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3.リク兄さんと愉快な子供達

 ガキ共に先に行けと指示を出すとみんなは楽しそうにテコテコ森のなかへ入っていった。


 彼らは基本的に馬鹿なので全く信用はしていない。

 馬鹿でも戦う力だけはあるので、アナライザーもある事だし危険という事はないのだろうが、何をやらかしはじめるのか本当に心配だ。

 下手したら森でかくれんぼなんて始めたりするんじゃないかと思う程だ。

 色々心配の種はあるのだが、俺はガキ共が森へ入ってからしばらく時間を開けてから一人で森の中の詮索を開始した。

 怪しいところは無いか辺りを見渡しながら森の中を歩く訳だが、俺の場合気にかけるところはそれ以外の所にたくさんある。


 まず一つ、俺自身あまり不用意に出歩かない事である。

 この森をうろつく人攫いがいて、さらにその人攫いがアナライザーを装備していた場合、PND値が300前後の生意気な子供には手を出しても600ある大人にはまず手を出してこないからだ。

 600もある人間を前にしたら普通警戒する。

 俺が人攫いだったら600ある人物を発見した時点ですぐに身を引く。

 警戒されてしまっては余計に奴らの拠点を暴きづらくなってしまう。

 だから俺は人攫いに発見されないように動く必要があるのだ。

 幸いアナライザーは俺が確認する限りどの製品も、パーティーを組んでいない限り視界外の人物を察知する事は不可能なので、敵の視界にさえ入らなければよい。

 とは言ってもアナライザーなんて高価のもの、騎士隊に所属している兵士でもない限りそう持ってはいやしないだろうし、持っていたとしても律儀にPNDを計ってくるとはあまり思えない。 だからその辺はあまり神経質にならなくてもいい気はするが、念の為という事で。


 もう一つはガキ達の動きにもしっかり気を配らなくてはならない事だ。

 奴らがちゃんとバラバラに探しているか見張るというのもあるのだが、あまり俺が奴らから離れて行動をとっていると、いざという時に直に駆けつけられなくなってしまう。

 だから中でも心配なジーとアルを中心にあまり遠くに離れない位置にいる必要がある。

 ちなみにおよその戦力情報を伝えておくと、うちのエース、リズは400近いPND値を持っており、次点のアルは350程度、ザックは300ちょい、ジーだけ一人300を越してない。

