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紫苑と親友

紫苑は、F6サイズのスケッチブックをあぐらをかいた脚の上に抱え、左手に持った2Bのえんぴつをしゃ、しゃ、と画用紙に走らせていた。


「そんじゃ、おまえ、金曜の夜からずっと原稿の手伝いをやらされてたわけ?」


片膝を立てた姿勢で体をひねりポーズをとったモデルの男が、紫苑にちら、と視線を流す。

割れた腹筋をもつ彼の名は、松田秋美あきよし

紫苑と同い年で、いわゆる幼なじみといわれる仲だ。


「俺も呼んだら、手伝いに来たのにー」

「無理だろ。第一、おまえの腕じゃほとんど手伝いにならない」


ぶう、と頬を膨らませた秋美だったが、ローテーブルの上に広げられた原稿に目をやり、やがてこくりとうなずいた。


「……まあ、たしかに。ほんとに、高校生が描いたのか、これ? ほとんどおまえが描いたとかいうオチじゃないの?」


紫苑も、今朝──月曜日の五時ごろ──になってようやく完成をみた徹夜の元凶に目を向ける。

これほど背景が入念に描き込まれた原稿は、紫苑もプロの作品以外で目にしたことはない。

たしかに、紫苑をここぞとばかりにこき使った結果ではあるが、なにを描き込みどこをもって完成とするか、妥協せずに手を入れつづけたのは千夜たち自身だ。


「秋美……おまえ、俺の描いた絵柄かどうかもわかんねーの?」

「え。…………いーや、わかる、わかるし。ほらその、宇宙船の扉とかな?」

「動くな。──しかも、ハズレだ」


ええーと、情けない声を上げた親友に、紫苑は右腕の位置をもうすこし上げるよう指示する。

もっとも、ペン入れをしたのは真名だが、下書きは紫苑がしたのだから、秋美の目が必ずしもまちがっているとは言えない。


「しかしやべーな、この部屋?」

「なにが?」

「そこはかとなく女子高生の匂いがする」


紫苑は、手近な消しゴムを秋美の額に向かって投げつけた。

が、直撃したのは頬のあたりだった。

いて、と秋美がうめく。


「おまえ、今すぐ帰れ!」

「なんで。おまえがここに来いって呼んだんだろー。じーちゃん家、とか言ってたけど、ウソばっか。女子高生が住んでまーす、って匂いしかしない」


おまえは犬か、と紫苑はおもった。

その足の速さをおもえば、犬でもおかしくはない。


「しかたねーだろ、原稿描きに朝方までかかって、人が寝こけてるあいだにチーのやつ、学校に行ってるし。帰ろうにも鍵は置いたままで、しかも、帰ってくるまでにカケアミしといて、ってなんかべつの原稿まで置いて行ってやがるし……」


カケアミくらいトーンを買えー、と叫びたかったが、昨夜のうちに帰ってしまった真名に代わって、千夜なりにがんばって作ったのだとおぼしき、朝ご飯──調理したと言えそうなのはせいぜいスクランブルエッグくらいだったが──にほだされて、結局、律儀にカケアミもやってあげた紫苑だった。

しかも、『転生覇王伝』の西軍キャラ同士──むろん、どちらも男──がいわゆる後背位で折り重なっているという純然たるベッドシーンを見ながら、だ。

紫苑は、下にいるのはちょっとばかり髪が短いだけの女子だ、と自分に言い聞かせて描いた。

少女マンガテイストの絵というのは、局部の描写さえなければ、男の目にはすべてが女性キャラに見えるといっても過言ではない。



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