6/17
5
神田正也は、自分の手紙を持って走り去っていく道夫の背中を、見つめ続けた。
ポケットに手を入れる。いつもそこに忍ばせている飴玉をひとつ取り出すと、普段は食べることもないそれを、口に運んだ。きゅっと頬がすぼまるような感じがした。
道夫は、正也から、いつものように手紙を預けられると、これまた、いつも通る借家裏のあぜ道を伝って、農協倉庫前の広場に急いだ。赤いおねぇさんが、きょうもいてくれますように、と声を出さずに、何度も言い続けていた。
俺は、ファンヒーターの前でしっかりとぬくもってから、たばこを一本灰にして、オフィスに鍵をかけ、ルーチンワークとなっている営業活動に向かうことにした。
小説は、ただひとりのあなたに向かって書き綴ってきた。本当に必要とするその相手がいるかどうかは疑わなかった。必ずいると信じていた。
赤いおねぇさんは広場にいた。
いつものように、真っ赤なスカートをはき、白いブラウスの上に、これも真っ赤なカーディガンを羽織っていた。ルンルンと、陽気に鼻歌を歌っていた。
道夫が歩み寄ると、赤いおねぇさんはしゃがみこみ、視線の高さを合わせた。
「お手紙」
道夫が差し出した手紙を押し頂くように受け取ると、おねぇさんは道夫の頭をやさしく三回撫でた。




