表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の祈り  作者: 銭屋龍一
いくつかの世界
16/17

2

「聞こえない? だからバカじゃない、って言ってるのよ。絶対太宰が一番なのよ」


 毎度同じことでけんかができる、部長と津軽土人に感心する。

僕はわざとらしく、

「ああ。しんでぇ」

 と言いながら部室のドアを開けた。

 部室にいた五人がいっせいに僕の方を向く。

「やぁやぁ、こんにちはーーー」

 僕は充分バカにした態度で部室に入ると、五人が言い争っている側に椅子を引き寄せ、それに座った。

「あっ。どうぞ。続き、あるんでしょ?」

「ねぇ、SF。きょうは雨でもないし、短縮授業でもない。なんであんたが来んのよ」

 津軽土人は、言い争いの腰を折られたのが、気に食わないのか、食ってかかるような言い方をした。

 もう気がついているかもしれないけれど、津軽土人は根っからの太宰ファンだ。 

 ならば津軽だけでもいいようなものなんだが、クォーターらしくて、日本人にはちょっと見えない、堀の深い顔立ちをしている。

 だから土人がつく。

 部室には、でかでかと、津軽土人によって、太宰の写真が貼ってある。

 その大きさは、僕が毎朝おはようのキスをする、ベッド脇に貼っている小林麻美のポスターと同じくらいだ。

 僕にしてみれば、そのポスターは小林麻美じゃないといけないわけで、それと同じように、津軽土人は壁に貼る写真といえば、太宰で、部長は川端というわけだ。

 どれだけ二人がブンガクしているかは知らないけれど、僕からしてみれば、アイドル写真となんの変わりもない。

 たぶんきょうの言い争いも、部室の中に、太宰か川端の写真を新たに貼りたくなって、縄張り争いからのものだと思う。

 写真だけでなく、それぞれが聖書と崇める作品集を、部室の書架のどの位置に収めるか、なんてことでも紛争は勃発する。

 僕からすれば、目クソ鼻クソでしかない。


「きょうはさ、顧問に呼ばれたのよ。どうしても来てくれって」

「顧問が? なんだろう。何かあったっけ?」

 津軽土人が隣のミステリに言う。

 ミステリは津軽土人のクラスメートで、何かというとつるんでいる。

 ミステリって呼ぶのは、アガサクリスティーが好きだからだ。

 ついでに言っておくと、僕のSFというのは、僕の書くものがSFっぽいから、って理由で、津軽土人がつけたあだ名だ。

 僕自身としては、SFを書いてるつもりはないんだけど、どうも現実離れしているんで、そんな風に感じるらしい。

 部長も、いつも取り巻きの、一学年下の青春とロマンスと目を合わせて、首を傾げている。

「みんなが、知らないなら、悪い話かもな。文芸部が解散とかさ」

 僕は憎まれ口を叩くと、腕を組み、目を閉じた。

「で、続きがあるんでしょ。どうぞ続けて?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