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初ホモ画

紫苑がリュックの中から出したA4ファイルの間に挟んであった黒一色のイラストをローテーブルに置くなり、紫苑の両端から同時に大声が上がった。


「きゃああああ」

「ずっるーいっっっ」


里沙は絵に飛びつき、千夜は紫苑に噛みつかんばかりに飛びかかる。


「しーちゃんが里沙のためにホモに手を染めたー!」

「染めてねーよ。どこがだ! べつに見つめあってもねーし、くっついてもねーし、脱いでもねーだろ。断じて、健、全、だ!」

「わかってないなー、しーちゃん。見つめ合うだけがカプじゃないんだよ。一方通行のがそそることもあるんだから! ね?」

「そうだね。いろいろ妄想できそう」


千夜のことばに同意したのは真名で、里沙はといえば、かじりつきで絵をのぞき込んでいる。

よだれ垂らすなよ、と言いたくなったが、どうせ耳に入らないに決まっているので紫苑は黙っていることにした。

横では、千夜が腕にからみついたまま、紫苑をじっと見つめてくる。


「いいなー、いいなー、ずるいなー」

「おまえにやった絵を欲しがってるっていうから描いてやったんだろ。これでおまえにまで描いてやったらキリがない。だいたい、あのくらい、おまえだって面倒がらなきゃ自分で描けるだろうが」


とたん、千夜がぷうとむくれた。


「そーいう問題じゃないんだもーん」


言い返そうとした紫苑の腕を引いて、紫苑、と里沙が呼ぶ。


「ありがと! 大好きっ」


『何が』だ、と突っ込む代わりに、紫苑は希望に満ちた解釈をもぐらたたきよろしく、ペコペコと根気よくたたき潰した。

どう考えても、こんなにいきおい任せでおおっぴらな愛の告白など、あるはずがない。


「…………そうか、気に入ってくれたならよかった。──じゃあ、俺はそろそろ」


と、帰る気まんまんで立ち上がろうとした紫苑の腕に、里沙もぎゅっとしがみつく。

千夜が甘えたりじゃれついたりするのとは、まるでちがう強さに、紫苑は面食らった。


「なんだ?」

「帰っちゃだめ! 今日はだめ、ぜったいだめ。ここにいて。紫苑が帰るなら、私もついてくから!」


千夜ならともかく、里沙を家に連れ帰って、いったい親に何と説明すればいいのか。

そもそも、千夜が言うならただのわがままだと一蹴するだけだが、ふだんの里沙であればこんなことはまず言わないに決まっている。


「おまえらは夏休みだろうけど、俺はまだ大学の授業があるんだよ」

「朝になったら、大学行っていいから。今夜だけ帰らないで。ね、紫苑?」


おねがい……、とささやかれて、紫苑はあえなく白旗を揚げた。


「わかったよ。ここに泊まればいいんだろ」

「しーちゃん、里沙のおねがいに弱すぎー! おねがいされたら、里沙の部屋で寝ちゃうんでしょ。知ってる? そーいうの、据え膳っていうんだって」

「いわねーよ! アホなこと言うな、チー!」


両腕がふさがっているので、紫苑は仕方なく千夜のひたいに頭突きをお見舞いした。

あいたっ、と呻いて千夜が自分の頭を押さえたので、紫苑の右腕が解放される。



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