1.リク兄さんのアルバイト
視界に入る青い空も空腹でかすんでくる。
広い野原にガキ4人と俺一人。
皆俺と同じように動く気力もなく、ただ呆然と空を見上げているだけだ。
ここにいる皆が皆、ここ二日間何も食べていないのだから当たり前といえば当たり前の話だ。
何が無いって、まず夢と希望と生きる気力がないが、それより何より仕事がない。
俺たちは町にある酒場と契約をとって傭兵の仕事をしている。
仕事の内容は色々あるが、大方は護衛かモンスター退治。
それを俺を含める5人で引き受け、報酬をもらって生活している。
そうやって生活している訳だが当たり前の話、仕事がなければ報酬ももらえない。
流れ着いたのがこんな田舎町だったのが災いしたらしい。
あまりにも平和すぎる。
平和すぎて魔物に困っている奴なんざ一人もいやしねぇ。
早いトコ次の町に移動したい所なんだが、今の状況となっては町を渡り歩く気力も財力もない。
ガキ4人には申し訳ないところだが、そろそろ本当に死を意識しなくてはならないかもしれん。
「リクにぃ! 球蹴りしよーぜ!」
「危機感0かよ!」
何かを閃いた感じでそう言いながら元気よく立ち上がったのは、うちで養っているガキのうちの一人、アルフリーナ、通称アルだ。
うち一番のガキでまだ9歳になったばっかの女。
養っているとは言うけれどもこのアルフリーナという子はやたらと魔法に長けている。
馬鹿のかたまりみたいな奴だが、ちゃんと育てれば将来とんでもない魔法使いになるだろうと予測される程の逸材だ。
だが、馬鹿だ。
「リクにぃ。球蹴り」
俺の眼前にどこで拾ってきたか、球蹴り用のボールを差し出すアル。
顔は笑顔だが、ここんとこ何も食ってないもんだから頬が痩せこけてきてる。
ぼろぼろの子供服にもっとぼろぼろの白いフード付きのマント。
最早白ではなく灰色になっちまっているけれどもな。
どこからどう見ても、今にも死にそうな可哀想な子供なのに表情だけは笑顔だ。
可哀想だとは思うが、申し訳ないけどこの笑顔に返してやれる笑顔が作れない。
何故なら・・・俺も死ぬ寸前だからだ。
「お前なぁ、どこの世界にこれから空腹で死にますって時に元気に球蹴りする奴がいるんだよ」
「ここ」
「お前だけは飢え死にしても助けてやらん」
「なんだよつまんないなぁ。もうリクにぃは絶対に誘ってやらんぞ!それでもいいのか!?」
「いいからザックとでもやってくれ。奴はお前と球蹴りしたいって言ってたぞ」
と、馬鹿と会話を長引かせて腹をこれ以上減らしたくないので、適当言って追っ払っておく。
するとアルは今の話を鵜呑みにして元気そうにザックの方へと走っていった。
すまんザック。
今のちょっとしたイベントにすら体力を使いたくなかった俺は、そのまま現実逃避するようにまぶたを閉じた。
「わーい!」
しばらくするとアルの楽しそうなはしゃぎ声が聞こえてくる。
「あぁ! やったな! とりゃー!!」
「まだまだですねアルさん! そらっ!」
なんであんな元気があるのか謎だ。
って――。
「リクさーん! 一緒にやりましょうよ! 楽しいですよ! 球蹴り!」
「貴様もかザック!!」
――数分後――
「腹減った……死ぬ……」
「…………」
本気で今にも死にそうな声を上げる馬鹿二人。
ザックなんて声すらでていない。
ここには俺以外に四人の子供達がいるんだが、その四人とも地面に寝そべってダウンしている。
球蹴りして無駄な体力使い果たした二人はいいとして、このままじゃ他の二人に申し訳ない。
飯すら与えてやれないなんてのは保護者失格だ。
俺はこいつらの為にもなんとか金を作って温かい飯を食わせてやらなければならない。
でも、仕事が無い。
仕事は通例酒場に行けば掲示板から拾ってきたりマスターから紹介してもらったりして貰うことが出来る。
ただ、それはあくまで通例。
こんな田舎町にそんな通例は通用しないのだ。
「よし分かった。今から町に行って仕事しよう」
「仕事って、依頼あるの?」
「ない。依頼以外で仕事すんだよ。バイトだ、バイト」
あれから歩いて数十分、時が止まっているかと錯覚するほどののどかな町並みに入ると「各自適当に稼いでこい」とガキ四人に言い渡して一旦解散した。
そうは言っても奴らをあてにしている訳では全くなく、俺の仕事探しの邪魔をされたくないという理由なだけだ。
一人になったところで俺も奴らに食わせる為に仕事を探す事訳なんだが、こんな田舎町に仕事なんてそうあるもんじゃない。
