Rusty Railway
ある夏の日、とある赤い単線の気動車が一人寂しく、田んぼに囲まれ、赤錆の生えた線路の上をゆっくりと夕闇に包まれながら走っていた。
この路線はこの数年間沿線の過疎化による利用者の減少により、赤字経営を強いられており、3ヶ月後には沿線自治体合同の取締役会で路線の存続を賭けた会議が行われることが決定している。
やがて、気動車が三十件ほどの家が立ち並ぶ小さな集落に隣接された、木材を並べただけのこじんまりした駅に着くと、三十代前半の男を一人降ろし、騒がしい音を立てながら夕闇へ消えていった。
男はしばらく気動車が消えていった闇の向こうを見つめていたが、やがて無人になった駅の出口を抜け、小さな集落へと歩き出した。
よく見ると、灯はおろか、井戸も枯れている廃屋が多数あり、人家は数えるほどしかなかった。
「三郎」
振り返ると彼の母親が、駄菓子屋、いや、廃墟と化した建物の暖簾を下げている手を止め、彼を漠然と見ていた。
「帰ってきよったんか。」
母は嬉しそうな、でも寂しそうな微笑みを浮かべながら男を見ていた。
「さびれたもんだなぁ。」
「みんな若いもんが東京さ行って、年寄り共だけが残されたんだぁ。そら人口も減るっぺ。」
おとこは子供の頃、なんの変哲もない子の山奥のど田舎の村が大嫌いで、反抗期真っ只中で親や、周りの人たちの反対を押し切ってこの村を出た。
一度出るとまた再び村へ帰った時に村民たち
に温かく迎えてもらえないことを恐れ、それから逃げていた。しかし、いざおとこが帰ってくると、そこには疲れ果てた母の姿の他には何もなかった。
すっかり寂れ切ってしまった故郷を目にし、男は自分のしでかした過ちを後悔するとともに、過疎という現象を恨むのであった。
「ごめんよ、おっかぁ。」
おとこは二十数年ぶりに母を抱きしめ、三十数年ぶりに泣いた。彼の母の体は鉛筆のように細く、弱々しかった。
やがて、山奥の小さな停車場に赤い気動車が騒がしく、しかし懐かしい汽笛の音を出しながらホームへ滑り込んだ。