 追いはぎを仕事としている奴なら、以前戦士や魔法使いの職歴がなければあってもせいぜい350程度。

 ジーだけ少し不安だが、一対一ならそう簡単には負けないだろうし、複数で囲まれたときに逃げる戦術もしっかり教えておいたから、いざとなっても平気だろう。


「まぁ、うまく捕まってくれなきゃいけない訳だが……」


 敵が手を出してきた時に、ガキ達には暴れないでしっかり奴らの本拠地を暴いてもらわなくては困るのだが、奴らがおとなしくのこのこ捕まるような図はなかなか想像できない。


「やっぱり俺が自力で探し出すしかないのかねぇ……」


 そんな事を思っていると、早速アルのからヘルプの要請が入ってきた。

 基地を見つける人攫いに捕まるような事があればヘルプを一度だけ押していいと伝えてはおいたのだが、無意味に何度もヘルプを出すところがアルらしい。

 アルは動く様子を見せず、ある地点で止まっているようである。

 という事は捕まったのではなく、基地を発見したのであろう。

 こうも早く見つけるとは信じがたい。

 あまり期待せずにアルの方へと駆けつけていった。




「隊長! 敵の本拠地を発見しました!」


 俺が駆けつけた時には既にリズがその場に居た。

 それで、アルの指差すほうを見るわけだが、そこは地面だ。


「ここです!」


 アルが指差すほうに近づいてみる。

 そこあったのは本当に目と鼻の先まで近づかないと確認ができない程小さな穴。

 っつか、アリの巣。


「お前はPND値が1しかないような生命体と戦ってるのか?」

「違うよ」

「じゃあ敵はどこだ?」

「アリさん~、アリさん~」


 俺の話も聞かずに、一人アリの巣をほじくりだすアル。

 アリさんも大迷惑である。


「リズも一緒にやってないで他行け。そしてアルは二度と紛らわしい真似はするな。次やったら百叩きの刑な」


 そう言って無理矢理アルとリズを現場に戻らせる。

 アルに分かれと言っても無駄な気はするが、俺にとってヘルプは物凄い重要な知らせなんだ。

 このヘルプがあった所に全身全霊を込めて突っ走る。

 一瞬でも時が遅れたら命に関わる重要なミスに繋がりかねない。

 だから遊びでは絶対に使って欲しく無い。


「いいか? だから絶対に遊びには使うんじゃないぞ」

「ビー」


 俺の眼の前でヘルプを押しやがった。

 百叩きの刑執行。




「四十七! 四十八! 四十九! 五十!!」

「分かった! ごめんよ! ごめんよぅ! もうしないよ!!」




 とりあえず半泣きにさせておいた。

 途中でジーもザックも駆けつけ、半泣きになったアルを見て遊びでヘルプを押したらどうなるか勉強してくれたみたいだからよしとする。

 本当に100回叩いてたら手が疲れた。

 せめて50くらいで終わらせておけばよかった。

 お陰で無駄な体力と時間を使ってしまった。

 もう二度と遊びでヘルプを押さないことを全員に誓わせ、再び探索作業に戻るためにそこで一旦解散した。





「……ねぇ」

 あれから2~3時間くらい探しているが、一向にそれらしい所は見つからない。

 ここまでくると、奴らも含めて森は全範囲探したんじゃないかと思えるくらいだ。

 もしかしたら完全に俺の読み違いで、森で追いはぎにあった連中と人攫いは別の人物なのかもしれない。

 でも、やっぱりあんな平和な田舎町でそんな悪党が複数組いるとは考えにくい。

 追いはぎと人攫いが同一の犯人だとしても、この森以外に拠点を構えているのかもしれない。

 ただ、今日の受け渡し場所の事を考えるとやっぱりこの田舎町近郊に犯人は今もなおいる訳で、この森が一番拠点として作りやすい場所だと思うから確率は相当高いと思うんだが……。


「この町の外に目立たない場所で人質を居座らせるような場所なんかあるのか……?」


 まぁ、今更他の場所を探したって遅い。

 とりあえずは夕刻4時まで探すと決めたのだから探さなければならない。

 そんな事を考えつつ、ぶらぶら森の中を回っていると、突如ヘルプが入った。


「リズからだ!」


 あのリズがヘルプを出していた。

 俺の現在地からそう遠くはない場所だ。

 拠点を発見、もしくは人攫いに攫われるまでヘルプは押すなときつく言っておいたので、もういたずらで押すなんて事はないだろ。

 まぁ、そうでなくてもリズはいたずらで押すような性格はしていないんだけれどもな。

 俺は急いでリズのいる方向へと向かっていった。




 チン!


 俺がリズの元に駆けつけると、丁度リズが剣を収める姿が目に入った。


「どうした!? 何が起こった!?」

 急いでリズの元に駆け寄る。


「……終わった」

「倒しちゃったーーー!!」


 リズの側には倒れている人間が約一名。


「大丈夫、みね打ち。」

「ちょ、ちょっと待て!」


 倒れている人をよくよく見てみると、ただ木の実でも取りに来たのかと思えるような平和なおっさんっぽかった。

 別に武装も全くしていないし、背中にしょってるリュックからは木の実がこぼれていた。


「普通のおっさん倒しちゃったー!! すいませんすいません! 大丈夫ですか!! 大丈夫ですか!!?」


 とにかく急いで倒れているおっさんの救護に入る。

 ここで回復魔法を使って俺の魔法力が落ちる訳だ。


「普通じゃない。私に声掛けてきた」

「普通だよ! そりゃ追いはぎが出る森に一人の少女が歩いてたら誰だって危険を促すよ! そして倒すなって念を押したのにどうして倒すんだリズは!! 大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!??」


 極度に警戒心が強いリズなんで納得のいく行動といえば納得のいく行動なんだが、何であれだけ念を押したのに、よりによって何も害のない一般市民をどうして倒してしまうのかが分からない。

 万が一人攫いに攫われても絶対に助けてやる。

 だから、頼むからおとなしくしていて欲しい。




 とりあえずリズにもきつくお叱りをしておき、おじさんにもしっかり謝らせ、再び作戦に戻らせた。

 俺もまた1人で怪しそうな所を探しに出かけたのだが、途中でジーの動きが鈍くなり、止まったままになったので仕方なく様子を見に行くことにした。

 まぁ、何の楽しみもなく長時間森を歩いているだけなんだから、つまんなくなっても仕方はないが、止まっていると余計な心配までしてしまうので、せめて少しくらい動いて欲しい。


