Pa(r)ty3
ふと、紫苑の頭に先ほどの真名のことばがよみがえる。
「彼女、アシスタントに行くとか言ってたな。それって、プロのマンガ家の──?」
紫苑の小声での問いに、杏は原稿から顔を上げずにうなずいた。
その手には筆ペンがにぎられていて、ものすごい早さでキャラクターの髪をつやベタに塗り上げていく。
あまりの手際に、紫苑の目は釘付けになった。
「うちらで、外貨を稼ぎに行けるのは里沙ちんくらいなのですー」
「この原稿って、彼女の──じゃないよな?」
と、メガネごしの視線が紫苑をとらえる。
杏は意味ありげにほほえんだ。
「ちがいまーす。私ら、四人組だから」
手にしている筆ペンで、例の宇宙船のデザイン画の端っこにさらさらとなにか書きつける。
Pa(r)ty3──
一見、パスワードのようだが、話の流れからすると四人組の名前がそれなのだろう。
紫苑は、おもわず首をかしげた。
四人組というのに、『3』という数字が入ってるのはいかにも違和感がある。
なぜ、『4』ではいけないのか。
紫苑の心を読んだように、杏が笑って身を乗りだす。
顔の方に接近してくるくちびるよりも、テーブルの上に今にも落ちそうに実った揺れる胸に目がいった。
「パティスリーって読むのです、これ。だから、『4』にはできないの」
「あ、あー……なるほど」
うわのそらで応えたとき、ふいにコーヒーの匂いが香った。
紫苑と杏はどちらからともなく、近づいてきた真名を見上げる。
女子の持ち物らしいキャラクター柄のマグカップが五つ、おぼんの上に載っている。
「まだ、熱いです」
マグカップの下に敷かれた布製のコースターは、原稿を汚さないための配慮なのだろう。
紫苑は、マグカップに手を伸ばした。
が、ことばの通りまだ飲めそうもなかったので、下書き用のえんぴつを借りて、一ページ目の原稿の大ゴマに、里沙デザインのスペースコロニーを描いていく。
構造物のディテールは、いつか見たSF映画の要塞だかを参考にしたが、おかげでそれらしい雰囲気は出た。
えんぴつを置いてマグカップに手を伸ばすと、ちょうど飲み頃になっている。
「資料があれば、もうちょっと具体的に描くけど」
どうだ、と顔を上げた杏に原稿を向けると、メガネの向こうの目が見ひらかれた。
「え……これ、なに見て描いたの?」
「さっきの、里沙、って子の絵だけど。……こんな感じじゃないのか?」
あの線画からは、正直、ディテールなどはさっぱりわからないので、紫苑が勝手に作ったと言ってもまちがいではないが、外観はそれなりにデザインどおり、だとおもう。