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ぷよぷよ!!!!  作者: しーえー
19/21

18 初体験(意味浅)

「ただいまー。はー疲れた」

「おかえりなさいです! 深緒先輩格好良かったです!!」

 澄まし顔で帰ってきた深緒を、灼が歓声と共に迎えた。冷静にしやがってせめてもう少しやってやった感を出せ。

 と思っていたら、思いっきりドヤ顔してきた。これはこれでムカツク。

「どうだ灼ー。アタシは強かっただろー?」

「はい! とっても強かったです!」

「そうだろそうだろ? お師匠にしたくなっただろ?」

「いえ、あきのお師匠さんは出帆先輩ですので」

「なんでだよー!!」

 このやりとりもいつもの事だ。わざわざ絡みに行く気はない。

「それより、灼ちゃん。中堅戦よ。気を付けてね。油断しないように」

「はい!」

「灼なら絶対大丈夫だ! 頑張れよ!」

「はい! がんばります!」

 ぐっと拳を握って明るく言うと、そのまま対戦室へと向かった。

 そんな彼女の背中を見送りながら、深緒がぼそりと呟いた。

「……意外と平気そうだな」

「ええ。もっと緊張すると思っていたのだけれど。肝が据わっているというか、図太いというか」

 第一印象からして突拍子のない子だとは思っていたが、初めての大会でこうまで普段通りにできるとは。やはりただものではない。

 と思っていたら、数分後。

「めっちゃ緊張してんじゃねーか!」

 深緒が珍しく声を上げた。

 スクリーン越しに見る灼からは、先までの無邪気さなど全く感じられない。カチンコチンに固まって、ロボットのような動きとぐるぐる迷走する目が面白い。

「おいおいおい大丈夫か灼のやつ。あれでまともにぷよれるのかよ」

 おろおろと心配する深緒とは対照的に、出帆は平然と紅茶を飲む。

「まぁ無理でしょうね。だから中堅に持ってきたんだし、その作戦が無駄にならなくて良かったじゃない」

「いや、たしかにそうだけど。相手は見るからに場慣れしてんぞ。何本取れるんだこれ」

「どうかしらね。相手の実力にもよるけれど、まぁ、どんなスコアになろうと大将で勝つから大丈夫よ」

「……あんまり意気込むなよ」

 軽い調子で言ったつもりだったが、深緒は少し心配そうに忠告してきた。そんな人間でもないだろうに。

 出帆が何も言えないでいると、その間に中堅戦が始まった。

『よろしくお願いします』

 2人の声がシンクロする。

 深緒が先鋒を務めるこのチームの中堅は、果たしてどんな人なのか。そういう会場の期待は、一戦目が終わる頃には消え去っていた。

「なーんだ。普通の階段積みじゃない」

「積みは結構上手いけど、緊張しすぎ。操作下手だし、凝視も全然ね」

「中盤もする気がないみたいだし、なんでこの人を先に出さなかったのかしら」

 散々な評価である。

 そんな空気の中、

「……上々の滑り出しだな」

 深緒だけは灼のぷよを、安心したようにそう評した。

 出帆はうなずき、ほっと息をついた。

「ええ、そうね。置きミスはあったけれどきちんとリカバーしているし、意外と形が安定しているわ。ガチガチに緊張しているしもっと崩れるかと思ったのだけれど」

 灼にとって、これが初めての大会だ。どれだけ練習を積んでも、どれだけ自信を持っても、多くの観衆がいる初めての大会は、誰だって緊張するものだ。

 緊張をすれば、操作でミスり、手順でミスり、判断をミスる。

 今スクリーンの先で戦っている灼は、操作ミスと判断ミスはまだ目につくが、手順はいつも通り、いやむしろ昨日までより上手いと言えるだろう。

 しかし。灼はそれから四本連続で取られた。灼の調子は悪くない。単純に、相手が上手い。

 と、猛烈な勢いで差が縮まってゆく現状に、母が心配そうに声をかけてきた。

「ねえいずほちゃん。本数って引き継ぐのよね」

「うん」

「あきちゃんよりみおちゃんの方が強いんだから、みおちゃんを後に出したほうがお得じゃない?」

「ああ、それね。単純な話よ。灼ちゃんは紛れもないぷよぷよの天才だけれど、才能ではどうしようもない部分があるの」

「どうしようもない部分……?」

「慣れ、よ」

 ああ、と合点がいったように手を打つ。

「初めての大舞台、しかも自分の人生がかかった戦い。ガッチガチに緊張するのも当たり前だもの。それでも、普通の高校が相手なら私と岩浪で逆転して勝てるわ。だけれど、栄高校だけはどうにもならない。あそこだけは、灼ちゃんがまともに戦力として機能する前提で、ようやく同じ土俵に立てる。だから、一回でも多く戦わせて、できる限り慣れさせたいの。この、インハイ予選っていう特殊な空気に」

「なるほどね~。あ、あきちゃん一本とった!」

 ようやく一本取った。なるほど予定よりかなり詰められてしまった。まぁ、とはいえ、大丈夫だろう。出帆は、自分の胸に誓う。

 自分が勝てば、それが灼の勝利なのだ。自分がするべきは、決勝まで、勝ち続けることだけだ。

 出帆は灼を信じて、自分を信じて、スクリーンをじっと見つめた。

 灼の苦しげな、悔しそうな表情に、心の中で「頑張れ」と叫んだ。

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