「何やってんだお前……?」


 俺の視界にジーが入った時、ジーは地面にズッポリ埋まってた。


「あぁ! リクにぃ助けてくれ! アルの奴にハメられた!」

「は?」


 よく分からないので、とりあえずジーの方に近づいて行くが……。


 ズポ。


「ぬぁ!」

「あぁ!!」


 途中で地面が抜け、瞬く間に俺もジーと同じような状態になってしまった。


「そ、それは俺がやったんじゃないよ! アルが掘った落とし穴だ!」

「っつー事はお前も一緒に掘ってたんじゃねーかよ!!」


 幸い落とし穴は、大人の俺にとってそう深くはなかったので、簡単に抜けられた。ジーの方は俺のハマった穴とは違って胸の辺りまでズッポリハマってしまっているので、抜けるのが相当大変そうだ。


「っつか、お前らここで何してた?」

「べ、別に何も……」

「何もしてないのに落とし穴が自然発生するか! 何してた? 正直に話せよ~」


 怖い顔しながらジーに近づく。


 ズポ。


「おい、これは誰が掘った穴だ?」

「た、たぶんクソにぃ……」

「ザックもやってたのかよ!!」


 あまりに不意をつかれたので、かなり間抜けな感じになってしまった。

 それでもやはりあまり深い穴ではなかったので簡単に脱出に成功。

 仕方ないのでとりあえずはジーを助けてやる事にする。


「クソにぃがさ、これを掘っておけば相手を罠にハメる事ができるって言うからさ、アルと一緒にたくさん掘ったんだよ。そしたらアルが俺をだまして落とし穴に落として逃げやがったんだ。アルの野郎……今度会ったら許さねぇぞ……」

「…………」


 馬鹿が集まるとロクな事にならん。


「アルには俺から叱っておくからお前は何もするな。そして動けなくなったんだったらヘルプ使ってもいいぞ。そのままの状態はかなり危険だからな」

「だってアルの奴がヘルプを押すとリクにぃが怒るって言うんだ。だから俺、押さなかった」

「…………」


 アルは馬鹿の天才だな。

 よし、今度張り倒してやろう。


「分かったからもう行け。ジーだけは今度何かあったらいつでもヘルプ押してよしとする。俺も怒らないから何かあったら遠慮なく押せ」

「分かった」


 それだけ確認するとジーは俺の前からいなくなり、再び探索に戻っていった。

 まぁ、いたずらに使うなんてのはアルくらいなもんだし、実際の所ジーが一番心配だ。

 俺に怒られるからっつーんで人攫いに捕まってもヘルプ押さないとかは非常に困る。


「さて、俺も行きますかね……」


 ズポ。





 今度はザックだ。

 ザックが動かなくなった。

 ザックも真面目なんだが、時折おかしな事しだすから目が離せない。

 多分今も休憩とかしているだけなんだろうが、休憩にしては長すぎるし、一番手のかからないはずのザックだけどたまには様子を見ておこうと思ってとりあえずザックの所に向かうことにする。


「また落とし穴にハマってましたとか言うオチじゃないだろうな……」


 敵の拠点を探すというより、奴らの面倒を見る方に目的が段々変わってきてしまったような気がする。

 確かに奴らは何をしでかすか見ていて楽しい奴らだけれども、こういう重要な仕事の時だけはしっかりやってもらわねばならない。

 ジーやアルには無理かもしれんが、それくらいもう15になるザックには分かって欲しい。


「あれ……?」


 ザックの反応が物凄く近くにあるのに、ザックの姿が視界に入ってこない。

 今度は落とし穴じゃなくて、宙吊りになる罠とかそういうオチなんじゃないかと思って視界を上げてみるも、ザックの姿は見当たらない。


「おかしいな……。この辺にザックの反応があるはずなんだが……」


 そう思ってそこらを探してみると、大変な落し物に気が付いた。

 地面は落ち葉がたくさんで見にくかったけれども、アナライザーの反応のある方に限りなく近づいた時、それに気が付いた。

 ザックのアナライザーとザックの愛用している武器だ。


「しまった!!」


 俺はザックのアナライザーと奴の使っている小振りの槍を拾い上げる。

 これがここに置いてあるというのはどういう事か。

 アナライザーなんてものは風呂の時も寝てる時も着用できるもので、基本的に自分から外すような事は起こりえない。

 つまり、何者かに外されたという事になる。


「何で外される前にヘルプを押さなかったんだよ!!」


 その問いはその直後にすぐ解けた。

 今俺の居る所に残るかすかな香り。

 これは催眠作用のある香気だ。

 ザックは知らない間に眠らされ、何者かに誘拐されたんだ。


「クソッ!! 何でもっと早く気が付かなかったんだ!!」


 しかも、ザックを攫ったと思われる人物はただの追いはぎではない可能性が出てきた。

 普通アナライザーなんて高価な物が落ちていたら追いはぎだったら喜んでかっぱらうだろう。

 でもこうしてかっぱらわなかった。

 何故か?

