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不審物

ひととおり見て、紫苑がおもったのはやはり杏が入ってレベルが格段に上がっているということだ。

なにがそんなにちがうかといえば、画面の白と黒のバランス、そしてコマの大小のバランス、何よりも、そのシーンをどう見せるかというネームのセンスがすばらしいとおもう。

紫苑がもし、秋義のようにマンガ家をめざしているとしたら、頭を下げてでもネームの切り方を学びたいとおもうにちがいない。

客観的な目を持っているからなのか、自分なりの法則を編み出してでもしているのか、杏ならばどちらであってもおかしくなさそうだ。


「……真名の考えるストーリーって、女子が読むとはおもえないところに着地するな」

「そーなんだよねー。杏ちゃんに、これでハッピーエンドだったらなーっていつも言われてる。でも、ハッピーエンドじゃないからいいんだよ。これが真名らしさなの。きれいに終わった物語なんて、きっと三秒で忘れちゃうよ」


三秒で忘れるかどうかはわからないが、千夜の言いたいことはよくわかる。

ひと言で言えば、胸に残る結末なのだ。

五つのマンガの内、三つまでもキャラクターの死が描かれているのは真名にとって悲愴ともいうべき感情を描くことが目的のひとつだからなのだろう。

それは、ドキドキわくわくといった感情の揺れ方とは掛け離れていて、見るものに覚悟を要求するものだ。

読めば他の作品とはちがうなにかを胸に残すし、それにハマる人間もいるだろうが、好き好んで読みたがる人間がどれほどいるだろうか。

そういう意味では、杏が「売れない」と言うのももっともではある。


「…………なぁ、チー。おまえ、真名に──」


紫苑が言いかけたとき、玄関でカギが回る音がした。

とたん、千夜が冊子をかき集め、ソファのクッションの下に隠してしまう。

俺に見せちゃダメなのか、と紫苑はおもったが問う隙さえなかった。

ただいま、と真名の声がする。


「なーんだ、真名か。里沙かとおもった」


何で里沙だと冊子を見せたと知られてはダメなんだろうと紫苑は疑問におもったが、リビングの戸が開いて、ことばを失った。

真名は元々色白ではあるが、蒼白といってもいい顔色をしていたのだ。


「真名、どうした?」

「これ……ポストに届いてたの、千夜。例のやつかも」


紫苑のことばが耳に入らなかったように、真名が手にしていた茶封筒入りの小包を千夜に向かって差し出す。

例のやつ、というのが何かはわからなかったが、真名の顔色からして尋常ではない。

紫苑は千夜よりも先に手を伸ばした。

宛て名には、『Pa(r)ty3』とあるので、サークル宛ということだ。


「しーちゃん──」

「何だこれ? カミソリでも入ってんのか?」


軽口をたたいたつもりだったが、千夜は否定せず真名と顔を見合わせる。

それを見て、紫苑はおもわず小包を耳に当て、次いで振ってみた。

感触からして、どうやら本のようだ。

爆発物ではなさそうなので、とりあえずほっとする。



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