電話友達
男は悩んでいた。
もう大学も卒業だと言うのに、未だに就職は決まっていない。大学に入ってからは、友達もほとんどいない。生きていて、楽しいことなど何もない。もう、人生どうにでもなれと思っていた。
そんなことを思っていた矢先のことだった。
携帯に知らない番号から電話がかかってきた。男はとりあえず出てみることにした。
「もしもし?」
「あ、もしもし。お前、人生どうにでもなれと思ってるだろ。」
男は驚いた。どこの誰だか分からない人に、いきなり自分の考えをあてられるなんて。
でも、どこかで聞いたことのあるような声の気もする。しかし誰だかは分からない。
「お前は……誰だ?」
「私のことなど、どうでもいい。今はお前の話だ。いいか、そんなことを考えてはいけないぞ。」
電話の相手は、男の考えが手に取るように分かるといった様子で、いろいろとアドバイスをくれた。悩みを聞いてくれた。男のことを褒めることもあったし、叱ることもあった。
電話は、1日1回かかってきた。電話番号は非通知になっていて、こちらからかけ直すことはできない。だから、その相手から来る1日1回の電話だけが、その人と繋がる唯一の方法だった。
毎日毎日自分の悩みを聞いてくれ、的確なアドバイスをくれるので、男はどんどん人生に希望をもつようになっていった。どうでもいいと思っていた人生を、しっかり生きてみようという気持ちに変わっていた。
男は電話の相手に感謝していた。どこの誰かは教えてくれないが、そんなことは男にとって、もうどうでもいいことだった。これからも電話友達として、長く付き合って行こう。そんなことを考えていた。
時は流れて、電話が最初にかかってきた日から、ちょうど1ヶ月が経った日のことだった。
「すまない。もう、お別れだ。」
電話の相手は、急に別れを言い出した。男は混乱した。
これからもずっと、この関係を続けていけると思っていたのに。
「どうしてだ。このままの関係を続けることで、何か困ることがあるのか?
何か悩みがあるなら言ってくれ。おれたちはもう、友達じゃないか。」
その発言に、電話の相手は可笑しそうに笑っていた。
「友達じゃ、ないんだよ。
おれとお前は、友達なんかじゃない。」
そう言うと、電話は切れてしまい、それ以降二度と電話がかかってくることはなかった。
こうして、謎の相手との1ヶ月のやりとりはあっけなく終わってしまった。
――それから数年後、男の家に宅配便が届いた。
小さな段ボールの箱だった。
箱を開けると、中から携帯電話と一枚の紙が出てきた。
その紙には、こう書かれていた。
「この電話番号は、過去の自分に繋がる番号です。
すぐに電話をして、過去の自分を変えなさい。
さもなければ、あなたの未来は無いでしょう。電話の制限回数は30回。
ただし、相手に未来の自分だとバレてはいけない。」