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忘却の里  作者: 伊亜流
7/9

▶『推理』◀

少し短めになってしまいましたが気にせず読んでいただけると幸いです。

聖が眠りについた。ここから二時間、俺達の警備が始まる。

いつの間にか響は寝てしまったようで、部屋には寝息をたてる三人と静かに身構えるおじさん、それに俺がいる。

灯りはついているが引き込まれそうな静寂に息を苦しくさせる。ふと傍らを見れば幸せそうに寝息をたてる利理がいるわけで。

そういえば案外(まつげ)長いんだな。利理の整った顔を間近で眺める。こんな機会・・・いや無くはないんだがな。

でも初めてこいつの顔をじっくり見たような気がする。俺より少し長い睫、すっとした鼻、そして桜色のぷっくりとした柔らかそうな唇に瞳を奪われる。

何故だ。こんなにも・・・こう、やましい感情に支配されるのは。

ずっと見ていたい。何故だか今は利理に対してそんな風に思ってしまう俺がいて。あぁだめだだめだ。

もうこんな事を考えてはおじさんに任せっきりじゃあないか。

「そー・・・ま・・・大好き・・・。」

寝言だろうか。利理の口から発せられた甘い声と吐息に思わず身を強張らせる。

それに大好き・・・って。忘れることにしよう。俺が理性を保つのに一番有効な手段はそれしかない。

今この場におじさんや響、聖がいなかったら間違いなく利理を押し倒していた自信がある。割とマジで。

それほどまでに利理は今の俺には魅力的に思えて。

そんな俺を見かねたかのようにおじさんが俺に話しかけてくる。

「・・・爽真君。利理が可愛いのは分かるがあまり人の寝顔を見る物ではないぞ。」

「す、すみません…つい。」

「若いってのはいいな。そのような昂る気持ちを抑えるのは並大抵の男では無理だからな。

何、二人きりの時にでも利理の初めては奪ってやって構わんよ。利理もそれを望んでいるようだしな。」

「ちょッ!?何言ってんっすか!?」

慌てて謝るとさらりと爆弾発言を返してくるおじさん。

そんなことを言われたら俺はそろそろ本気でやりかねない状況になってしまうかもしれない。

俺の理性の留め金はそろそろボロが来ているようです。

「っと・・・もう二時間たったな。そろそろ聖くんを起こしてやれ。」

「…え!?もう経ったんですか!?」

時計に目をやると本当に二時間たっているので驚きだ。

体感時間はまだ10分くらいなのに。なんでこんなに遅く感じたんだ?

「まぁ利理の寝顔をずっと眺めていた爽真くんは一瞬に感じられたようだがな。」

苦笑しながら俺が先もらうぞ、といって眠りにつくおじさん。どうやら想像より長い時間利理を見つめていたらしい。

こんなの利理にばれたらホントに笑えないんだけど。まぁクラスメートに言いふらされるってことが問題なんだがな。

あいつ自分がからかわれてるってことにも気が付かないでわざわざ誤解を生むような言い回しでみんなに伝えるからほんとに困る。

しかもやたら声がでかい。わざとやってんじゃねえかって言うレベルで。

おじさんに言われた通り聖に声をかけるとう~~~~!と普段とは違う可愛らしい声を上げながら背伸びをして腕や首をすこしパキパキと鳴らして聖は腰を起こす。

「ん…もう交代の時間かい?まだ少し寝足りないような気がするんだがまぁ仕方がない。次の交代まで爽真と警備をするんだったな。」

椅子にたてかけておいた木刀を杖代わりによろよろと立ち上がるが如何せんフラフラしていて危なっかしい。

見ているこっちが危ないと感じるほどには心配だ。

「わっ・・・!?」

杖代わりに体重を預けていた木刀がバランスを崩し、それに伴って聖も崩れるように倒れる。

ほら言わんこっちゃない。

間一髪で聖を受け止めると聖の長めの金髪の髪の毛から同じ男とは思えないバニラのような甘い香りがする。

それに髪の毛も異常なレベルでさらっさらである。金糸のようなその髪の毛に埋もれた指を引き抜くと一層バニラのような香りが強くなる。

多分香水とかじゃないかな。こいつそういうところの意識高そうだし。うん。

しかもなんだか体も柔らかいような気が。ふにふにしてる。こいつ男子のくせに・・・。

「おーい・・・大丈夫か?そんなに寝不足なのかお前は。」

受け止めた状態のまま問いかけると跳ねるように俺の腕から離れる。何か気に障ることでもしたのか?

