第一話 金髪少女に連れられて
平凡な毎日はいつもすぐそばにあるくせに、必要な時には存在しない。
「ーーであるから、ここはーー」
俺はいつも通り授業を聞いていた。
そう、聞くだけだ。他に何もしない。他に何もする必要がない。授業なんて時間が経てば終わる。あと少し、あと少しだ。
そんな時に突然バン!という大きな音とともに教室のドアが開かれた。
そこには金髪の少女が立っていた。
少女といっても、身長はそこそこあるし、胸もある。
ただその少女は制服ではなく、どこかのファンタジーに出てくる魔法使いのような真っ黒なドレスだった。
(なんだなんだなんですか?不良な中二病か?)
周りを見ると、やはり戸惑いを隠せないようだ。
そこでさっきまで授業をしていた教師が口を出した。
「な、なんだね君は…あの…」
「黙りなさい。私は人を探しているだけだ」
「人を…?」
「ああ、ようやく見つけた」
(ほう…この教室にあいつの知り合いがいるのか。誰だ?周りはみんなオドオドしてるし…)
少女はヒールをツカツカと鳴らしながら近づいてくる。
俺に向かって。
「え?」
(いやいやいやいや、俺じゃないよね?きっと後ろのやつだよね?俺こんな痛い子知らないよ)
少女は俺の机の前に堂々と立った。
「ご主人様!今こそ元の世界に帰りましょう!」
「え?は?ん?」
周りの奴らも俺と同じような反応をしている。
「ま、まさか、記憶を失っていらっしゃるのですか?」
少女がワナワナと震える。
「あーえーえっとー…」
「今すぐ屋敷に戻ってください!」
周りも俺と少女を交互に見てヒソヒソ話したり、キョトンとしている。
「と、とにかく戻ります!付いてきてください!」
「ちょ、ちょっと……」
俺は手を引かれ、グラウンドに出た。
(体育とかやってる生徒もいるのによくやるぜ……あーあー俺の学園生活終了かなぁ)
「あ、あの!」
「なんでしょうか?」
「多分だと思うのですが…人違いとかじゃありません?」
「この私がご主人を見間違えるわけないじゃないですか!」
怒られてしまった。
「俺、あなたのこと知らないんですが…」
「おそらくこちらの世界に転生して記憶を失われただけです」
「は?転生?」
「はい。ご主人は『新しい世界が見たい』とおっしゃった後、勝手に!一人で!出て行かれたんですよ!」
何やってるんだ前世の俺…
「とにかく行きますよ!」
話しながらグラウンドを出て門に向かった。
校門の手前で少女が叫んだ。
「門よ、開け!」
(校門空いてますよ〜)
とか思ってたら、目の前に光が差し穴のようなものが空中に空いた。
少女はそこに俺を投げ入れた。
「うわぁぁぁぁ!」
「私は少しこの世界でやることがあるので先に帰っててください!主人の部屋に設定しています!」
少女の言葉を聞きながら、俺の意識はなくなった。
「う…ううん……」
俺はベッドの上で目が覚めた。
「知らない天井だ…」
冗談はさておき、目の前がボヤけてよく見えない。
ゆっくり周りを見渡すとだんだんピントが合ってきた。
(ここはどこだ?)
記憶喪失みたいだ。
ここがどこかすらも分からない。
普通に家具とかが置いてある。
でもちょっと家具がアンティークかな。
ゆっくりと部屋を左から見回していく。
ドアだ。ドアがある!監禁されてない!
……冗談はもういいか。
(とにかく出よう…)
ドアを開けると左側にのみ長い長い廊下がある。
(ここは端の部屋なのか)
俺は廊下をまっすぐ歩いた。
廊下には絵画や石像のようなものが飾られている。
廊下には等間隔にドアがある。
(ドア開けるのはちょっと怖いな…)
200mほど進んだときに半分ほど開いたドアから光が漏れていた。
部屋に入ると、窓から太陽の日差しが煌々と入り込んでいた。
(なんだかほっとするな。こうなんか、フワフワするような)
だがそんな気持ちは簡単に打ち砕かれた。
外には人がいて、馬車が走っていて、レンガ造りの家が大量に並んでいた。
(いや、これはヨーロッパかどっかだ!大丈夫、”まだ”夢の国ではない)
一つ一つ情報を整理して外を見ていたら、後ろから声をかけられた。
「ご主人さ…」
「ひっ!」
「お、お帰りになられてたんですね!」
「お、おう!」
(誰だ…?メイド?)
茶髪のロングヘアで白人のように白い肌。
少し小さめの背でメイド服を着ている。
(とにかく聞いてみよう)
「あ、あのさ…」
「はい、なんでしょう?」
「ここどこ?」
「ええと…ここは私の部屋ですが」
そうなのか…いやいや違うよ。
そうじゃなくて…
「えっと、そうじゃなくて…」
メイドは少し考えた後、俺にこういった。
「…あ、はい!ここは王都。あらゆる王と貴族のみが住むことを許された地です!」
(あ、あれ?もしかしてここって…)
「異世界…?」