2
放射能をたっぷり含んでいそうな天気雨の中、僕は路肩に車を停めて、たばこを吸った。
東日本大震災の影響で、僕の好みの銘柄は、おとついまで品切れだった。
昨日、再販開始をネットで知り、五件のコンビニを回ってやっと二箱手に入れた。
さすがにうまい。
ポケットから個人の方のケイタイを取り出し、メールホルダーを表示する。
一週間前に別れた女からのメールがある。
まだ開いてはいない。
放っておけば消えるかもとも思ったけれど、もちろん勝手に消えることはない。
そのメールの後に何十通もメールが届けば、次第に埋もれ、ついに消えることはあり得る。
だが僕に、そんな大量なメールは来ない。
さっさと削除した方が賢い。
それはわかっている。
女からは、未開封のメールの前に、三通のメールが届いた。
一通目は、女の裸の胸の画像が添付されていた。
張りがあるくせに、やわらかく、手のひらに吸い付きそうな肌が、今にも飛び出してきそうだった。
次次、送られてくるほどに過激さが増した。
最後のメールに画像が添付されているならば、あれをおいて他にない。
ケイタイをポケットにしまう。
短くなったたばこを、使い捨ての吸殻入れに入れて、癇癪を起こしたように激しくもみ消す。
そのあとで、新しいたばこをくわえると、火をつけ、煙を深く吸い込む。
一瞬、くらりと世界が歪んだ。
くたばりそうな自分におかしくなって、誰もいない方向に向けて敬礼をした。
背後を車が通り過ぎる気配がして、顔だけ向ける。
金髪に染め、サングラスをかけた男が、助手席に化粧の濃い、けれども下半身に反応しそうな肉感的な女を乗せ、やけにゆっくりと車を転がしていく。
あまりにもくだらなくて、笑ってみようかと思ったら、足元の大地が、急に消えた。