20 好意の更衣
今回は栄高校の人たちの視点です。
「は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?」
観客席の一角。栄高校の面々が陣取る席の一番前。三ツ鳥の隣で、凍が不満を爆発させた。
「なんで天白が決勝来てんだよ! あんなクソ雑魚共が相手とかやってらんね~~~~~~~~~~~~!」
スクリーンの中、ほっと息をつく出帆を睨み、凍は踵をガシガシと床に打ちつける。
「凍は本当にいずちゃんが好きだなぁ」
「ぜんっっっっっっっっぜん好きじゃねーっす! むしろ大っ嫌いだっていつも言ってるじゃないっすか三ツ鳥センパイ!」
からかうように言うと、案の定怒りの矛先がこちらへ向いてくる。
「まったく、何回言ったらわかるんすか。そんなに記憶力悪いとテストで赤点取って全国でレギュラーから外されるっすよ」
「君には言われたくないかな。それで、凍。君の相手はどうやら灼ちゃんになりそうだけど、どういう対策で行くつもり?」
「はぁ?」
何を言っているんだこいつは、みたいな目で見られた。そろそろこの天狗後輩には痛い目を見せなければいけない気がする。
「逆にあんな初心者相手に何を対策しろっていうんすか」
とはいえ、確かにこいつの言う通りではある。灼は初心者というほど下手ではないし、時折光るものも見せるが、それにしても決勝戦に出てくるには力不足な感じが否めない。少なくとも、このクソ生意気な後輩ならば10本に1本取られる程度のスコア差になるだろう。この時点で栄高校の全国出場は、ほぼ確定と言って良い。
また、中堅、大将に入る自分と佃は、凍より数段強い。だから、もしも仮に灼が中堅にこようと大将にこようと、この圧倒的な実力差は覆しようがない。
つまるところ、天白高校に勝ち目は万にひとつもない。そのことは部員のほとんどが理解しているため、決勝戦をひかえる今、部員達は既に全国に行ったあとの話で持ち切りだ。
「つーかあたし太田出帆とやりたいんすけど。佃センパイ、大将と先鋒交換しません?」
三ツ鳥を挟んだ隣、佃へ話を振る。
「ん~、私は別に良いんだけれど、オーダー決めるのは先生だからね。先生に直接話してみたらどうかしら」
「それが嫌だからセンパイに直接話してるんじゃないっすか」
「ごめんね~私にはオーダーいじる権限がないのよ」
困ったような微笑みを浮かべて凍の主張をかわす。なるほど上手いところに持っていった。凍は基本的に怖い物知らずだが、顧問だけは苦手としているらしく、反発しているところをほとんど見たことがない。もっとも、かなり厳しく頑固な顧問であるため、苦手としている部員は凍に限った話ではないのだが。
「それに、出帆ちゃんとは私の方がやりたいしね」
佃は三ツ鳥にだけ聞こえる程度の声で言って、ニヤリと笑った。彼女がこんな表情をするのは珍しい。三ツ鳥は目を丸くして、軽く笑った。
「それを言ったら私だってやりたいですよ」
「出帆ちゃんモテモテねぇ」
「いずちゃんほど誇りとこだわりを持ってぷよる人はいないですから」
「無性に惹かれるのよね」
ちらりと凍に目をやる。
二人ともわかっていた。凍が出帆にこだわる理由を。
彼女もまた、出帆のぷよに心を奪われていたのだ。
出帆に惹かれてやまなくて、でも自分にはできなくて、それが悔しくて。
だから、『できない』を『しない』にしたかった。
出帆のぷよに価値がないと、自分に証明したかった。言い聞かせたかった。
出帆に、勝利することで。
三ツ鳥にとって、凍のその気持ちは、分からないでもなかった。昔は嫉妬にも似た感情を抱いたりしていたから。
もっとも、長い付き合いの内に『出帆は出帆。自分は自分』と割り切ることができたおかげで、今では茨の道を歩む出帆を素直に応援できているが。
三ツ鳥は未だ怒れる凍から視線を佃へ向ける。
「私もいずちゃんと戦いたいですけど、大将は部長のものですから。最後の砦、お任せします」
確かな信頼をまなざしに込めて、言った。
聖母の微笑みで受け止める佃。三ツ鳥は「それに」と付け加えて、ニヤリと笑った。
「岩浪深緒が相手というのも、悪くないです。彼女は一度、公式の場で叩き潰しておきたかったんです」
次から決勝戦始まります。更新滞りはじめてすみません……テストや課題があるので完結までもう少しかかるかもです……




