そろばん担当
「十八ってことは、一応受験生か。おまえの学校、進学校なんだってな。大学行くのか」
「わーお。はなしを逸らしましたね?」
断じて元の話題になど戻るものか、という紫苑の決意を杏はあっさりと酌んでくれた。
「大学は、行きます。っても、勉強目当てじゃなく、キャンパスライフってやつを体験しといた方がいいかなーとおもって。予備校なんかも行ってみたいんだけど、そんな動機で親にお金を出してもらうのは気が引けてね」
「マンガを描く材料になるってことか?」
「そうです。だって、仕事はマンガ家って決めてるからね。大学を卒業しようがしまいが、学歴は物を言ってくれないでしょ?」
紫苑はおもわず杏を見上げた。
角度があるので、幸い、今度はちゃんと顔が見える。
「おまえ、秋美みたいだな」
「ほえ? 紫苑くんの友だちですか? 例の、お金持ってる百合好きの?」
「百合好きかどうかは知らねーけど……サッカーやってけっこうな金を稼いでるくせに、選手やってる動機は、史上最高のサッカーマンガを描くためのネタ拾いだとか言ってるからな。サッカーネタなら、いわゆるボーイズラブってのまで読んで研究してるよ」
そしてたまに、ここはこうした方がリアルになるとおもうけどどうおもう?などと紫苑に単行本持参で意見を求めてくる。
はっきり言って、迷惑なことこの上ない友人だ。
「ひえー、それはオタだね。でも、究極の潜入取材ってやつかも。私も潜入したい先はあるんだけど、まあちょっと無理だよなーと」
「どこだ?」
「NASA。アメリカ航空宇宙局──」
「…………冗談か?」
「冗談だとおもってくれていいですけどね」
「あ、いや、おまえ……そういや、SF好きなんだよな?」
杏のむくれた声に、紫苑はあわててことばを継いだ。
と、杏の足がいっしゅん静止する。
「ハハ。好きというなら、未来よりか過去なんですけど。SFは、需要のわりに供給が少なくて……とくに女子の描き手は貴重で、重宝されるって聞いたから──まあ、売れるための選択と言いましょうか」
紫苑は、昨夜の真名のことばをおもいだした。
紫苑の胸で泣いたことも。
「杏。売れるってことは、そんなに大事か?」
「大事です。会社だってそうでしょ? リーダーには理想とか理念がなきゃいけないけど、利益をシビアに考える人間だってぜったいに必要なの。四人の中で、そういうのにいちばん向いてるのは私だから」
それはそうかもしれないと、紫苑もおもう。
「たとえば、同人活動でも利益が一定額を超えたら所得税がかかるって知ってます? 今年の夏あたり、うちも課税対象に該当しそうなの。私もまだまだ勉強中だけど、いっそパティスリーを法人化すべきかなーとか考えてまして。手出しだった交通費なんかも、経費で落とせるし。四人で無理なく活動をつづけていくために、打つべき手はちゃんと考えておかないと」
所得税、という単語くらいは知っているが、一定額とやらがいくらなのか紫苑には見当もつかない。
紫苑でさえそうなのだから、千夜にはきっとちんぷんかんぷんだろう。