俺達の基本的な仕事は護衛任務やら魔物討伐やらアイテム採集やらと、基本的に魔物を退治することを前提としたいわば傭兵的な仕事で、そういった仕事はその街の酒場に要請が行くのが普通だ。
だが、脅威となる魔物なんて一匹たりとも見ないしみんなそれぞれ仲良さそうに平和に暮らしてらっしゃるのがこの街だ。
この街にたどり着いてからは何度も何度も……それこそ酒場のマスターさんとは顔なじみになってしまう程酒場に通って依頼の有無を確認してみたのだが、今まで依頼が届いたのを一度たりとも見たことがない。
早くこんな街から出て依頼がわんさか届く都会に移動したい所なんだが、そこまで出る金がない。
仕事が無いから金がない。
金がないからこの街から出られない。
この街だから仕事が無い。
という素晴らしい貧乏サイクルの中でただただ時間と生きる気力を浪費させているのがいるのが今の状態だ。
歩いて3,4時間で一望できてしまう程の田舎町を適当にぶらつくが、やっぱり仕事になりそうなものは見当たらない。
ガキ共からの収入は全くアテにならないので、ガキ共を食わせるためにも俺自身が頑張って仕事を見つけて金を稼がなくちゃならない。
「やっぱり武器屋か道具屋かねぇ……」
武器屋とか道具屋ならばバイトを雇っている可能性はある。
でも給料が今日中に払われなければ意味が無い。
それでも行ってみる価値はあるかなと思って道具屋の前を通り過ぎた所で身内に出くわした。
ザクソス=エイゾーツ。
通称ザック。
さっきアルと一緒に球蹴りやって腹を減らした馬鹿だ。
ガキ共の中でも最年長の15歳。
性格は温和で優しいがちょっと変わったところのある男だ。
一見普通な感じがするだけにたまにボケられると非常に困るんだよな。
ガキ達の中で唯一まともに回復魔法が使え、俺たちの中では救護役として位置づけられている。
そのザックが道端にしゃがんで何かしているようだった。
何をしているのかと思って近づいてみると、ザックは怪我したうさぎをじっと見ているようだった。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、リク兄さん! この子が怪我をしているようなので、使えるようになった新しい魔法を試してみようかなと思っていた所だったんですよ……」
「ほぅ……」
見ると、うさぎは足に傷を負って辛そうにぴくぴくしながら倒れている。
動けないほど深い傷には見えなかったので、恐らく毒でももらっているのだろう。
この辺りには毒を持ったリスが生息しているからそいつにでも噛まれたんだろうな。
ザックは魔力を集中させるように目を閉じ、両手をうさぎの患部に当てた。
そしてそのまま「リメディ」と力強い声と一緒に魔法を放つ。
それには俺も驚いた。
リメディというのはかなり高位な回復魔法の一種で、体に回る大抵の毒や麻痺の治療を行うことができる。
そんな高位な魔法をザックが使えるとは思いもよらなかったので、俺は思わず「おぉ」と感嘆の声を上げてしまった。
「どうだ?」
「はぁ……ダメです。やっぱ、使えない魔法ですから……」
「え、何!? ふざけてたの!? 今さっき使えるようになったって言ってたじゃねーか!! 馬鹿なことやってるうちにその子死んじゃうぞ!?」
俺がそう突っ込むと、ザックは慌てて解毒の魔法と傷を治癒する魔法をかけ直す。
するとうさぎはすぐに元気を取り戻して、サッサと俺達の前から姿を消してしまった。
ザックは時々真面目にやっているのかふざけているのか分からないようなこういったボケを躊躇なくぶっこんでくるから非常に困る。
こういう場面ではそれほど問題にはならないのだが、重大な場面で何かやらかさないかというのが日々不安の一つだ。
「これでよし……と」
「あの子が無駄に苦しんだ数秒間はいつか返してやれな」
「使えるようになったと思ったんですけれどもね……。まだまだ修行不足です。ところで、リク兄さんは何をしにここへ?」
「いや、道具屋のバイトでもできるかなと思って来た所、お前の姿が見えたんでな」
「そうですか……僕も道具屋にバイトあるか聞いてみたいんだけど、リク兄さんが行くなら諦めるかなぁ……」
「いや、お前が先に聞きに行くというなら止めはしないぞ。俺は他も当たるつもりだし、お前がそれで決まってくれるなら非常に有り難い」
「そうですか? それならお言葉に甘えて……」
ザックはそう言って道具屋の店員さんにバイトが出来るかどうか聞きに向かう。
俺もザックに付いて行き、ちゃんと交渉できるかどうかを見守りに行った。