 ザックの付けているアナライザーにパーティが仕組まれていて、他の人間からこのアナライザーの場所が分かってしまうのを知っていたんだ。

 しかもザックのアナライザーはいわば俺の子機であり、自分からパーティーを抜ける設定が出来ないことも知っている。

 アナライザーにあるパーティー機能にあるリーダー設定という奴だ。

 この場合俺がリーダーなので、俺の許しがなければ勝手にパーティーから抜ける事はできない。


 アナライザーの事をここまで知っているという事は、実際にアナライザーを使用している可能性が高い。

 つまり、戦闘に関しては何かと技術を持っている人物である可能性が高いのだ。


「このままじゃモロミイラ取りがミイラになってるじゃねぇか!! クソッ! 無事でいろ! 無事でいろよ! ザック!!」


 いや、落ち着け。

 攫われたのは当初からその予定だっただけで、今はアナライザーで居場所が分からないから焦っているだけだ。

 ここで攫われたという事は、俺の目星がずばり当たったという事なんだ。

 ザックや人質が殺されなければ何も問題はない!

 今からちゃんと助けだしてやる!!


 とりあえず緊急事態なので、俺はヘルプを押して他の奴らを招集する事にする。

 するとすぐにジーとリズの反応がこっちに向かってくるが、何故かアルは動こうとしなかった。


「何やってんだアイツは!!」


 仕方ないのでアルのいる場所の方に進路を切り替えるが、またもや嫌な予感がしてきた。


「あいつは落とし穴にハマってる。あいつは馬鹿だから落とし穴にハマってる……」


 嫌な予感を振り切り、そう心の中で何度も願った。

 しかし、その願いは見事に空振りする事になってしまった。


「アル……」


 アルの反応がある場所にたどり着いたが、アルの姿はなかった。

 代わりにあったのはアルの付けていたアナライザー。

 ザックが動かなくなってから他の奴らにはあまり気が行ってなかったので全然気が付かなかった。

 それにしても相手の動きが早すぎる。

 ザックを攫った場所からアルを攫った場所までそう遠くはないが、時間的に考えて相当素早く動かなくちゃ不可能な動きだ。

 ザックが攫われた時間とアルが攫われた時間に思うより大きな時間差があるのか、それとも相手が複数いるのか、それは分からないが結構やっかいな事になりそうだ。


「はぁ……はぁ……。リクにぃ……」

「…………」


 何処にも行きようがないので、その場でヘルプで呼び出したリズとジーの到着を待っていると、程なくしてジーとリズが俺の元にやってきた。


「落ち着いて聞け。ザックとアルが攫われた。アナライザーを残して」


 二人にそう告げると、二人の表情が硬くなる。


「相手は香気を使ってザックを眠らせている。恐らくアルも同じ手段で眠らされたんだろう。いいか? これからはなるべく三人固まって行動するぞ。匂いでもなんでも、何か異変に気が付いたらすぐにヘルプを押せいいな?」

