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1冊目脱稿

海の日こと、月曜日の夕方。

ようやく日差しの侵略がなくなった居間で、八五、八六、と杏の声が淡々とひびいている。


「八九、九〇と……よし、ぜーんぶあるよん。完成です、みんなお疲れさまー」


とんとん、とダイニングテーブルの上でそろえたA4サイズの原稿の束を、杏はテープつきのクリアポケットに入れた。

テーブルの上には、すでに宛て先が記入済みの定型小包専用の白い封筒が用意されている。


「とか言いつつ、まだもう一冊あるー。うえーん、冬は、二冊作るのはやめようよぉ」


ローテーブルでペン入れ中の千夜が、床にひっくり返って泣き言を言った。


「そうだね。投稿作を描くのにも力を入れなきゃだしね」

「どっちにしろ、マンガは描くのかぁ」


ため息をついた千夜に、あたりまえでしょ、と杏の代わりに応じたのはパソコン机でモニターに向かっている真名だ。


「……杏。それ、本文だけだろ。表紙は?」

「ああー、忘れてたあああ! なんちて」


紫苑を振り返った杏がぺろりと舌を見せた。


「おまえ、策士だけど役者にはなれないな」

「ならないからいいですよー。表紙と裏表紙は、すでにデジタルで入稿済みです。里沙ちんをアシスタントに送り出せたのは、そこを仕上げてくれてたからなの。カラーはやっぱり里沙ちんが塗るのがいちばんきれいだから。ていうか、デジタルは里沙ちんしか塗れないんだけどさ」


封筒の口に透明のビニールテープで厳重に封をしてから、杏は原稿を胸に抱いた。


「そんじゃー、送ってくるね。私、ほんとにそのまま帰ってもいいのかな。もう三時間くらいは原稿できるよ?」

「いいよー。杏ちゃん、昨日はほぼ徹夜で写植やってくれたし。面倒なこときらいなのにごめんね、私、自分だけ寝ちゃって」

「ハハ。寝ぼけてセリフを打ちまちがえたり、貼る場所をまちがえたりしても手間だしねー。今まで、当然のように引き受けてくれてた里沙ちんのすごさを思い知ったよ」


紫苑と真名も、かなり遅くまで、トーンを貼りまくっていた。

千夜にも貼らせるはずだったのだが、言い争いのシーンにしゃぼん玉の点描トーンを貼ったのを見た真名に、寝に行くよう諭されたのだ。

紫苑は、寝ぼけていることをアピールするためにわざと貼ったのでは、ともおもったが、私もしーちゃんと朝まで起きてるー、と食い下がっていたところをみると、どうやら本気まちがいだったらしい。


「杏ちゃん待って。買い物に行くから、私もいっしょに出る」


そうして、お泊まりバッグを持った杏と保温効果のあるトートバッグを持った真名が玄関を出て行くと、部屋には紫苑と千夜だけが残された。

紫苑は、千夜とふたりなら気兼ねもいらなくてもっと気が楽なのにと常々おもっていたが、いざふたりっきりになってみると火が消えたようなさみしさを感じる。



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