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Assistant Days -with a Sweet smell-  作者: カノウラン
紫苑 -エピローグ 2-
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少女の未来

「紫苑はさー、それだけ神話に詳しければ、彫刻家として行き詰まったとしても、神話ネタでマンガが描けそうだよなー」

「……行き詰まるとか、これから本気でめざそうとしてる人間に言うんじゃねー!」


紫苑が秋美に肘鉄とヘッドロックを食らわせると、見ていた杏があははと笑う。


「まーまー。彼なりの激励なんじゃないのかな。気楽にやれよ、っていう。紫苑くん、私たちもあと数年もすればプロになってバリバリ稼いでいるので。収入に困ってたら、彼のお嫁に行かなくても、私たちがアシで雇ってあげますよん」


なんで嫁、と突っ込みたかったが、秋美が悪乗りしかねないので、紫苑は聞こえなかったことにしてしまう。


「まあ──……いざとなれば、よろしく頼む」

「仕方ないから、私は毎日この絵を見て、紫苑がおもいどおりの彫刻を作れるようにって、祈っててあげる」


里沙のことばに、紫苑はつい噴き出した。


「ちょっ! 何でわらうの?」

「いやぁ、笑っちゃうよねー。しーちゃんがここに来たばっかりのときと、ぜーんぜん言ってることちがうんだもん。ね?」

「ああ、いや…………ありがとな、里沙」


紫苑の礼に、里沙がはにかむように微笑を返してくる。

と、里沙に向けた視線に割り込むように千夜が紫苑の前に立った。


「しーちゃん、しーちゃん。留学して帰ってきたころには、私、十八になってるからね。そしたら、いつでもヌードモデルやったげる!」


紫苑の両腕をつかんでそう言った千夜の笑顔を、おもわず、紫苑は凝視してしまう。

ふと、知っている誰かと、その千夜の顔が重なった気がしたのだ。


「千夜のヌード? それって芸術になんの?」

「なによー、自分はまだ十八になれないからってぇ! きれいになるもん! 里沙に負けないくらいきれいになってやるもん! しーちゃん好みの、美しい造形ってやつぅ!」


里沙を振り返って頬をぷっくりと膨らませている千夜を、紫苑は自分の方に向かせた。


「へ? しーちゃん?」


じっ、と見つめる紫苑を、怪訝そうな瞳が見返してくる。

紫苑は、里沙のときとはまたぜんぜんちがう意味で、わらいたくなった。


「────チー」


ほころぶ口元を見せない内に、紫苑は目の前の従妹の肩を抱き寄せる。


「ひゃ! ……は、ハイ?」


いやに緊張した声が返ってきたことに、紫苑はこらえきれず、笑ってしまった。

耳のそばにくちびるを寄せ、小声でささやく。


「おまえ、きっと、きれいになれるぞ。俺が、夢で想い描くくらいに…………きっとな」


側に立っている秋美には聞こえたかもしれないが、おそらくは里沙たちには聞こえていない。

腕の中で身動ぎした千夜が、真っ赤な顔で紫苑を見上げてくる。

紫苑は、くしゃりとその髪を撫でた。

紫苑にとって、いちばん馴れた、細くて手ざわりのいい髪を。

すると、唐突に千夜の両肩から腕がにょっきりと生えた。

肩口から現れたのは、真名の顔だ。


「私たちのおねがい、ぜんぶ聞いてくれてありがとうございました。私たち、千夜に負けないくらい、みんな紫苑さんのこと大好きですから。いつでも、遊びにきてくださいね!」


千夜の体を抱きしめながら、真名がほほえむ。

紫苑は、ぽん、と真名の頭も撫でた。


「チーのこと、よろしく頼むよ」


はい、と真名がしっかりとうなずいてくれる。

横から、遊びに来るときはペン軸を持参でねー、などとのたまった従妹のことは、紫苑はあえて無視をしてやった。



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