「分かった」


 ジーもリズも力強く頷いてくれる。

 大丈夫だ。

 落ち着け、俺。相手はただの人攫い。

 金を要求する事はあっても人質を無駄に殺したりはしないはずだ。


「下手に暴れるんじゃねーぞアル!!」


 さっきのマッタリムードとは打って変わって、緊迫した空気の中、俺は体力の続く限り突っ走って奴らの基地を探した。

 そして走り始めてから20~30分後、この森の中に派手なカンシャク音が鳴り響いた。


「何の音だ……?」

「リクにぃ、あれ……」


 すぐ側を走っていたリズが何かに気が付いた様子で、空に向かって指をさす。

 するとそこにあったのは見事な打ち上げ花火だった。


「綺麗……」

「成る程……。おい、ジーついて来れるか?」


 アルの持っていた花火セットの中に、確か打ち上げ花火も混じっていた気がする。

 それがリズの指差す方向で上がったんだ。

 つまり、アルはそこにいるだろうし、ザックもきっとそこにいる。


「ら、楽勝だ!」


 ぜえぜえ言いながら後方を走るジーに気を使ってそう言うも、ジーはいつも通り強がって平気な顔をする。

 ジーがついて来たのを見計らって、俺たち三人は花火の上がった方向目指して再び走り出した。


「いいか? お前らはここで待ってろ。何かあったらヘルプを出すか声を上げるかする。いいな? 周りに注意いながらここで待ってるんだぞ!」


 花火の上がった方向へひたすら走り続けていくと、木がたくさん茂ってあり、こんな所に人はいないだろって所にたどり着いた。

 かすかにだが、ここから人の怒鳴り声が聞こえてくる。この辺りで間違いなさそうだ。

 俺は比較的視界が広い所に二人を残し、敵のいる場所に一人で突っ込んで行く事にする。

 辺りは段々暗くなり始めており、視界も悪くなってきた。

 さらに奥に進むことによって視界がさらに悪くなるのは明白で、そんな所で奇襲を受けたら二人に気を使っている場合じゃなくなる。




「早く言え! ブチ殺すぞ!!」


 二人を置いた場所からかなり離れた場所に奴らは居た。

 こんな所を通る人がいるのかと思える程険しい道を乗り越えると、その先には小さな広場があった。

 そこに人攫いの集団と思われる奴らが十人程、さらにはロープでしばられている人間が三人。

 一人はザック、一人はアル、そしてもう一人は今回の依頼で助けるはずの少年だろう。

 これなら都合がいい。この場でうまく全員敵をぶっ倒せば全て解決という事になるのだ。


 今俺は木陰から奴らの様子を探っている。

 その小さな広場には明かりもあり、ここからなら十分に奴らの様子が伺えた。

 今丁度アルが胸倉を相手につかまれ、凄まれている所だ。


「あぁ? 言わないと殺しちまうぞ……?」

「アルさん!!」

「てめぇは黙ってろ!!」


 今ザックが蹴飛ばされた。

 悔しい。

 今に思う存分思い知らせてやる。

 耐えろ、ザック。耐えろ、アル。


「う……うっ……」


 アルは泣きそうな顔して、相手のやられるがままにされていた。

 その間も俺は敵情察知と今後の展開を必死に頭の中でシュミレートされる。


(一番強いのが431。他は雑魚……)


 今ここで俺が不用意に飛び出したら先はすぐに見える。

 どさくさに紛れてザックか人質の少年一人は助けられるものの、直に他の人質を盾に俺の動きは封じられる。

 魔法で奴らの気を逸らしても人数が人数なだけに、隙が出来にくい。


(何か他に気を逸らせるような方法はないのか……)


 緊張しながらもタイミングを見計らう。

 野郎がアルから手を離して、なおかつあの場に一瞬誰もが注目できるような隙ができればかなり楽になるはずだ。

 そう思って様子を見続けるが、長いことこうしている訳にもいかない。

 いつ周りの雑魚が俺の存在に気付くか分からないし、はたまた後ろから違う誰かがやってくる可能性もある。


「お前の家! どこなんだよ!!」

「さっきも言いました通り、僕達は遠くから旅して来てるんです! 決まった家なんてありません!」

「なら親だ! 親の名前を言え!」

「ジンさん、もういいじゃないですかさっさと町の酒場にでも通信すれば……。親だってこのガキを捜してるんだし、すぐ出てきますよ。さっさと飯にしましょうよ」

「うっ……うっ……」


 辛いよな。

 怖いよな。

 今リクにぃが助けてやるから頑張れ! アル! ザック!


「花火……花火ぃーーーーー!!!」


 すると、突然アルが大声を上げて泣き出した。

 それに不意を突かれたのか、暴れだしたアルの胸から奴の手が離れる。

 周りの皆の視線は泣き出したアルに釘付けだ。


「今だ!!!」


 右手に用意しておいた炎の魔法を俺が進もうとする方向と逆の方向に放つ。

 それと同時に俺は捕まっている三人めがけて突っ走っていった。


「ザック! アル!!」

「何だ貴様!!!」


 進路をさえぎる奴らは全員体当たりで吹っ飛ばす。

 不意を突いたもんだから簡単に吹っ飛んでくれた。


「二撃目だ! くらえ!!」


 ある程度ザック達に近づけたら左手に用意しておいた爆発を起こす魔法をその場に放つ。

 そして素早く剣を引き抜き、爆煙がこもる中、距離的に一番近かったザックの縄を剣で解いた。


「リク兄さん!!」

「少年を引き連れて逃げろ!! 早く!!」


 無事に紐が解けたザックにそう指示し、すぐさまアルが居た場所へ移動。

 爆発が起こる前の位置関係は頭の中に完全にイメージしてある。

 下手にアルが動いてなければ俺が向かっている方向にアルが待っているはずだ。


「アル!!」


 後はアルを抱えて逃げるだけ……のはずが、イメージしていた場所にアルがいない!


