確信犯とパンツ×2
いずこからか、ドライヤーのモーター音が聞こえている中、真名がまだうっすらと湿り気を帯びた髪を揺らして、ダイニングテーブルに座る紫苑の手元をのぞき込んだ。
「紫苑さんも、シャワー浴びてきてください」
「……は? いいよ、もうすこししたら帰るんだし」
「えっ。今日、ここに泊まるんじゃないんですか? この週末は、紫苑さんが泊まるからみっちり背景描きを仕込んでもらえるって、千夜と杏ちゃんが……」
紫苑は、バッとローテーブルの杏を振り返った。
あいにくと、千夜は三十分ほど前に眠いと雄叫びをあげ、自室に消えてしまっている。
「あーんー! 誰が泊まるって言ったよ」
「まーまー。私が、床で寝ても平気なようにタオルでクッション作ってあげますから」
「そーいう問題じゃねえ!」
怒鳴ると、びく、と紫苑の傍らで真名が身を引いた。
杏が立ち上がり、真名の背後にやってきて、その肩にやんわりと腕をまわす。
「おっかしーなー。何か、行き違いがあったみたいで。私は、紫苑くんが手取り足取り、つきっきりで真名ちんの背景描きをサポートしてくれるって聞いたから、てーっきり泊まるもんだとばかり……」
そらとぼける杏の顔を紫苑はにらんだ。
「何言ってる。確信犯だろ、おまえは」
「えへへ。まあね。里沙ちんに、買い物ついでに着替えのパンツを頼んだのは私です」
ぺろりと舌を出して白状したことに、紫苑はあごを落とした。
「ハァ? 今、なんつった?」
「だから、ついでにパンツ買ってきてーって。大丈夫、ちゃんと男物を買ってきてくれてますから。たぶん三枚いくらの安物だけどね。見ます?」
「おまえ、よりにもよって里沙にそんなもん買ってこさせたのか?」
「えー、パンツぐらいどうってことないよねー、真名ちん?」
「……私は恥ずかしいよ。里沙ちゃん、勇気あるね」
真名がお風呂上がりでやわらかそうな頬を、ぽっと薔薇色に染めてうつむく。
「うーん。マンガの資料にもなるよーって言ったからかな。里沙ちん、マンガとホモを描くためなら、超がつくがんばり屋さんだし」
「おまえなあ」
「あ。イベントなんかでもらったフリーサイズのTシャツもあるので、どーぞ。ギャルゲーの絵だったりするけど、まあ気にしないで」
「ふざけんな! 俺は帰──」
うりゃ、と杏が言った瞬間、紫苑の目の前で真名のワンピースの裾が高々と舞い上がる。
とっさに紫苑は顔を背けた。
目もつむったが、下着が何色だったか、と問われれば正解に近い答えは口にできそうな気がする。
「杏ちゃん、なにするのっ」
「はいはい。パンツ見ちゃったおわびに、真名ちんにはとくべつにやさしーく背景描きをおしえてくれるってさ。だいじょうぶだいじょうぶ。私には怒ってても、真名ちんにはやさしくしてくれるよ。紫苑くんは紳士だからさー」
ね、とメガネの向こうから小首を傾げた杏に同意を求められ、紫苑は特大のため息をついた。
そして、のそりと椅子を立つと、左手を杏に突きつける。
「なんすか?」
「パンツくれ。あと、タオルも。Tシャツは寝るとき借りる」
「──了解でーす。何なら、私からのキッスもつけてあげましょうかー?」
笑いながら、杏はその場を離れていった。




