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風呂から悲鳴

千夜が、くすん、と嘘泣きで鼻を鳴らしながら、ローテーブルに這っていく。


「わーかったよー。描くもん。描けばいいんでしょー」

「おみごと……」


おもわず、紫苑はうなった。

千夜とは十五年以上のつき合いになるというのに、言うことを聞かせる前につい言うことを聞いてやってしまってばかりの紫苑には、ついぞできた試しのない芸当だ。

なにげに、自分はあの『しーちゃん、だいすき』に弱いのだろうか、とおもい至る。


「ダシに使ってごめんなさい」

「いや、ダシでもニボシでも、チーを叱る役に立つなら構わない。チーは、いい友だちを持ってるな」


とたん、真名の色白の頬にぽっと赤味がさした。

真名が床に膝をつこうとすると、ふわりとワンピースのすそがひらめく。


「千夜とは、小学生のときからのつき合いだから、遠慮するような仲じゃないの。里沙ちゃんや杏ちゃんがおもってても言わないことは、私が言ってやらないと──」

「あいつ、すーぐむくれるけど、根はすなおなやつだから。見捨てないでやってくれ」

「見捨てませんよー」


くすくすと笑って、真名は立ち上がった。


「里沙ちゃん、もうすぐお風呂が沸くから。切りのいいところで入ってね!」

「真名が入りなよ」

「私、今夜は家に帰るから。千夜も、今からひとがんばりするんだって。だから里沙ちゃんが入って。で、よーくあたたまってね」


わかったよ、とえんぴつを片手にマグカップを口に運んでいた里沙が立ち上がる。

紫苑はリビングダイニングを出て行った里沙にほっとして、また、真名を傍らに、録画映像を見ながらスケッチを再開した。

──それから二分ほど経ったころだった。


「きゃあああああ」


おもわず紫苑が腰を上げるほど、甲高い叫び声がする。

里沙の声だ。

何事かと飛んで行こうとして、はたと紫苑は動きを止めた。


「おい、チー! 行け」

「えー、やだこわい。しーちゃん行って!」

「あほ、あいつ風呂に行ったんだろうが。行けるわけあるかっ!」


紫苑と千夜の視線が、一秒ほど交叉した。


「だれか来て! 千夜、千夜ッ」


里沙に名指しで呼ばれては仕方ないとばかりに、千夜も腰を上げる。

千夜がリビングの戸を出て行って、ものの数秒ほどだった。


「しーちゃん、しーちゃん! イヤーッ、きてきてきて!」


紫苑は真名と顔を見合わせた。

呼ばれては、行かないわけにもいかない。

廊下に出て、バスルームのものとおぼしき半開きのドアを紫苑は引いた。



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