「アル! どこだ!!」


 マズイ!

 思ったように事が進まない!

 一瞬の間が命取りとなる!

 モタモタしてたら完全に不利な状況に陥るぞ!!


「花火! 花火ぃ~!!!」

「アル! 返事しろアル!!」


 爆煙のこもる中、アルの声を手がかりにアルを探すも姿は見つからない。

 アルの声がする方向に煙の中を動くと、ふと何か大きい物にぶつかった。


「うわ~ん!!」

「…………」

「くっ……」


 やたらと体のでかい、敵の親分だった。

 しかもその親分、アルの首根っこを掴んで俺の方を見ていた。

 アルは一人泣きながら苦しそうにジタバタしている。

 こういう時にアルには冷静になってもらって、魔法の一発でもぶち込んでくれれば非常に助かるのだが、そんな事要求するだけ無駄だ。


「動くな。首をもぎとるぞ」

「…………」


 視界も少しずつ晴れてくる中、俺は相手と向き合った。

 距離はそう遠くはない。

 一歩踏み込めば剣が届く範囲だが、下手に動けばアルの命が危ない。

 苦しいよな。

 リクにぃが必ず助けてやるから待ってろアル!


「剣を手から離せ」

「アルを……子供の無事を約束してくれたら何でもしてやる」

「剣を捨てろ!!!」


 怒られた。

 別に剣なんか捨てたって魔法でこいつらを片付ける事はたやすい。

 それはいいからまずアルを解放して欲しいのだが、やっぱり話が通じる相手じゃない。

 視界も晴れてきた。

 そのせいで俺は雑魚の視界にも十分に入っている。

 雑魚の数が少ない。

 雑魚のいくらかは逃げたザック達を追っているようだ。

 さっき俺が放った爆音に対してリズとジーがどう動くかにもよるが、ザックにはなんとか頑張って欲しい。


「確認させろ。剣を捨てたらアルは助かるのか? 剣を捨ててもアルが助からないんだったら、アルには悪いがここで全員ぶっ殺させてもらう」


 もちろんそんな事するはずはない。

 俺が考える間を持つ為の陽動作戦だ。


「……そうだな。お前を殺したらこいつは解放してやろうか」


 残念だが簡単に見破られた。

 俺が死んだらアルの解放を確認するすべがない。

 俺の説得はいとも簡単に突破された訳だが……。


「よし分かった。俺が死ねばアルを解放してくれるんだな?」

「あぁ。そのつもりだ」

「うわ~ん!!」


 俺は神経を集中させつつ、下を向いて相手を油断させる。

 そして相手の方に向かって剣を放り投げる……とみせかけて。


「はぁ!!!」

「!!!」


 放り投げた剣を全身の力を込めて空中でつかみ、相手に突撃。

 野郎が一瞬でアルを殺すのは不可能だ。

 俺の脳内シミュレーション通り、野郎がアルに手を掛ける前に俺の剣が奴の体を貫いた。

 その一瞬の隙で泣き叫ぶアルを左手で抱える。


「わ~ん!! うわ~ん!!」

「おーよしよし。怖かったな。もう大丈夫だ。リクにぃちゃんがいればもう安心だ」


 俺の肩にしがみついて泣き叫ぶアルの頭を優しくなでてやる。

 そして一瞬にして回りの雑魚どもに視線をやる。

 雑魚達は親分が一瞬でやられた事にひるんでいる様子だ。


「覚悟があるならかかってこい。かかって来た奴は一人残らずブチ殺してやる。俺はこの町の傭兵をやっている。今度町の人間に手を出しても同じ事だ」


 そう大声で言い放って威嚇する。

 こういうごろつきは一般人が悪党に変化しただけの奴が多いので、俺が戦闘に関して腕を持っていると判断できればまずかかってこないはずだ。

 この親分は別格のようで、親分に引っ付いてきた奴ばかりなのだろう。