ザック達には全く期待していなかったのが、ガキの中で一番の年長者なだけあって、働いて金を稼ぐということは良く理解できている様子だ。
バイト先が被ったのであれば、俺より出来ることが少なくて選択の幅が狭い奴に譲った方が効率はいいからな。
これで決まってくれれば最高だと思いながらもバイトに志願をするザックの様子を見守る事にする。
「あの、アルバイトって募集していませんか? 僕、お金が必要なんですけれども……」
「バイト希望かい? んん~……今人手は足りているんだけれども……」
ザックの申し出に対して何色を示す道具屋のおばちゃん。
この様子では少し無理そうだ。
「ここ二日間何も口にしていない子供四人に食べ物を与えてやら無いといけないんです!」
そう言って食い下がるザック。
子供四人というのは自分も含めてお前ら四人という事なのか、それとも自分を除き、ここにいる23の男を子供四人の中に含めて数えたのかは分からない。
「できれば日雇いで、食事つきをお願いします!」
なんかセコいぞ。
「んん……。やってくれるなら、長期で頑張ってもらいたいんだけど、ダメかい?」
「それは……」
ザックが考えている所で俺が言葉を挟んでやる事にする。
せっかくの機会だが、長期はダメだろ。出発の準備が整い次第一刻も早く脱出したい町なんだからな。
「すいません。長期はできねぇっす。それでも何とかならないスかね……?」
「長期はダメなのかい? んん……」
俺が言葉を挟むと、さらにおばさんは考え込んでしまった。
「食事は付くんだけれども、長期で出来ないのならば無理だねぇ……」
「やります!」
「よだれ垂らすな! よだれ!」
結局この町の道具屋はダメという事で、その後ザックは武器屋を当たりに行ったようだ。
一応ザックも頑張っている事だし、俺も頑張らなくてはいけないと意気込む。
一番の年長者……というか、こいつらの保護者が収入0ではカッコつかない。
「宿屋って柄でもねぇけど、当たってみっかな……」
立派な食事を作ったりベッドメイクをしたりなんてやった事はないが、ガキ共の為だ。
仕事を選んでいる場合ではない。
今はなんとしてでもみんなに温かい飯を食わせてやらねばならんのだ!
その為には立派な食事作りだろうがベッドメイクだろうが客案内だろうがつまみ食いだろうが、何だってやってやるぞ!!
……一つ本能丸出しな項目が混じってしまったが。
と、いう事で宿屋に向かっている途中、アルに出くわした。
アルは俺を見つけるなり元気そうに俺の方へ寄ってくる。
「おーい! リクにぃ! 元気してるか!」
「何でお前はそんなに元気なんだよ……」
無理してるのか空腹という生理現象さえ超越する馬鹿なのか、嫌に元気に俺の方へ寄ってくるアル。
そんなアルからはバイトを探している雰囲気が全く読み取れない。
まぁ、ハナからこんな奴には何一つ期待しちゃあいないけど。
「お前、何やってんの?」
「わらしべ長者」
「わらしべ長者?」
その問いに頷くアルを見ると、その手には汚い布切れ。
どうやら自分の付けていたマントのフードの部分を切り取ったもののようだ。
せっかく買ってやったマントも、こうやってこいつのおもちゃになっていくんだよな。
「これをどんどん交換していって、億万長者になるのだ!」
「…………」
こいつ、この前聞かせてやったわらしべ長者の話をまんま鵜呑みにしやがった。
「という訳でリクにぃ、何かと交換してくれ」
「身内から巻き上げるかお前は」
アルの場合、稼ぎたいというよりもわらしべ長者がやってみたいだけなんだな。
まぁ、何でも挑戦してみたい好奇心旺盛な子供なんだから別にそれを止めはしないが、時と状況と空腹具合を少しは考えて欲しいものだ。
こいつはこいつで目をキラキラ輝かせて物々交換を俺に期待してくるから、何だか断りにくい。
布切れと交換してくれてやるもんなんか無いが、そんなアルの顔をみると仕方がないという気持ちになってくる。
「しょうがねぇな……」
仕方なくポケットに手を突っ込んで何でもいいからアルに渡すものを探す。
するとポケットの中で何か感触をつかんだので、それをポケットの中から取り出した。
「……雑草」
昨日、シャレで『飢え死にしそうになったらコレを食べよう』なんて考えてポケットの中に入れたものだ。
実際それを考えた時も意識がもうろうとしていたんで、まるっきり忘れていた。
「わー! ありがとうリクにぃ!」
「…………」
それでも満足そうに俺の手から雑草を取り、代わりに布キレを置くアル。
喜んでいるところすまんが、価値が下がってると思う。
