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忘却の里  作者: 伊亜流
8/9

▶『忘却の里』◀

(ッ!?)

怖気を感じて反射的に飛び上がる。大仰にガタッと椅子を鳴らして立ち上がり近くにあった花瓶を聖の後ろから斬りかかろうとする男に全力で投擲する。

投げられた花瓶は真っ直ぐに男の腕に命中し、意識をこちらに一瞬向けさせ、一連の行動をキャンセルさせる。

状況を見ると聖とおじさんが会話をしている間に背後から忍び寄ってきている・・・ようにも見えるがおじさんの表情は虚を突かれたという焦燥ではなく、

獲物を仕留め損ねた猛獣のような獰猛さが目に宿っていた。

「聖後ろッ!?」

静止の声を聞いた直後床を転がりながら反射的にこちらへやってくる。

(おいおいおい・・・まさかこれは。)

思わず息をのむ。俺が何かを感じて飛び起きたのはいいんだが状況が理解できない。

「おい聖!?どういう事だオイ!?」

「ワタ・・・いや俺が聞きてえよ!?」

切羽詰まった表情で俺の疑問に答えるあたり聖にも全く余裕がないと見える。

何を言いかけたのかは興味があるが今はそれどころではない。

「おやおやおや・・・誰かと思ったら爽真くんじゃないかァ?おーおー。ひっさしぶりだねェ!?元気してたァ!?

あーそうか!記憶消しちゃったんだったッ!ごめんねッ!」

(・・・チッ。鈎南かぎなの親父かよクソがッ!?)

「おいあんたら・・・いったいどういうつもりだ!?」

激しく激昂する聖。質問と言うより脅しに近い声音で聖は叫ぶ。

それを受け流すかのように鈎南は涼しげにあしらう。

「何を言ってるんだ全く。父さん悲しいぜ愛しの娘(・・・・)がこんな風に叫ぶようになっちまったなんて。」

その言葉を聞いた聖は更に顔を青ざめさせる。

「おい…それじゃあんたはまさか…。」

「YES。お察しのとおり鈎南ちゃん、君のお父さんさッ!」

「感動の再開はそこまでにしてもらおうか。」

二人の間に割って入ったおじさんは2人を窘めるようにパンパン、と手を叩く。

「さて、いきなりの展開で混乱してるとこ悪いが。

響、利理、そして聖改め鈎南には人柱に。そして爽真君。

―――君には死んでもらう。」

「―――ハッ。おい待てよ勝手なこと言ってんじゃねえぜ全く。」

もういいや。今まで脳の奥に隠して生きてきたけどもう今更隠す必要もねえか。

自己暗示として自分が何も知らないように脳内で繰り替えしてボロが出ないように注意していた。

・・・と言うのは嘘で今思い出した。

人柱の伝承、嘆く人々、利理に誓った言葉。全て俺の記憶に蘇ってきていた。一目あの男を見た瞬間に。

「オイオイ、大人二人相手にガキが粋がってんじゃ…ねぇッ!!!!!」

刹那、爆ぜるように加速する鈎南の親父。昔はもっとまともな人間だったはずだが。

だがそんな思考ができるほどに今の俺は冷静だった。

「…遅いんだよ。」

右手に隠し持っていたナイフを一閃する。鈎南からこっそり渡されていたものだ。

聖と言う名前は鈎南の偽名である。探偵志望なのは俺が小さなころからだったため昔から女として生きると探偵として不利になる場面もある。

そう言って鈎南は男として生きてきた。櫻野鈎南は櫻野聖として。

その後俺は虐殺をやらかして記憶を封印して監視役としておじさんが俺と生き残りの利理を連れて外に出てきた・・・んだが。

「もう俺の養父母は殺したってところか?」

「何故反応できたッ!?」

斬られた首筋を押さえながら発狂したかのように叫ぶ。だが俺はそんなものに動じる状態ではなかった。

「…人を斬るのはあまり好きじゃないんだがな。だが守るって決めた物の為には俺は刃だろうと振るう。

利理を助けたときからそう決めていた。いやそれより前・・・だったか。」

「爽真・・・まさか昔の記憶が・・・!?」

驚いたように目を見開いて俺を見つめるのはあいつらも同じだ。

「そんな馬鹿な!?あの封印は絶対のはず。破れるはずなんざないッ!」

何処かから取り出した一太刀の日本刀を構えておじさんは叫ぶ。

「いい加減昔の風習には囚われない方がいいと思うな。

おじさん。あんた里の長の子孫でしょ?十年前俺が止めたんだからまた始めようとかしなくていいんだって。」

問答無用と言わんばかりにその日本刀を俺に向かって突きだす。

だがその表情にはわずかに焦燥の色が見て取れる。やはり当たりか。

伝承によれば昔から長によって取り仕切られていたそうだ。

鈎南の親父の行動理念は理解不能だがおじさんの行動理念ならば大方予想がつく。

「どうせ長の遺志を継ぐべきだ。とか思ってんだろ。いい加減そんなしょうもないこと言ってるんじゃねえよ。」

そう言いながらナイフの刃を使った最小限の動きで日本刀をいなす。

恐らく俺は今非常に冷たい眼差しで周りを見ているだろう。まるで昔の・・・利理を助けるために殺意をむき出しにしたあの頃の俺だ。

「しょうもないとは…なんだッ!」

大ぶりな動きで室内にも拘らず擡げられたその刀は俺のナイフによって受け止められる。

甲高い金属音が響く。衝撃は感じるがそこまで重くは感じない。

「その程度かよ。次期里の長が聞いて呆れるぜ。」

ひょい、と上に刀を跳ね上げさせて懐に潜り込む。

勢いはそのままに胸のあたりにナイフを突き立て、十分に刺さったことを確認すると全力で捻って抉るように傷を深くする。

「だったらこいつらを人質にとればいいッ!!」

「・・・させるかよクソ親父がッ!」

しまった、そう思ったのもつかの間回り込んでいた鈎南が顎を掌底で殴り上げ、吹き飛ばす。

「クソッ!大丈夫か!?」

「俺を忘れちゃいねえか?吹っ飛べッ!」

不意を突いた一撃、それは先ほど深く抉った胸元の傷を捉えながら体の芯にクリーンヒット。

血反吐を吐きながら転がるように壁に激突する。そのまま動かなくなったことから気絶したと思われる。

「言っとくが既に警察は呼んでるぜ?ちなみに騒ぎは今も全部向こうに流れてるからな。」

その言葉を聞いた瞬間一気に顔を青ざめさせたがもう時すでに遅し。

遠くから幽にパトカーのサイレンが聞こえてくる。

「諦めろよ。」

俺がそういうのと同時にぷつっと糸が切れたかのように意識を落としたのを確認した。



これが事件の発端、そして終末である。

あ、まだちょっと続くよ!


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