3 まぁ、つまり、そういうこと
ぷよぷよは今や、チェスや将棋、囲碁と並ぶ知的遊戯となり、世界各国で競い合われている。
そんなぷよぷよであるが、競技性そのものは、それらよりむしろ、麻雀に近い。しばしば運ゲーと揶揄されるほどに、運の要素が勝敗を分けるのだ。
ゆえに、格付けの戦いを行う場合、通例として10本先取からとなっている。とはいえ10本で行われることはまれで、基本的に30本から行われることが多い。50本や100本、トップ層になるとそれを2、3セット行う場合も少なくない。
当然、本数が少なければ少ないほど運が物を言うようになる。麻雀において一半荘では初心者がプロに勝ってしまうことがあるのと同様、運の良し悪しである程度の実力差ならばひっくり返ってしまう。
とはいえ、だからといって、それが敗者の慰めになるわけではない。勝利は偶然、敗北は必然。ぷよぷよの頂点に登らんとする者たちの共通認識だ。たとえ10本先取という運の要素が強い戦いだとしても、敗因は実力不足以外の何物でもない。
8-10
まあ、つまり、そういうことだ。
「………………ありがとうございました」
「うん」
ふぅ、と満足げに息を吐く深緒の横で、出帆はボロボロのソファーに身を沈め、項垂れた。一年も前に引退したのになぜ未だこんなに強いのか。これほどの才能を持ちながら何故引退したのか。聞きたいこと、言ってやりたいことは山ほどある。しかし、敗者に声を荒げる権利はない。故に、口を閉じる。
深緒も、てっきり煽ってくるかと思いきや、何も言わずじっとスコアを見つめている。
沈黙。お互いに何も言葉にせず、ただスコアの差だけが存在を主張する。
「ま、まあまあ深緒先輩にお師匠さん」
気まずい沈黙に耐えかねたのだろう。灼が、困ったような表情で二人の間に割って入った。
「師匠!? こいつが!? アタシじゃなくてか!?」
深緒はぐりんと灼の方、ひいては出帆の方へ丸くした目を向ける。
するとそんな彼女の様子に灼の方も「えっ」と驚きつつ、若干申し訳なさそうに言う。
「私は出帆さんのぷよが好きなんです。もちろん深緒先輩も好きですけれど、ぷよぷよに関してはまた少し違うと言いますか……」
「むー、ぷよぷよだってアタシの方が強いのに。ほら、このスコア差だぞ?」
「でも、出帆さんのぷよが好きなんです」
「むー……アタシの方が強いのに……一度も負けた事ないのに……」
ぶつくさ呟く深緒と、申し訳なさ気に苦笑しつつも譲らない灼。そんな二人を眺めながら、出帆は力なく呟いた。
「そもそも私はまだ師匠になるとは言っていないのだけれど……」