このままいけばわらしべ貧民である。
「よーし、この調子で頑張るぞー!」
この調子で頑張った末に、あの雑草がどんなゴミクズに変化するか非常に楽しみだ。
「誰かー! この草と金銀財宝を交換してくれる人はいませんかー?」
「そんな馬鹿いねぇよ」
宿屋に行くまでに酒場を通ることになるので、ダメ元で酒場に寄ってみる事にする。
昨日の最後に依頼の有無を確認したが、当たり前のように依頼はなかった。
毎日この町の酒場には来ているが、客が沸いている所を見たことが無い。
あの調子だと依頼なんて一ヶ月に1度あったら奇跡だ。
「っと……」
酒場の前を通った時、アナライザーが反応したので反応を示した方へ行ってみることにする。
酒場の裏手……確か広場だった気がする。
アナライザーというのは、首につける戦闘用の通信機のようなもので、値は張るが非常に便利な道具である。
それを身につけていると視界に様々な情報が入ってくるのだ。
まず、人に近づけばその人の現在の状態でのおよその強さが数値で分かる。
例えば剣や鎧を身につけている戦士を、アナライザーを装着してから見るとその戦士の傍に530という数字が浮き上がってくるといった具合だ。
その人が鎧を脱げば400まで落ちるといったような変化も瞬時に察知できる。
ちなみにその数値はPND値と呼ばれるが、俺のMAXPND値は625。
625と言えばそこらの騎士隊の隊長クラスの強さというのが一般の認識だ。
もちろん今は空腹でそこまで数値はでてない。550くらいしか出てないと思う。
話が逸れた。
そのPND値よりも重要な機能がこのアナライザーにはある。
それはパーティ機能だ。
アナライザー同士でパーティを組むように設定しておけば、通信の範囲内であれば他のアナライザーが何処にあるか自動で探知してくれる。
子供ばっかで迷子という事態が多いので、これは絶対に必要な代物なのだ。
むしろこの機能しか使っていない。
PND値の表示機能は俺のも含めて基本的に切っている。
迷子にならないが為に俺は奴らの分のアナライザーを全部自腹で購入した。
実を言うと、この町には他の町で頼まれた護衛の依頼が終わってたどり着いたんだが、その報酬はこいつらのアナライザーを揃える為にほぼ全額使ってしまったのだ。
金がなくなっても、すぐ依頼を受ければ金は入ると思っていたのが災いしてこの有様なんだが。
で、そのアナライザーに反応があったからついでにと思って酒場の裏手に回った。
酒場の裏手には広場があり、そこで子供達がわらわら集まってちょうど今球蹴りしているところだった。
この中に反応のあったジーが混じっている訳だ。
ジータス=バレングレイン。10歳。通称ジー。
とにかく元気でアルに常識を付け足したような男の子だ。
負けん気が強く、俺の持つ子供達の中では恐らく一番まともな人間だと思う。
「奴はここで球蹴りして油売ってやがるのか……?」
ジーはこの街に来てからすぐに現地で友達を作れるくらい活発な少年で、一人いなくなっては友達と遊んでいるなんて事がよくある。
戦闘に関わる仕事の戦力にはまだまだなれないが、日頃から俺が鍛えてやっているのでそんじょそこらの子供達よりは体力も運動能力も高いだろう。
だから他の子供達の中では結構すぐに人気者になれたりするんだろうな。
適当に子供達の中に近づいて行こうとすると、ジーが途中で俺に気付き、俺の方へ駆け寄ってきた。
「おーい! リクにぃ!」
二日間何も食べてないのにやたら元気そうなジー。
空腹は子供のほうが敏感に反応するという俺の考えはただの思い違いだろうか。
ジーの奴、さっきまで空腹で床に倒れていたのにもう元気そうに走り回ってやがる。
その元気を少しでも俺に分けてもらえたら嬉しいんだが。
「お前、こんな所で何やってやがる」
「球蹴りだよ! 試合に勝ったら飯ご馳走してくれるってさ!」
「ホントか!? よし、ここはお兄さんが完膚無きまでにひねり潰してやる。」
『ご試走してくれる』の言葉に反応し、俺は荷物一式を降ろして腕をまくり、球蹴りの準備に入る。
ジーの方は子供達の輪の中へと戻り、俺の出場の要請をしてくれていた。
「おーい! ちょっとこの人も入るんだけどいいよな! すげぇ戦力になるぜ!?」
「えー! ダメだよ! 大人はダメ!」
「大人はズルだ!」
「…………」
しかし、一瞬で却下されてしまった。
それを受けてジーは再び俺の方へと走って駆け寄ってくる。
「リクにぃ、ダメだって」
「聞いてたよ」
ソッコーで荷物を背負いなおす。
