あおりと俯瞰
「おまえ、そんなにくっついて暑くないのか」
「暑くないよ? しーちゃんより薄着だもん」
暗にもっと離れろと言ったつもりだったが、まるで通じなかった。
髪とか胸とか、そういう女性らしい部分がまったく触れてこないだけいいというか、なんというか。
紫苑が、人体のベースとなる肋骨と骨盤を直方体と四角錐でパースをつけて描く方法を、床に置いたスケッチブックに描いて説明していると、どか、といきなり尻を蹴られた。
前につんのめるほどの強さではなかったが、紫苑はとっさに振り返る。
「なんだよ」
腕組みをした里沙は、千夜とおなじように、キャミソールとショートパンツすがたという超薄着だ。
が、肩の薄さと腕に挟まれた胸のボリュームが千夜とは全然ちがう。
脚だってスカートではないから気にならないのかもしれないが、そこまで見せていいのかと言いたくなるような丈だった。
しかも、今の紫苑からはいわゆるあおりのアングルだという。
「女子を両脇にはべらして……これだから、ヘテロは」
「………………」
わかってるなら、もっと危機感を持ったらどうなんだ、と言い返したかったが、居直ってるようにしか聞こえないのでやめておく。
自分は断じてケダモノではない、と紫苑はおもうが、それでも健康的な男子ではあるので、どこかに沸点があることはたしかだ。
彼女だって男の生理現象など見たくもないだろうが、紫苑だって見せたくはない。
紫苑は、無言で顔を背けた。
口を開けば、服装に物申したくなるに決まっている。
「む、無視すんの?」
「里沙ちゃんもおしえて欲しいなら、こっちにおいで」
真名のことばに意表を突かれ、紫苑はおもわず前のめりにこけそうになった。
「自分だけ呼んでもらえなくてふてくされてんだー」
けらけらと千夜も笑ったが、反論は返らない。
マジか、と背後に視線をやれば、ふくれた顔をした里沙が前に回り込もうとするように足を踏み出す。
紫苑は内心、青くなった。
向かい合わせで手元をのぞき込まれたときの紫苑からのアングルは、今度は俯瞰だ。
それはまずい、と慌てて立ち上がる。
「お、おまえも聞くなら、テーブルに行くぞ」
そして、紫苑は真っ先に、里沙が座っていた椅子の横の席をキープした。
元いた場所に里沙が座れば、とりあえず視界にそのすがたを入れずに済む。
紫苑の前の席には、放っておいても千夜がつくだろうとおもっていたら、案の定だ。




