『モナ・リザ』
「これ…………六人も、死ななきゃなんねーのか?」
当初のパーティーのメンバーは、主人公である勇者を含めて、ついには全滅してしまう。
そこに爽快感などあろうはずがなかった。
むしろ、あんまりじゃないか、と言いたくなる。
しかし、それこそが真名が勇者という『英雄』に祭り上げられていく男を通して描きたい、葛藤と悲愴なのだろう。
たとえば、よくあるゲームのように、死者をよみがえらせるアイテムやシステムを設定するだけで、この作品にある陰は払拭できるかもしれない。
──が、それは作品独自の味を殺す行為に他ならなかった。
仲間を失うことと引き替えに高まる勇者としての名声は、主人公に悲しむこと、立ち止まることを許さない。
勇者の元にはあらたな仲間が集いきて、結果、さらに失うものが増えていく。
それでも、戦いをやめられない『勇者』という役割を負った主人公が、最愛のひとと生きることよりも死を覚悟した最終決戦に挑み、果てるという結末は、あらすじを読んでいるだけでも胸がつまり、感情が揺さぶられるものがあった。
杏が見たら、「これじゃ売れないよ」と言うのだろう。
紫苑も、そうおもう。
けれど…………
どのくらい、時間が経ったのか。
いつの間にか、真名が紫苑のそばに立っていた。
「どうでしたか?」
「──チーが読んだら、真名らしいって言うんだろうな」
とたん、真名の目が大きくなった。
それだけで、紫苑には、真名がいつもとはまったくちがうストーリーを書いたつもりなのだ、ということがわかる。
マジか、と紫苑は内心で独り言ちた。
「杏は……やっぱり、これじゃ売れないって言いそうだな」
「そう…………ですか」
しょんぼりとうなだれた真名を、紫苑はじっくりと観察する。
失礼なはなしだが、落ち込んでいる人間を描くときに、これほど適切におもえる表情はなかなか見たことがなかった。
「もし、そう言われちまったら。そのときは、俺にそのはなし、描かせてくれるか?」
「………………は、え?」
「『モナ・リザ』、知ってるよな?」
世界一有名と言ってもいいダ・ヴィンチの絵画は、美術の教科書を開いたことがない、というくらいの美術オンチでなければまず、女性のポーズが頭に浮かぶはずだ。
「は、……はい」
目を白黒させながら、真名が小さく返す。
はなしに脈絡がないとおもわれているのだろうと、紫苑は苦笑を浮かべた。
「あれって、顔の半分で悲しみながら、もう半分で微笑んでるんだってさ。その勇者も、魔物を倒して人々は喜んでくれてる、でも失った仲間がいる──だから、ああいう、複雑で印象的な表情をしてるんじゃないかっておもった。その顔を、この手で表現してみたい」
ぱちくり、と真名がまたたく。
しばらく真名は、紫苑をまじまじと見つめていた。
「紫苑さん──彫刻家をめざしているんですよね?」
「まあ、いちおうな。でも、秋美にもマンガ家をめざす方がずっと現実的だって言われてるし、こないだ杏にも、貧乏は覚悟しろ的なことを言われたんだよなー」
「杏ちゃんったら……」
「杏は、だから止めとけって言ったわけじゃねーよ。でも、好きな相手ができてもいっしょになれないかも、って言われちまうと男としてはそんな甲斐性なしでいいのか、っておもうじゃねーか。それに、ミケランジェロも──」
言いかけて、紫苑ははっと口を閉じた。真名が小首をかしげてみせる。




