タオルをかけてくれたのは誰?
はぁ、と紫苑は大きなため息をついた。
いくら考えたって、当事者でもない紫苑にはわからない。
それより、締め切りの迫った原稿を上げるのが先だ。
──俺の原稿じゃねーけどな。
いささか不条理なものを感じつつも、紫苑はペンを取り上げた。
真名の分も、それなりに体力のある自分ががんばってやろう、とおもう。
しかし──────いずこからか聞こえる目覚まし時計のベルに意識を呼び起こされたとき、紫苑は左手にえんぴつを持ったままダイニングテーブルに突っ伏していた。
いつの間にやら眠ってしまったようだ。
壁の時計は、朝の七時すこし前を指している。
描こうとおもっていた下書きは粗方できあがっているものの、自分が描いたという記憶がない。
両手を天井に突き上げて伸びをした紫苑の肩から、何かが落ちた。
見ればキャラクター柄のバスタオルで、もちろん、そんなものを掛けて寝たおぼえも紫苑にはなかった。
起きてきた少女たちに訊いても、みんな、一様に知らないという。
ウソをついてしらばっくれているのか、無意識にやったのか。
紫苑自身がどこからか見つけてきたという可能性も完全には否定できなかったが、うたた寝をしている紫苑に誰かが掛けてくれたのだ、と考えた方がしっくりくる。
「そのタオルは私のだけどさぁ」
たっぷりと睡眠をとったさわやかな顔で首をひねる千夜を見て、紫苑はうなずいた。
「俺が、自分で見つけて掛けたんだろうな」
「ちょっとしーちゃん、それどーいう意味!」
おまえにそんな気づかいができるとはおもえない、とは紫苑は口に出さなかったが、千夜は言わんとすることがわかったらしい。
「じゃあ、おまえが掛けたのか?」
「掛けてないけどぉ。朝までぐーっすり眠ってたもん。それに、しーちゃんが寝てるの見つけたら、たたき起こして絵を描かせてる!」
おまえは鬼か、と紫苑はおもった。
が、やりかねないので、千夜ではない誰かなのだろう、と結論づける。
「……紫苑さん? 玉子焼き、なにかへんな味、しますか?」
じっ、と顔を見つめる紫苑に、真名が困ったように問うた。紫苑は真名の仕業かとおもったが、寝てました、と申し訳なさそうに言った真名のことばがウソだとはおもえないし、ウソをつく理由もない。
「いや、甘くておいしいよ」
紫苑の返事に、真名はくすぐったそうにほほえんでみせた。