余計な体力を使ってしまった。
まぁ、実際俺だけ飯にありつけるっつーのも他の奴らに申し訳がつかないからな。
腹いっぱい飯を食ってから精一杯働こうと思ったのも嘘だ。
決してそのような事は思ってない。
もちろん先に食わせるべきは幼い少年少女達だ。
うん。
「決しては俺はお前達を裏切るような事は……」
「リクにぃじゃあね!頑張って金溜めてきてよ!」
「…………」
そう言って走り出す無邪気な少年J。
お前は頑張って金稼ぎ、俺は遊んで腹一杯って事らしい。
ぐぅ~……。
「吐き気すらしてきた。さっさと仕事探すか……」
さて、酒場にて依頼がきてない事を5秒で確認した後、俺は宿屋に向かった。
途中で腐ったような靴下を手に持っていたアルに話しかけられたが、爽快にシカトしておいた。
宿屋の前につくとそこでまた身内を発見した。
これでもう自由行動を始めてから全ての身内に出会ったことになる。
「よぅリズ。何してんだ?」
「…………」
宿屋の前に生けてある花に対面するようにしゃがんでいる彼女の名前はリズハート。
年齢などを含めて、それ以外彼女に関する情報はない。
彼女は極端に感情を表に出さない子で、滅多な事で口を開かないシャイな子だ。
話したくないのかどうなのか、俺の中で彼女は記憶喪失という事になっている。
何度か話した事はあるが、そのような事を言っていた(と思う)。
あんまり彼女に深い話を聞いても話してはくれないので、もうあまり深い話はしない事にした。
だからリズが本当に記憶喪失なのかこれ以上知る由もないので、今でもその辺はあいまいだ。
年齢は……たぶん12~3歳位だとと思う。
身長もアルと同じレベルで低いし、発育もまだしてない様子。
でも、何故か彼女は滅法強い。
同年代の女子と比較したらあり得ないほど強い。
こんな状態になる前まではほぼ毎日こいつらを鍛えてやってる身ではあるが、リズに限って言えば、初めて出会ったときから既にPND値は異常に高かった。
最初は凄い魔法でも使えるのかと思っていたが、彼女は剣を使えた。
細身のくせに身体能力はズバ抜けており、身のこなしも異常にキレがよく、何よりも抜群の戦闘勘が彼女にはあった。
うちのガキ共の中じゃエース的な存在だ。
どんな子供だって死ぬほど訓練してもこれほどまでの数値をたたき出す事はできないであろう。
彼女の過去が非常に気になる所だが、やっぱり記憶喪失だからか話してはくれないので残念だ。
とにかく人見知り……というか警戒心が激しく強いこの子は、出会った当初は本当に苦労した。
事あるごとに無言で剣をサッと構えていたのだから恐ろしい。
今でこそそんな事は滅多にないが、彼女を本気で怒らせようものなら首が飛びそうで怖い。
怒ってる感情がはっきり表情に表れればこっちも分かるのだが、彼女が表情を変えないからといって調子に乗ってからかい続けていると、突然剣を抜かれるもんだから本当に怖い。
俺はリズと同じようにしゃがんで彼女の顔を見る。
彼女は花壇に生けてある花とじっとにらめっこしているだけで、なかなか動かない。
「なんだ。花とにらめっこするバイトか?リズならなんか勝てそうだな」
「……違う」
違うの言葉の後は何も続かない。
視線すら合わせずそう冷たく言い放つリズだが、その調子にはもう慣れた。
「ほぅ。じゃあリズは何してんだ?」
「……リクにぃ、水」
「は?」
「水」
よく分からんが水を要求された。
自分から人に何かを要求するって事があまりないリズの要求なので、応えておく事にする。
「魔法のでいいか?」
「ん」
俺がそう聞くと、リズは黙って頷いたので仕方なく魔法を使ってやる事にする。
とりあえず右手の人差し指をリズの眼前に持ってきて……。
「発射」
人差し指からブパァーっとリズの顔面に水を発射。
これは水を何に使うか言わなかったリズが悪い……という事にしておく。
「……殺すよ?」
「すいませんでした」
水をぶっかかったリズの顔は無表情だが、怒っているのは当たり前だ。
リズの「殺すよ?」はジョークに聞こえないから怖い。
それでも俺はリズに感情を表に出して欲しいからこうやってからかったりしてる。
それでリズが「ムキー! 怒ったぞぅ!」とか言い出したら最高なんだが。
「水、どうするんだ? 飲むのか? 俺の水の魔法は腹壊すぞ」
「違う」
さっきアルからもらった布切れでリズの顔を拭いてやりながらそう問うも、何に使うかという肝心な答えは返ってこない。
「お花……お花に」
「成る程」
見てみればリズの見てる花はあんまり元気がない。
