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二日後の夕飯で、紫苑は念願のオムライスにありつけた。
もちろん作ったのは真名で、仕上げに、卵の上にケチャップで星を散らしたり、四つ葉のクローバーやバラの絵を描いたのは里沙だった。
ちなみに、紫苑のぶんだけ『こども』とハートマーク付きで書き込んでくれたのは、千夜の仕業だ。
真名が食器を片づけている間、案の定、とある有明の建造物を背景に描いてくれと千夜にねだられたが、オムライスが食べられて機嫌の良かった紫苑は文句も言わずに描いてやった。
もっとも、画像を見つけて印刷したものを拡大コピーしてトレースするのがめんどう、とのたまった従妹にあきれてものが言えなかったのが半分。
いっそデジタル原稿にしようだの、ソフトを扱えないくせにだのと、里沙と言い合いをはじめたことに閉口したというのがもう半分で、決して文句がなかったわけではない。
そして十九時すこし前、紫苑はリビングの床にあぐら座りで、リモコンを片手にアニメの録画映像をチェックしていた。
傍らにはぴったりと真名が寄り添っていて、いっしょにテレビの画面を見つめている。
ダイニングテーブルについた里沙は、さっきからずいぶんとごきげんでそのアニメ──『転生覇王伝』の主題歌を口ずさんでいた。
「あっ、紫苑さん、そこっ!」
真名の声にどきっ、として、いっしゅん、リモコンのボタンを押すタイミングが遅れてしまう。
すこし戻してから、紫苑は改めて目的の司令室の内部がわかるシーンで一時停止ボタンを押した。
「まず、四方の壁際にあるものを、配置メインで描いておくだろ。それから、窓とかドアとか、細かなディテールがわかるようにデッサンする。上から見た部屋の中の配置もだいたいのところを描いておいて、机とか椅子は人物比も含めて厳密に描く、と」
言いながら、A4サイズのスケッチブックにえんぴつを走らせる。
真名は、食い入るように紫苑の手元を見つめていた。
「この時点では、なるべく正確にな。これさえ見れば、この部屋の背景はいつでも好きなアングルで描けるように」
「オリジナルのときは、どうすれば?」
紫苑は紙から顔を上げて、真名を振り返る。
と、きれいな黒瞳とばっちり目が合った。
「そ……そのときは、逆かな。シーンに必要なものの細かなディテールを先に描く。いろんな絵とか、写真を参考にしながらな。で、どのくらいの部屋にどう配置するかを決めておけば、いちいち資料を見る羽目になったり、つじつまが合わなくなることはない──とおもう。俺も、理論を習ったわけじゃないから、あくまで自己流だけど」
「真名ー。しーちゃんね、昔から立体に強いの。前から見たものの構造を把握して、上からでも横からでも想像で描けちゃうわけ」
だから参考にならないよ、と付け加えて、千夜がケタケタ笑う。
リビングのローテーブルで原稿の下絵描きをしている千夜は、ひんぱんに手を止めてはこちらに口を挟んでくる。
鼻歌まじりにえんぴつを動かしつづけている里沙とは対照的だ。
どうやらネームを描いたのは杏らしく、里沙と千夜は相談しながらふたりで手分けして下絵を描いている。
しかし、「ちゃんと自分で描け」と叱られているところをみると、元々下絵の担当は千夜なのかもしれない。




