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護る対象

紫苑は腕を組んだ。

何か言いたそうな里沙をにらむ。


「おまえが、あいつをひっかけて、金づるにしようとかおもってるなら、俺も野暮なことは言わない。好きにしろ。でも、あいつはもてる男だから、寄ってくる女はみんな警戒なんかしてねーんだ。拒まれるなんておもってない男をうっかりその気にさせたりしたらどうなるかぐらい、想像つくだろ。二度とは言わないから、ちゃんと聞け。──嫌なら、ちゃんと自分で用心しろ」


紫苑はばしん、とテーブルを叩いた。

それから、ケータイを手にして、リビングに行く。

パソコン机の椅子の上から、不安そうな顔で真名がこちらを見ていた。


「すみません……一応、勝手に電話に出るのは止した方がいいとは言ったんですけど」

「恋人ってやつ──まさか信じてないよな?」

「え、ええと…………だいじょうぶ、千夜には言いませんから」

「いっ、言うなよ? ぜったい言うなよ? あいつ、本気にするに決まってるからな。あれはな、誰かさんのホモ好きに調子合わせてるだけなんだ。ひとめぼれして、真っ正面からぐいぐい押すしかできない男なら、俺も心配しやしねーんだけど」


歩み寄ったパソコン机に片手をついてため息を落とした紫苑の横に、ひょっこり杏が顔を並べる。

うんうん、とうなずいてみせた。


「そーいうことかー。里沙ちんもモテ女子だから、男の魂胆くらいお見通しだとはおもうけど。……紫苑くんの心配が、千夜ちんに対するのとおんなじ感覚なんだってことはわかってないかもなー。そこ、完全に意識が食い違ってるよ、ふたり。そうおもわない?」


問いながら、杏は真名を椅子の背ごと抱きしめる。

真名は小首をかしげた。


「紫苑さんが私たちにもやさしいのは、千夜みたいにおもってくれているから?」

「なんてのかなー。他人か身内かでいえば、身内だとおもってくれてるっていうか。奪う対象じゃなく、護る対象として見てくれてんだよね、私たちのこと?」


杏に言われて、紫苑は自分の心境ににわかに納得がいった。

安易な挑発に苦言を呈したくなるのも、かといって警戒されてやたら腹が立つのも、要はそういうことだ。


「──かもな」

「私たち、男兄弟はいないけど、まあ、誰かといえばパパに近いのかな。でもほら、里沙ちんとこは、男親っていないんでしょ?」

「そうだね」


こく、と真名がうなずく。

紫苑は、おもわずふたりの顔を見比べた。


「そうなのか……じゃあ、ほんとうにわかってねーんだ、あいつ? 怒って悪かったな」


紫苑がダイニングの方に視線をやると、いつの間にやら里沙のすがたは消えていた。

そろそろ日付が変わろうとしているので、寝に行ったのかもしれない。


「てゆーか。むしろ、紫苑くんが里沙ちんに惚れてたら、はなしは早いのにね? 他の男に頼みごとなんかするな、おねがいなら俺が何だって叶えてやるからーって。ほらね?」

「ほらね、じゃねーんだよ!」


紫苑は杏の額を指で弾こうとしたが、さっと躱されてしまう。



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