な才能に思わず跪きたくなるし、でもやっぱり羨ましさにはらわたが煮えくり返る。だから、口を閉ざした。

 すると、出帆の沈黙をどう受け取ったのか、おずおずと、灼が切り出す。

「あの、お師匠さん、続き、やりませんか?」

「え、ああ。そうね。やりましょう」

 お師匠さん、という呼び名を訂正する余裕もなく、考える。

「……それじゃあ次は階段じゃなくて、最初から今みたいな連鎖を組んでみてくれるかしら」

「えー、でもお師匠さんは組まないじゃないですか」

「んん、じゃあ私もそんな感じで組むわ」

「うーん、りょーかいです」

 ややしぶしぶといった様子でうなずき、二戦目が始まった。

 階段を組む者同士の、超不定形。

 といっても、出帆はそのあたりの段差感覚というか、空間把握能力に欠ける。ゆえに大した連鎖を組むことはできない。デアリスという、超不定形に似せた、ほぼ決まりきった形を組む。

 ちらりと灼の連鎖を見る。

 思わず、手が止まった。

 パッと見、本当にどう連鎖が繋がっているのか見えない。どう見てもオブジェであり、これが消えるとは到底思えない。

 しかし、そう思いながら見ていると、これが、あれよあれよという間に全て消えていった。10連鎖。

 セカンドだけじゃない。通常の連鎖でもこれが扱える。

 その事実に、出帆は、再び言葉を失う。

 これは、本当に。

 ぷよぷよ界に、革命を起こし得る才能だ。それこそ、勢力図を完全に塗り替え、新たなスタンダードを生み出してしまえるレベルの。

 出帆は、完全に言葉を失った。

 思わず深緒へ目をやると、普段勝気な彼女も苦笑いを浮かべていた。


 これで書き溜めた分は全部消化しました。明日からも毎日投稿していくつもりですので、頑張ります。毎日投稿を最優先課題とするのでクオリティに関してはあまり期待しないでね(超小声)


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