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「だいすき!」

「私も脱ぎますよー。でも、下着で動揺してる従兄くんに女の子の裸が正視できんの?」


メガネの彼女も笑いながら話に加わる。

からかう表情の下、腕組みした上に乗っかる衣服ごしのふくらみすら正視できず、紫苑はうっかりパソコン前に座る美少女の方に顔を向けてしまった。

おもいきり、目が合う。

と、彼女は怒ったようにぷい、とそっぽを向いた。

今度は、ヘテロともヘンタイとも、罵られることはなかった。


「……こーなったの、もとはといえば私のせいだし。パンツ以外なら、脱いでもいい」


語尾はごくごく小さかったが、脱いでもいい、たしかにそう紫苑には聞こえた。

もう、男としてどんな顔をするべきなのかさっぱりわからない。

ただ、目をハートにして雄叫びを上げるのだけはちがう、とわかる。


紫苑は声がうわずったりしないように、注意深く深呼吸をした。

深呼吸のつもりだったが、自分ではどのくらいかけて息を吐いたのか、実は見当もつかない。


「──とりあえず、めちゃくちゃ困ってるってことだけは、よぉぉぉく、わかった」

「帰らないよね?」


千夜が正面から紫苑のTシャツをにぎりしめる。

紫苑は無言でうなずいた。

べつに、ヌードが目当てなわけじゃないぞ、と弁明したかったが、あえて言うほうがこだわってるととられそうなのでやめておく。


「ありがと、しーちゃん! だいすき!」


子どものころと同じ感覚で抱きついてくる従妹に、紫苑はあきれた。

他の少女たちの手前、そうされている紫苑の方がはずかしい。


「ばか。もうガキじゃねーんだから、相手が従兄だからって、男にホイホイ抱きつくな」

「……ドキドキしちゃう?」

「全然しない」


即答した紫苑のすねを、千夜はふくれっ面で蹴って離れた。

仮にしていたら、反射的に突き飛ばしてしまっていたかもしれない。

どっちがマシだ、と訊くこともできたが、大して痛くもなかったので流してやることにする。

リビングの中に押し込むように、とん、と真名から両手で背中を押された。


「コーヒー入れます。紫苑さん、お砂糖は?」


じゃあブラックで、と答える前に、元気よく千夜が手を挙げて、いっぱぁい、と答える。


「私、ミルクだけー」

「ブラック!」

「あの、俺も」


美少女が言った直後を見計らって、紫苑はそう訴えた。

真名がほほえむ。


「紫苑さんは里沙りいさちゃん派、なんですね」

「ハ?」


真名がキッチンに行ってしまったので、紫苑は千夜の腕を引いた。


「おい、あっちの彼女がリイサっていうのか? 名前くらいおしえといてくれ」

「そだね。里沙はムース・オ・フランボワーズでー。あんちゃんはプラリーヌ・ノアゼットね」

「……ハイ?」

「ちなみに、私がショコラ・ブラン。真名はクレーム・シャンティーっていうの」



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