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ユーレイ、ふたたび

「あ。紫苑さんのタオル、バスルームに置いてます。私も、今日はもう寝ちゃいますね。おやすみなさい」

「なあ……ほんとに、ソファで寝る気か? トレードしてやろうか?」

「いいです。千夜に、しーちゃんのとなりに寝ようとして押しかけたんでしょ、とか言われちゃう。あ……いちおう、部屋の中からカギをかけてた方がいいかも?」


紫苑といっしょにベッドに入って危険があるとしたら少女たちの方だが、だからといってカギを開けたままでは迎え入れようと待っていた、などと言われかねない。

紫苑はうなずいた。苦笑を浮かべながら。


「そうするよ。……おやすみ」


紫苑は自分のリュックを持ってリビングダイニングを後にした。

千夜の部屋の中に放り込んでおいてから、バスルームに行く。


それからおよそ二十分後。

洗い髪を拭きながら部屋へと戻った紫苑は、廊下からの灯が差し込む室内にぼんやりと人影を見つけた。

ドアに手を掛けたまま、ハァ、と重いため息をつく。


「おい、チーか? おまえは里沙の部屋で──」


パチンと電灯のスイッチを押した紫苑は、とちゅうで絶句した。

千夜よりも長い髪。

しっとりとしたまなざしと、上品なくちびる。

女子高生にはほど遠い落ち着いた佇まいは、ハタチをとおに過ぎた大人の女性のものだった。


「あ……──」


ベッドのふちに腰かけた彼女を千夜はユーレイと呼ぶが、やはり床についた足がある。

けれど、今の紫苑はべつに寝ぼけてなどいない。

いくどかまたたいてみたが、そのすがたは溶けて消えたりはしなかった。

ぱたん、と後ろ手にドアを閉めた紫苑に、彼女がやんわりとほほえみかける。

そして、胸に抱いていたF6サイズのスケッチブックをすっと差し出した。

それは以前彼女に会ってから、紫苑がそのすがたをおもいつくかぎり描きとめておいたものにちがいない。

リビングに置いておいたら少女たちの目に触れるとおもい、千夜の部屋に置かせてもらっていたのだ。

見ていたものを返されているともとれるが、紫苑にはべつのおもいが芽生えた。

ドクッ、と胸が鳴る。

フツ、とたぎる血は、男としての本能とはちがう……そんな気がした。

スケッチブックを受けとった紫苑が口を開くまでのわずかな間に、彼女は藍色のワンピースの背に手をやった。

その動きで、紐を解いたのだとわかる。

やがて、はらり、はらり、と細い肩から布地がすべり落ちた。

いちどは胸の上で引っかかったものの、七分袖から一本ずつ肘を抜いてしまうともう、押し止めておくものはなにもなく、一糸まとわぬ肌が腰元まであらわになる。

服の上からも察してはいたが、下着は身につけていなかった。

紫苑の胸は当然高鳴っていたが、動揺は湧いてこない。

ふしぎと、百年前から、彼女との間にはモデルをしてもらう約束が出来上がっていたようにもおもえてくる。

紫苑の目に、その肢体はいわば芸術品にしか見えなかった。

それほど、肩幅と腰幅、腕の長さに、胸の高さ、なめらかな肌に刻まれたしなやかな筋肉がつくるラインまで、すべてがすばらしく完璧で、うつくしい。


そう──、紫苑の中でたぎるものは、むしろ、芸術家としての本能…………!



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