19 出帆たちの高校は天白(あましろ)高校っていいます(多分初出)
毎日更新が途絶えました大変申し訳。
ところで出帆たちの学校の名前って前どっかで出したりしてないよね? 決め忘れたと思って三秒くらいで適当に付けたんだけど。もしも別の名前で出てたら申し訳。
17-20
表示された数字だけ見ると僅差の白熱した闘いだったように見えるが、灼にとってのスコアは7-20だ。
大差での敗北に、がっくりとうなだれて灼が帰ってくる。
「ごめんなさい深緒先輩お師匠さん。負けちゃいました」
「いいんだよ、灼。よく頑張ったな」
深緒がなだめるも、灼の表情は晴れない。
それはそうだろう。出帆や深緒にとっては予想の範囲内、むしろ良く頑張ったと言えるスコアだ。しかし灼にとっては、せっかく深緒のおかげで得た圧倒的アドバンテージを食いつぶしたどころか、マイナスにまで落ち込ませてしまったのだ。深緒を尊敬する先輩かつ恩人であると見ている灼が落ち込まないはずがない。
「大丈夫よ」
だから、出帆は言った。
灼の背をポンと叩き、安心させるように。自らを鼓舞するように。
「私が勝てば、私たちの勝ちなんだもの。いってくるわ」
「……お師匠さん! お願いします!」
歩みだした出帆の背に、灼からエールの声がかかってくる。
栄高校時代にも似たような経験をしたが、何故だろう。あのころよりもよっぽど嬉しい。
今振り返ると、赤くなった顔がバレてしまいそうだったから、ひらひらと手を振って応えた。
「って、これ、岩浪みたいね。次からは気をつけましょう」
自戒。
次から気を付けるためにも、とりあえずはこの一戦だ。
17-20という三本のビハインド。相手が9本取る間に自分は13本取らなければならない。
しかも、相手は、ほぼ間違いなく先までの選手たちより強い。
無名校にも意外と、一人くらいは栄高校でレギュラーを張れそうなレベルの人がいたりする。ひょっとすると、想像よりはるかに強い人が出てくるのかもしれない。
「でも。私は、敗けるわけにはいかない。灼ちゃんのぷよを……私のぷよを、こんなところで終わらせるわけにはいかないのよ……」
出帆は自分に言い聞かせるようにつぶやき、対戦室へ入った。
……久しぶり、ね。
懐かしいような、嬉しいような、良くわからない感慨がわいてきた。
「天白高校、太田出帆選手ですね?」
「はい」
審判の確認を経て、対戦相手と向かい合う。
「……定型の、最果て」
相手が、ぼそりと呟いた。出帆を見つめる目の奥にある感情が読めない。
どう反応したものか。困っていると、相手は独り言のつもりだったのだろう。声音を明るくして、出帆に握手を求めた。
「まさか太田さんと戦える日が来るとは思いませんでした。胸を借りるつもりで戦います」
「あ、ええ。よろしく」
握手に応え、お互い席に着く。
「それでは、大将戦。初めてください」
『よろしくお願いします』
互いに礼をして、大将戦が始まった。
17-23
出帆は思わず台を叩きそうになって、その拳を膝に打ちつけた。
相手はそんなに強くない。単純に自分が下手なのだ。一体何をやっているのか。自己嫌悪と焦燥が感情の波を荒立てる。冷静さを取り戻さなければと思えば思うほどに、余計に苛立つ。
おかしい。おかしい。調子は悪くない。悪くなかったはずだ。たった一週間とはいえ、調整もきっちりとしてきた。なのに、何故さっきから凡ミスを繰り返すのか。
1000回やったら1000回同じ手順で組めるところを、間違えた。
何も難しくない、初心者でも出来る単純な操作がズレた。
形が乱れた後のリカバリーが、すこぶる悪い。
この三試合は、まるで初心者だった頃のような下手くそな試合しかできていない。
これが深緒の心配していた、意気込みすぎというやつか。しかしこんな重要な試合に意気込まず平常通りに出られる人などいるものか。
ぐるぐると思考が回る。その間に、制限時間が来て次の試合が始まる。
「あっ!」
いつも通りを心がけて綺麗な形を組んでいると、相手から二連鎖トリプルが飛んできた。
出帆のフィールドに、今、発火できる大きな連鎖はない。
今操作しているこのぷよを置けば、出帆のフィールドには入りきらない量のおじゃまぷよが降ってくる。
「……………………ふぅーーーーーーーーーーーーーー」
出帆は自身の死を確信し、レバーから手を離した。
目を閉じる。
「とりあえず、落ち着こう。落ち着こう」
ゆっくりと口に出して、自分に言い聞かせる。そして、深呼吸。酸素をしっかり脳内に取り込む。
さて。すっきりした頭で考える。
今の試合の反省だ。
出帆は、心の中で今の試合の流れを振り返った。
ぷよぷよにおいて最強の攻撃とは何か。
もちろん状況に応じてその答えは変わってくるが、大体の場合、正解は『二連鎖トリプル』である。
二連鎖トリプル。通称二トリ。二連鎖目に三色のぷよを同時に消す連鎖をそう呼ぶ。
この連鎖の強さは、火力の高さと、速さにある。
ニトリの火力は、実に四連鎖に匹敵する。おじゃまぷよを5段降らせ、ひとたび食らえば大体の連鎖が死に追いやられる。
それほどまでに強烈な連鎖であるにも関わらず、相手がニトリを撃ち始めてからこちらにお邪魔ぷよが降ってくるまでの時間は、わずか2秒。その間に引けるぷよは、精々二、三手が限界である。
つまり。
こちらがどんなに大きな連鎖を組んでいようと、即座に撃てる状況であろうと、撃つための色をわずか三手のうちに引けなければ、相手のニトリに連鎖を殺されてしまうのだ。
そしてもちろん、即座に連鎖を撃てる状況でないならば、より殺される可能性は高くなる。
「今の試合は、こっちの隙が大きかった」
出帆は先の一本を、口に出して反省した。
即座に連鎖を撃てる状況ではなかった。ざっと計算してみたところ、あそこから一番大きな連鎖を撃つために必要なぷよを三手の内に得られる確率は、1/50くらいだった。相手がそこまで把握した上でニトリを撃ってきたのかはわからないが、そうだと想定して今後戦う必要があるだろう。
結論を出すと、出帆はふぅと息を吐いて次の試合を始めた。
平常通り、とまではいかないものの、先までの不調が嘘のように綺麗に組めた。
出帆の急激な変化に戸惑ったのか、相手が凡ミスをした。そこに付け入り、一本取り返す。
18-24と未だ劣勢だが、出帆は本数には目をやらず、目を閉じて今の試合を振り返り反省した。
数秒間置いて、次の試合を始める。
それからは、一方的に出帆のペースだった。
徐々に調子を上げてゆく出帆は、普段と同じように一本一本の間に必ず反省を挟むことで本来の実力を出すことが出来るようになった。
一方の相手は、いちいち挟まれる数秒間の小休止にペースを乱され、また逆に乱そうと奇襲を仕掛けたりもしたが、出帆の隙のないぷよぷよの前にあえなくダウンした。
30-26
終局。出帆の鬼の追い上げで、天白高校の一回戦突破が決まった。
補足:二連鎖トリプルのことを作中で『二連鎖目に三色消す連鎖』と説明していますが、厳密には三色でなくとも、『三つ別々に消えている』ならば同色でも二トリに含まれます。イメージしやすさを優先した結果このような表記にしましたすみません。