きっと水が足りないせいだと思って俺に水を要求した訳だな。
「よしきた」
俺は花の生けてある花壇の土に程よく水を送ってあげた。
するとリズは少しだけ嬉しそうな表情をしてくれた……ように見えた。
人とコミュニュケーションを取るのが苦手なのか嫌いなのか、リズはこういった自然や動物と無言で会話している事が多い。
自然を愛する心があるのは大いに結構な事なんだが、もう少し人間とコミュニケートを取って欲しい。
まぁ、ガキ同士、取り分け一緒にいる期間が長いアルとはかなり仲良くやってるようなんだが。
「さて、リズはどうするつもりなんだ? 良かったら一緒に宿屋に突撃してみるか? もしかしたら二人まとめて雇ってくれるかもしれないぞ」
「いい」
「何でよ」
「さっきクソにぃがダメだったって言ってた」
「あ、そう」
もう既にザックが突撃済みらしい。
あいつも頑張ってくれているんだな……。
ちなみにクソにぃというのはザック……ザクソスの事で、アルが『クソにぃ』と呼んでからこいつらの中で浸透してしまったザックの可哀想なあだ名である。
「んじゃ、俺も他当たってみるかな……」
仕方が無いので、腰を上げて他を当たることにする。
「リズも頑張れよ。でも、変なおっさんとかに付いていったりだけはするなよ」
「…………」
一言そう言うと、リズは静かに頷いてどこかへ行ってしまった。
まだ幼いながらも非常に整った綺麗な顔立ちをしているので、そういう意味でも将来有望のリズハは、一人で歩いているとよからぬ男に声を掛けられる事が希にある。
まぁ、黙って無視を決め込む、しつこいようなら凄い殺気と共に黙って剣を抜く、色気も糞もないリズハならあまり心配はいらないんだが。
なんだかんだでもう夕焼けが見える時間。
結局あの後もなかなかバイトが見つからなかった。
それでも皆の事を思うとどうしても手ぶらで帰る訳にはいかなかったので、民家を一軒一軒回って雇ってくれるように頼み込んだ。
その結果、ある一軒、子守りのバイトとして雇ってくれる所を見つけた。
内容は3歳のお子様を相手に踏みつけられたりおしっこかけられたり顔に落書きされたりするもので、5~6時間で2000リムと大層ケチなバイトだった。
お陰で精神ともに疲れ果てた。
でも、これでようやく少しは飯にありつけるんだ。
俺は今全財産の2087リムを持って食べ物屋のウインドウを眺めている。
たった2087リム。
当たり前だけど、5人分満足な飯を買うのにはあまりにも少なすぎる。
「あ~……肉が食いてぇ。何で狩りをしなかったんだっけ……」
そうだ。
この辺にいる魔物や果物をよく知らなかったのが一つ。
そして狩れるようなものはほとんど狩ってしまったっつーのが一つ。
そして獲物を探しまわる程動く元気がなかったというのもまた一つ。
色々理由があったんだったな。
「……肉……肉」
飲食店行けば好きなもんをそれぞれ食えばいいが、こうして皆に買っていくものとなればジーとアルが喧嘩したりするから平等に買ってやらねばならない。
俺としては肉が食いたかったんだが、肉があまり好きじゃない奴もいるし、それ以前にみんな平等に肉を買い揃えるだけのカネがない。
「仕方ねぇ」
有り金で5人分買えて、さらに少しでも腹が膨れるものを選んだ結果、握り飯10個と、皆で取り分けられるようなしょうもないサラダ&フルーツセットを3つを買った。
絶対に満足できるような内訳ではないが、やつらも腹はすかしてるだろうし、手ぶらで帰るよりはいいかと思い、1925リムと引き換えにそれを持って店を出る。
「明日の事はまた明日考えるか」
とにかく今はこんなシケた飯でも一刻も早く口の中に入れたい。
さっさと奴らを集めようと思って、アナライザーを検索モードに切り替えた。
「お、奴ら集まってんじゃねぇかよ……。俺を仲間はずれにしやがって……」
検索結果、4っつの反応は全部同じ方向にあった。
一人一人探す手間が省けたと思いつつ、俺は4っつの反応の示す方へと向かった。
「マルゼン食堂」
奴らがいる場所発覚。
この町にある食堂の中だった。
あいつらだけで食堂なんて嫌な予感しかしない。
前に一度勝手にアルとジーが金も持ってないのに食堂で飯を食ってトラブルを起こしたことがあるんだ。
あいつらは金を払って飯を貰うというシステムがまだ理解できていないように思える。
ザックなんかはその辺ちゃんと理解しているはずなんだが、それでも今食堂にいるっつー事は、あいつら、食い逃げでもたくらんでやがるのか……?
