冷えにはお風呂
と、ねえ、と横から右腕に手が置かれた。
細い指先はひんやりと冷たく、紫苑はおどろいてしまう。
「ちょ、おい、里沙。おまえの手……」
紫苑はつい、自分の手でその指先をにぎり込んだ。
本当は、両手で挟んで息を吹きかけたかったが、嫌がられるのは目に見えているのでやめておく。
「なによ」
「何よって、寒いんじゃないのか、その格好。こんなに冷たいのはやばいだろ。おい、チー、何か羽織るものないのか、こいつの」
「いいの、暑いと汗で紙がよれるんだもん」
「バカ、紙との間にティッシュ一枚敷けばいいだろ。頼むから、そんなしょーもないことで大事な体を冷やすんじゃない」
里沙に凝視されて、紫苑は何かおかしなことを言っただろうか、と考える。
「あ……いや、バカは言いすぎた。けどな、エアコンつけるなら、もうすこし袖とか丈のある服を着ろよ。うちのおふくろ、真夏でもエアコン入ってるところじゃ長袖オンリーだぞ」
いわく、冷えは美容の大敵、なのだそうだ。
「だったらそれ、千夜にも言ってやったら? 似たような格好してんじゃない」
たしかにそうだが、千夜と美容にどんな接点があるというのか。
紫苑が手を差し出すと、千夜が待ってましたとばかりにちょこんと片手を乗せてくる。
指先をにぎった紫苑は、一拍ののち、離した。
「チーは大丈夫だ、ちゃんとぬくい」
「私の手も離して、いいかげん」
言われて、にぎったままにしていたことに紫苑は気づいた。
ほっそりとしている指は、離すのが惜しくなるほど触り心地がいい。
そうおもっている自分を自覚するや否や、紫苑はあわてて里沙の手を離した。
顔が、熱い。
「悪いことは言わないから、なんか着てこい。それか、風呂に入るとか……」
「赤い顔して、なに言ってんの? だからヘテロなんてお呼びじゃないんだっての」
そっけなく言われて、紫苑は口をつぐむ。
それ以上、なにも言う気になれなかった。
心配していたのはたしかなのに、男というだけでそれを上手く伝えることもできないのだ。
たしかに、どんな格好をしていようと本人の自由で、それを見て紫苑がどう感じるか、ましてや美容に良くない、などとは大きなお世話と言われても仕方がない。
「悪かったな。向こう行くよ。……チー、おまえもあんまり体、冷やすなよ」
「私は寒かったらしーちゃんにくっつくからへーき! 里沙とちがってね」
自分にとって少女の基準がコレなのがまずいのでは、と紫苑はおもった。
だからいまいち距離感がつかめなくて、困ってしまう。
紫苑は椅子を立って、スケッチブックを手にまたテレビの前に戻った。
寄ってきた真名が、控えめに紫苑を呼ぶ。
「あの──先にお風呂、洗ってきていいですか? 里沙ちゃん、放っとくとシャワーだけで済ませちゃうから。私、沸かしてきます」
紫苑は苦笑した。
真名には、紫苑が本気で心配していたのが伝わっていたらしい。




