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風の祈り  作者: 銭屋龍一
光の橋
8/17

光の橋 1

「人の気持ちが分からない人が、世界で一番悲しい人だわ」

 大学のとき、付き合っていた女の娘に言われた。

 確かにその通りだ。人の気持ちが分からない僕。僕は僕の気持ちでさえ分かっていない。僕には心がないのかもしれない。

 そして、そんな風に考えることはたやすい。

 そんな風に思っていれば、誰かが僕を嫌うことに、それほど心を痛めなくてすむから。

 嫌われることには、自信がある。


 たぶん僕は、誰かに喜ばれるお話は、書けないと思う。ずっとずっとずっと、あきらめることなく続けていれば、いつか、僕にも、誰かに喜んでもらえるお話が書けると思ってた。

 夢は逃げやしない。君が夢をあきらめてしまわない限り。

 そんな言葉にすがっていたときもあった。

 でも、と思う。

 人の気持ちが分からない僕に、誰かを喜ばせるお話なんて、書けるはずがない。

 あきらめたわけじゃない。

 でも、たぶん、そこまで行きつくまでに、僕の命の方が尽きてしまう。

 つまり、そういうことだ。


 大学のとき、その言葉を聞かされ、最終電車で神戸から戻る間、僕の頭の中でその言葉がエンドレスで流れていた。

 寒いアパートの部屋に帰り着くと、僕はすぐに原稿用紙を広げ、わきあがってくる言葉を夢中で書き記した。

 今度こそ、誰かに喜んでもらえるお話が書けるような気がして。

 もちろんそれは大いなる勘違いなわけで、僕は徹夜して書き上げた物語を、誰かに見せることもせず、朝早い淀川の河川敷で燃やした。


 あの娘がさよならの代わりにいった言葉は今も僕の胸にある。

 人の気持ちが分からない人が、世界で一番かなしい人だわ。

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