戦闘力的な意味でも、意味不明で理不尽という意味でも強力なメンバーが揃っているだけに、おかしな事だけは絶対にしでかさないように仕付けたつもりではある。
まぁ、ほぼ極限の状態にいるんで食い逃げに走る気持ちも分からなくは無いが、それだけは社会を渡り歩くものとして許されることではない。
ザックもリズもそういう事はしないような人間だと思っていたが、やはり人間の三大欲求には勝てないという事なのだろうか。
それとも物乞いみたいに店の中で指をくわえているだけなのだろうか。
よく分からないが、とりあえず突撃する事にする。
「いらっしゃいませ! お一人様で?」
「いや、ガキんちょ4名がいるはずなんだけど……」
「あぁ、向こうの席で食事されてますよ。どうぞどうぞ」
「…………」
店員に案内されてガキ四人のいる所へと足を運ぶ。
やはり食い逃げを企んでいるつもりらしい。
ここは保護者としてガツンとしかってやらなければならない。
「あー! リクにぃ!」
奴らの席にたどり着くと、俺を見つけたアルが真っ先に大声を上げる。
奴らのテーブルには肉なり米なりデザートなりがたくさん並んでいた。
完全に食い逃げコースである。
「お前ら、よく聞け」
俺がそう言うと、四人は食事を口にしながら『しまった!』という顔して俺の方を見た。
ほれみろ。食い逃げだ。
「お前らは俺に隠れてコソコソやってるつもりなんだろうが、全部が全部俺にはお見通しなんだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「馬鹿共が。いいか良く聞け。人にはやって良い事と悪い事がある」
と、偉そうに説教たれていた所「リクにぃの分忘れてたぁ!」と叫びだすアル。
馬鹿かてめーは。
俺が怒ってるのはそこじゃねぇ。
「アル。お前、何やってんだ?」
「飯食ってる」
「これから何しようとしてんだ?」
「飯食った後のデザート食おうとしてる」
「誰が金を払うんだ?」
「あたし」
「ほぅ。払えるものなら払ってみろ」
「うん。払うよ。ほら」
と、言ってアルはコインを目の前にポロッと出す。
さすがにそれには俺も驚いてしまい「ブッ」と噴出してしまった。
アルが俺に見せてきたのは小さな9歳のガキんちょには似つかわしくない大金。
奴の目の前には何故か1万リムのコインがあった。
「ちょ、ちょっと待て! どうやって手に入れたんだソレ!? ま、まさか盗んだりなんかは絶対にしてないよな……?」
「人聞き悪い事言うなよぅ。知らないおっさんからもらったんだよ」
「は?」
そうアルが答えるも意味が良くわからない。
そこでジーがアルより先に事情の説明を始めた。
「あのさ、アルが助けた犬がさ、飼い主がすっげぇ金持ちでさ、たくさんお金くれたんだ!」
「は?」
「そう! わらしべ長者ってすごいね! 今度からあたしこうやって金稼ぐよ」
「ちょっと待て! どうやったら雑草が1万リムになるんだ? 1から話せ!」
最後にアルの持ち物を確認したのは汚い靴下だった。
あの雑草からどうやって汚い靴下に変化をとげたのかも謎だが、あの汚い靴下から1万リムに変化をとげた過程の方がもっと謎だ。
「まずリクにぃと、マントと草を交換したでしょ、その次に地面と、草と靴下を交換したでしょ……」
つまり、雑草を捨てて靴下を拾った訳だな。
雑草を捨てる意味はあるのか分からないが、アル的にそういう所を律儀にやらなくてはならなかったのだろう。
「そしたら靴下と交換してくれる人がなかなかいなくてさ、投げて遊んでたのよ」
そりゃそうだ。
誰が使ったかも分からない汚い靴下を欲するのはお前くらいなもんだからな。
「そしたら子犬に持っていかれちゃったから、何かと交換してくれなくちゃいけないのに、逃げて行っちゃうから追いかけたのよ。やっと捕まえてさ、今度は子犬と靴下を交換したのよ」
つまり、アルが犬をかっさらった訳だ。
「そしたら知らないおっさんに声をかけられて、1万リムと犬を交換してくれた」
「…………」
そこで沸き起こる拍手。
アルの嘘はすぐ顔に出るので見抜くのが簡単なんだが、今の話はそんな雰囲気はまるでなかった。
今の話は恐らく本当だろう。
っつー事は、アルのお陰で今の俺たちは大金持ちな訳だ!