 つまり、親分がいなければ何も出来ない。

 親分だけ叩いておけばいいという事だ。


「かかってこないなら見せしめに一人殺すか? さて、誰から殺ろうか?」


 そう言って雑魚どもに視線をやると、雑魚どもは一斉に逃げ出した。

 後は親分をどうにかして、逃げたザックの援護に向かうだけだ。





 事件は全て片付いた。

 悪党の親分と悪党の一部は、あってないような町の自衛民の人たちに引渡した。

 その後はどっかの町か城が裁いてくれるだろう。

 ザック達も無事だ。

 あの後ザック達を追いかけたが、先にリズとジーが叩きのめしてくれていた。

 無事に人質も救出できたし、こっちの被害は0。

 町に戻って親元に帰し、報酬たんまりだ。


「本当にありがとうございました」

「いえ、これが仕事なんで。それよりも、お子さんが無事で本当に良かったです。俺も子供一杯引き連れてるんで、子供が心配な気持ちは分かりますから」


 人質になった少年の両親から何度も何度も頭を下げられる。

 やっぱり子供がいるべきところは親なんだなぁと思い知らされる場面だ。


「あのお子さん達は、戦士様のお子さんでいらっしゃるんですか?」

「いえ、ほとんど孤児みたいなもんです。奴らを親元に帰してやるのが俺の役割っつーか……」


 奴らは仕事も終え、今は同じ酒場の中で助けた少年と馬が合ったのか、一緒に遊んでいる。

 その場にいる少年の両親も俺も酒場のマスターも何となくそれを見ていた。


「なぁ、俺たちと一緒に冒険しようぜ! リクにぃは怖いけどさ、面白い事一杯あるぞ!」

「無茶苦茶言うなジー」


 そんな中、いつも先陣切って遊びの輪の中に入るはずのアルが俺の側でしょぼくれながら立っていた。


「何だ、アルも一緒に遊んでこいよ」

「……花火」


 滅多な事では泣かないアルが、あの場面でこれでもかってくらい泣き叫んでいた。

 最初はあまりの恐怖に泣いていたのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。

 ザックが勝手に花火に火をつけてしまった事に腹を立てているみたいだ。


 あの時何があったのかザックに聞いたのだが、アルの持っていた花火セットがふとした拍子に地面に転がったので、それを見たザックが機転を利かせてなんとか魔法で引火し、俺たちに居場所を知らせようとしたんだとか。

 それは素晴らしいザックの功績なんだが、アルの方はそれまで悪党に対してからかったような態度をとっていたのに、花火が勝手に打ち上げられた事によって急に黙り込んでしまったらしい。

 全てが終わった後、泣き叫ぶアルに対してザックは何度も頭を下げていたが、この様子を見る限りアルはまだ許してないようだ。

 頼むからナイスな機転を利かせたザックをこれ以上責めないで欲しい。


「無いもんはしょうがねぇだろーが。全部焼けちまったんだから。今度買ってやるからこれ以上ザックを責めるな」

「……いらない」


 何がしたいのか全く分からん。


「アルちゃん。よく頑張ったね! ちゃんとお兄さんの言う事を聞いてたかな?」

「…………」


 酒場のおっさんが声を掛けても無視。

 それだけ腹を立て、それだけ花火を楽しみにしていたという事なのだろう。


「アルちゃん、どうしたの?」

「…………」

「いやぁ、仕事してるときにおっさんからもらった花火セットが間違えて引火されてダメになっちまったんだ。それに対して怒ってるらしい。すまんな。明日の朝はケロッとしてるだろうし、放っておいてくれ」


