2+1+1
「里沙は、何時ごろ帰るんだろうな?」
軽い話題のつもりが、千夜はペンをぺし、とローテーブルに叩きつけ、紫苑をにらんだ。
「しーちゃん、里沙が帰ってくるのを待ってんのっ?」
「何でそうなる? 単に、あいつが居ない間を任された身としては、帰るまでいないとかなー、とかおもっただけだろうが」
今もって、そんな会話をしたおぼえは微塵もないのだが、もしもほんとうに任されていたとしたら、さっさと帰宅している紫苑のことを里沙はどうおもうだろう──そうおもうと、原稿が一段落したからといって帰るに帰れない紫苑だった。
さすがに、もう一晩ここに泊まるのは勘弁したいとおもうが、こころの片隅では、あの夢の美女をもういちど見たい、できればモデルを頼みたい、という願望が今もムクムクと育っている。
「もう用なしだから早く帰れとおもってるなら、帰るけどな」
「ダメだよ。今夜はオムライス作るって真名が言ってたもん。そんで、それまでこっちの原稿も手伝ってー。おねがぁい!」
目をやれば、誰かが誰か──どちらも男だ──を口説いているシーンのようだ。
紫苑は、背景に筆文字で書き込まれた和歌を見て、片方は西行こと義清で、元同僚にあたる源義朝──ともに、転生後という設定ではある──とのシーンだとぴんときた。
流麗な筆文字は、おそらくは杏の手によるものだろう。
「なぁチー。おまえも、そういうやつが好きなのか?」
「そういうやつ?」
「男同士のカップリング、っていうのか?」
「うーん。べつにどっちでもいいな、私は。真名が考えたはなしなら、恋愛かとか、男女かとか、そういうのあんまり関係ないからね」
そのひとことで、やはり千夜にとっては、真名が作るはなしをマンガにしたいという基本はいささかも変わってないのだとわかる。
「真名の考えたストーリーをマンガにしたやつってないのか。オリジナルで」
「えー、見たいの? 短いやつならいくつかあるよー」
と言って、パソコン机に歩み寄った千夜が、コピーを閉じた簡易な冊子を五つほど持って戻ってきた。
が、すぐには渡してくれない。
「中学時代のとかもあるんだからね。絵が変でも、変って言わないでよ」
「わかったわかった。おまえの腕も成長したなーとおもうから」
はい、と手渡された冊子を、紫苑はとりあえず上から順に読んでいく。
ひとつは千夜がひとりで絵を描いたとおもわれるもの。
ひとつは、里沙が背景などペン入れを手伝ってるとわかるもの。
さらにひとつは、トーンの分量が増えていて、真名が貼ったのかなとおもわせるもの。
のこりのふたつは、ぱっと見、それまでとはベタの割合がまるでちがって、そこから杏が混ざり、四人で描いていることが一目瞭然だった。