「でかしたぞアル! いや、アルフリーナ様!」
これで、これでようやく腹いっぱいの肉が食える!
これからの食料も手に入る!
旅の支度が出来る!
この町から抜け出せるぞー!!!
「よし、早速だが俺にも飯を食わしてくれ!」
そう言って俺は皆の輪の中に入って飯を頼もうとすると……。
「すいません、リク兄さん。さっきの追加注文で1万リム使い切っちゃったんですよ……」
「は?」
「さっきの追加注文で1万リム使い切っちゃったんです」
「…………」
今までろくに水もやらずにいた花が、水もないのに奇跡の力で花を咲かせたと思ったら、次の瞬間しぼんでいた。
ザックの言葉を聞いた今、そんな図が俺の頭の中に描かれた。
馬鹿か。
何で一回の食事だけで1万リムも使うんだよ。
馬鹿。
馬鹿。
馬鹿。
これからの旅の支度はどうするんだ馬鹿。
この町にずっと居続ける気なのか馬鹿。
だからこいつらには金を持たせたくないんだ馬鹿。
「ねぇねぇ、今リクにぃが持ってるやつって何さ?」
「5人分の飯だけど……」
「良かった。じゃ、リクにぃはそれがあるから大丈夫だね!」
「…………」
なんか俺だけ仲間はずれっぽい。
なんか変だ!
何故俺だけ輪に入れない!
何故俺だけデザートが食えない!
肉が食えない!!
「ちょっと待てお前ら! 何故俺を呼ばなかった!?」
「リクにぃも探したけど、リクにぃ人の家に入ってたじゃん。勝手に人の家に入るなって言われたからリクにぃは呼べなかったよ」
「呼び鈴を押せ呼び鈴を! ピンポーンって押せ馬鹿!」
俺はそのピンポーンの仕草をしながらも、大人気なくテーブルに並ぶ肉に手をつけようとする。
が。
「何だよ! リクにぃは散々人の食べ物に手を出すなって言ってたクセに! 自分ばっかりズルいじゃん!! ダメだよ! これは俺の!」
と、ジーに釘を刺されてしまった。
「リク兄さんは買ってきたのがあるんじゃないですか?」
「…………」
買ってきた袋を開けると、中に入っていたものは同じ種類の握り飯が5個2セットと貧相なサラダセット3つ。
テーブルに並んでいる1万リールの豪勢な食事とは雲泥の差がある。
「こ、これって差別じゃありませんか……?」
「アルが探したのにいなかったリクにぃが悪い!」
「そうだ! リクにぃが悪い!」
「…………」
泣きそうになりながらも仕方なく自分の買ってきた袋に手を付ける。
周りの豪勢な食事と比較すればするほど涙がこぼれそうになってくる。
俺もようやく肉にありつける事ができると思ったのに、肉は目の前にあるのに、俺は寂しく握り飯。
まぁ、今までこいつらにひもじい思いをさせてしまった罰だよな……。
こいつらが『1万リム分の』飯をこれだけ腹いっぱい食えていると思えば、それで俺の思いも叶ったとしていいか……。
でも、この買ってきた握り飯、妙にしょっぱいんだよな……。
くそぅ……。
目からしょっぽい物を垂れ流しながらもさもさ貧相な飯を貪っていると……。
「あのお客さん困りますよ! 当店では持ち込み禁止です!」
追い出されました。
中途半端に3話くらいで終わります。
何で発表しようと思ったのか分からないような出来で申し訳ないのですが、暇つぶし程度でよろしければどうぞ。
14.10.09 若雛 ケイ