「あ、あぁ大丈夫だ。問題ない。」

「多分お前死ぬぞ。」

「?」

「あぁいやなんでもない。それよりほんとに大丈夫かお前。無理なら寝てていいんだぞ?」

心配なので一応声はかけておく。おじさんと聖をなにかあったとき起こせばいいのだから一応一人でも問題はない。

だが俺の提案に首を振って聖は答える。

「いやそういう訳にもいかねえよ。お前が頑張ってんのに俺だけ寝てるなんて他でもない俺が許さん。」

聖に力強くそう宣言されてしまい、そうか、と答えることしかできない。

「そういや爽真、将来の夢ってあるか?」

「なんだよ唐突に。・・・夢、かぁ。そういや特に何もないような気がするな。

別に何かがしたいって言う訳でもないし。聖はなんかあんの?」

唐突に話を振られ、言い淀んでしまったが夢なんてものは真面目に考えたことなど一度もない。

とりあえず勉強してとりあえず生きてる感じだ。どこか適当な所で適当な収入さえあればあとはどうでもいいと思ってる。

「俺はな…探偵になりてぇんだ。」

聖は天井を見上げながら何かを懐かしむような眼をして俺に言う。

「俺の父さんは優秀な探偵だったんだ。それはもうすごい人間でな。警察の方から頼りにされるほどの人間だったんだ。

昔から人一倍正義感の強い男で悪い人間を見つけると何が何でも捕まえてやるって言ってほんとに捕まえってくるんだから驚いたもんさ。

・・・だが、変わっちまったんだ。突然ある日、な。」

急に顔を強張らせ、少し声のトーンを下げて話を続ける。少し悲しげな表情のようにも見える聖はこう言った。

「ある日突然帰ってきたと思ったら母さんを思いっきり殴り始めたんだ。

もう殺す気満々だったぜ。何故か俺には目もくれずひたすら母さんを攻撃しててさ。近くに人達も何事かと思って駆けつけてきたんだが…もう手遅れだった。」

「…そのあとは?親父さんはどこに行ったんだ?」

「父さんはその駆け付けた人たちまで何人か手にかけて今じゃちょっとした指名手配犯だ。

里の人達の一人に殺されたって言う話だが詳しくは分からん。」

悪寒が走った。それはすなわち今も生きている可能性があるって言うことだ。どこかの山の中に潜んでいるのかもしれないし、案外のうのうと暮らしているかもしれない。

無論死んだ可能性もあるが確定していない以上生きていてもおかしくないんだが…。

「何が原因なんだ・・・?」

「それを今探してるんだよ、探偵としてな。

俺の師匠は父さんなんだ。父さんが言ってたんだよ。

『気になることがあったら気が済むまで調べつくせ。危険な橋も渡ることになるだろう。だが恐れるな。

探求心は人が人を超えるためにあるんだからな。』ってよ。

俺は思うんだ。これは父さんが俺に残した試験なんじゃねえかって。」

「・・・試験?どういうことだ?」

訝しげな眼で質問すると対照的に確信を伴った声で聖は答える。瞳に確かな決意を湛えて。

「詳しく知りたきゃ自分で調べろ・・・ってことなんじゃないかな。無論俺は父さんを許すつもりは毛頭ないけどな。

どんな理由があれ、人の命を奪うのはあっちゃならねえことだ。だが父さんはこうも言ってたんだよ。

『守らなければならない者のために、返り血を浴びる覚悟があるなら迷わず戦え…』ってな。」

そういうことか。確かにそれならこいつが危険を顧みず中に踏み込んだことも納得できる。

自分なりに謎を解明しようと挑んでいたんだろう。

「っと…そろそろ時間だ爽真。おじさんもそろそろ起きるだろうし休んどけ。」

気が付けばもう時計は午前四時を指している。こいつの話を聞いてるうちにもう経ってしまっていたらしい。

「んじゃお言葉に甘えて。」

そう言っておじさんを起こそうとすると、その前に目を覚ます。きっかり二時間寝るなんてすごい体内時計の管理の仕方だと思う。

どういう生活をしているのか若干気になるが今は寝ることだけに意識を注ぐ。

おじさんが座っていた椅子に代わりに座ってうつ伏せになって仮眠をとる。

そこまで眠くはないのだがまたこのような状況にならないとは限らない。寝られるときに寝ておくのが得策だろう。

―――意識を闇に落とす直前、何事か聖が呟いたかのように思えたが、聞き取ることはできなかった。



(・・・さて。もうそろそろ爽真も眠っただろ。んじゃ警備と行きますか。)

意識を現実へと引き戻し、襲撃に備える。神経を張りつめる。

今まで話に夢中になっていたがそれでも周りの注意は怠っていない。特に何かがひっかかるわけでも無かったので普通に話を進めていたが…。

あまり他人に知られてもいい情報ではない。盗聴器の類は見つからなかったので恐らくないと思うが油断は禁物である。

「いいのか?爽真君に本当のこと隠したまま着いていくとか言って。」

「いやいいんです。ワタシ(・・・)のことなんてそのうちバレますから。まぁバレたらバレたでその時に考えればいいですよ。

その事も覚悟の上ですから。」

そう答えるとそうか、と低くうなった後、空間は静寂を取り戻した。

時計の針の音が静かに木霊する。先ほど爽真と話していた時はあっという間に感じたこの間だったが会話が少ないとそれだけで空気が重くのしかかっているような気がしてならない。

「聖くん。」

突然声をかけられ、何故か本能的に一瞬身構えるがおじさんだと気が付き、落ち着きを取り戻す。

(何を慌てている…?緊張しすぎだろ俺。もっと冷静になれよ。)

一呼吸置いておじさんの声に反応を示す。

「・・・?どうしました?」

「君は一連の事件についてどう思う?犯人の目星はついているか?」

探偵志望だということを何故か知っているおじさんは俺を試すように聞いてくる。

「そうですね…。俺としてはこのトラップ、及び何者かの襲撃この建物の構造を細かく熟知していなければ成立しないと思うんです。

インヴィジブルスレッドのトラップにしてもそうですが寸分の狂いも許されないレベルの精密さが要求されます。

それを一時間と言う短時間で二つ設置するのは余程この構造を熟知していない限り不可能です。

よって里の人間、もしくは里の人間だった者の犯行だったと言えます。」

静かに、そして淡々と紡いでいることに意識を割きすぎて背後から迫るナイフの刃に気が付かなかった。

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