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風の祈り  作者: 銭屋龍一
光の橋
9/17

2

 放射能をたっぷり含んでいそうな天気雨の中、僕は路肩に車を停めて、たばこを吸った。

 東日本大震災の影響で、僕の好みの銘柄は、おとついまで品切れだった。

 昨日、再販開始をネットで知り、五件のコンビニを回ってやっと二箱手に入れた。

 さすがにうまい。


 ポケットから個人の方のケイタイを取り出し、メールホルダーを表示する。

 一週間前に別れた女からのメールがある。

 まだ開いてはいない。

 放っておけば消えるかもとも思ったけれど、もちろん勝手に消えることはない。

 そのメールの後に何十通もメールが届けば、次第に埋もれ、ついに消えることはあり得る。

 だが僕に、そんな大量なメールは来ない。


 さっさと削除した方が賢い。

 それはわかっている。

 女からは、未開封のメールの前に、三通のメールが届いた。

 一通目は、女の裸の胸の画像が添付されていた。

 張りがあるくせに、やわらかく、手のひらに吸い付きそうな肌が、今にも飛び出してきそうだった。

 次次、送られてくるほどに過激さが増した。

 最後のメールに画像が添付されているならば、あれをおいて他にない。


 ケイタイをポケットにしまう。

 短くなったたばこを、使い捨ての吸殻入れに入れて、癇癪を起こしたように激しくもみ消す。

 そのあとで、新しいたばこをくわえると、火をつけ、煙を深く吸い込む。

 一瞬、くらりと世界が歪んだ。

 くたばりそうな自分におかしくなって、誰もいない方向に向けて敬礼をした。


 背後を車が通り過ぎる気配がして、顔だけ向ける。

 金髪に染め、サングラスをかけた男が、助手席に化粧の濃い、けれども下半身に反応しそうな肉感的な女を乗せ、やけにゆっくりと車を転がしていく。 


 あまりにもくだらなくて、笑ってみようかと思ったら、足元の大地が、急に消えた。

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