 俺がそれを話すと、目に涙を溜めるアル。

 花火がダメになってしまったのが相当悔しかったようだ。


「そっか……。よし、おじさんがもう一つ花火セット持ってきてあげるから待っててね」

「…………」

「オイオイ。そこまでしなくていいって。世間の厳しさを教えてやる良い機会だ。子供を甘やかすなって」

「ダメ……ですかね。私としてはアルちゃんも頑張った事だし、ご褒美をあげたい所なんですが。だって、明日にはリクライトさん達は出発してしまうのでしょ?」

「まぁ、明日か明後日くらいには……」

「よかったら皆にお礼させて下さい。この町の治安を守ったのも皆なんですから」


 そう言っておっさんはこんな夜更けに町へと飛び出して行った。

 頑張ったのが皆なら、俺にも極楽温泉ツアーとか招待して欲しい。




 酒場の裏手にある広場。

 あのおっさん、張り切って大量の花火セット買ってきやがった。

 そこで皆一緒に花火をやっている所なんだが、肝心のアルがふてくされて一緒にやろうとしない。


「ほら、アルちゃんもおいで!」


 最初こそ酒場の中にこもっていたアルだったが、花火がはじまると気になったのか、酒場の影からこっちの様子をちらちら見てきた。

 それに気を使っておっさんもアルに声を掛けるが、なかなかこっちにこない。


「すまんな、アルごときにこんなに気を使わせちまって。わりぃけどリズ、もう一度アルに声掛けてきてくれんか?」

「うん」


 そう言ってリズを使いに出す。


「おぉ! すげぇよおっさん!! 見て見て!」

「お、ジー君がやってるのはロケット花火かな?」

「あんま人に向けんなよ、ジー」


 アルの事は放っておいて、俺も奴らの輪に入ってみる事にする。

 ふとザックと助けた少年が話していたので、それに耳を立ててみる事にした。


「お母さんは、優しいですか?」

「怖い。お父さんは優しい」

「やっぱり、お母さんの元を離れると寂しいですか?」

「……ジーとかクソにぃと一緒にいれば寂しくないよ!」


 両親のいる少年を質問攻めにするザック。

 やっぱり関心は親の事に向かうんだ。

 ザックはもう親と離れて何年になるんだろうか。

 やっぱりザックも親元を離れて寂しい思いをしているんだろうか。

 二人の会話を聞いているとそんな思いがこみ上げてきた。


「おぉ、やっとアルちゃんも来たね。よし、じゃあおじさんと一緒にやろう!」


 アルも加わり、いよいよメインの打ち上げ花火。

 その花火が夜空に打ち上げられると、そこにいる皆はうっとり微笑みを漏らした。

 ふてくされていたアルも目がキラキラしている。

 親と一緒に居る事が出来る安らぎは、これ以上の微笑と安心を運んでくれるはず。

 だから俺はこいつらの為に明日からも頑張らなくちゃと思うようになるのだ。


 俺の……俺達の冒険はまだまだ続く。

 こいつらを親元に、安心できる場所に行かせてやるのが俺の役目なんだ。

 これからも出会いと別れを繰り返しながら、俺達はこの世界を回っていく事になるだろう。

 色んな苦難もあるとは思うが、こいつらが心から安心できる場所が見つかり、笑顔を見ることができればいい。

 俺にとってはそれが最高の原動力になるのだから。


「それ~それーー!!!」

「あぁ、アルてめぇふざけんな!!」


 さっきまでしょぼくれていたアルも、もう既にケロッとして遊んでいやがる。

 やるなって言ったのに、人に向けて花火を構えているんだから本当にどうしよもない。


「こら人に花火を向けるなっつってんだろうが!! しばくぞ!!」

「わーい!! ほら!! リクにぃも早くこいよぅ!!」


 アルはそう言って俺をこまねきながら、ロケット花火に火を点けた。

 そのロケット花火は程無くしてこの夜空に浮かび上がり、綺麗な花火を描く……かと思いきや、華を開かせることもなくそのまま変な方向に落ちていった。

 その落ちていくロケット花火を目で追っていくのだが……。


「あ」


 ガシャーン!! どらぱぱぱぱぱぱぱ!!


 窓から民家に入って爆発した。

 そんなのどうしよもないだろってな感じで、ここにいる全員がみんながそれを気まずそうに眺めている。


 もう嫌だ。

 弁償するお金は今回の報酬で賄えるんですかね、ほんと。

 俺はみんながぽかんとしている間、こみ上げてくる涙を抑えるので精一杯だったのだ。

14.10.25

 これで終わりです。途中にやたらあった伏線みたいなのは何だったんだ!?って感じだとは思いますが、何だったのでしょうか。

とにかく、ギャグも話も中途半端で全くまとまってなくてすみません。5年以上前にふざけて書いたものをそのまま投稿したという言い訳をさせて下さい。

 実は次回作を書きながらの投稿だったので、不出来な3話目をしっかり立てなおそうと思いながら時間が開いてしまいました。次回作はすぐに投稿するので、もしまた違う方向の作品も読んでみたいと感じて下さいましたら、ぜひ次回作を楽しんで下さい。

 ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。


若雛 ケイ

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