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「聞こえない? だからバカじゃない、って言ってるのよ。絶対太宰が一番なのよ」
毎度同じことでけんかができる、部長と津軽土人に感心する。
僕はわざとらしく、
「ああ。しんでぇ」
と言いながら部室のドアを開けた。
部室にいた五人がいっせいに僕の方を向く。
「やぁやぁ、こんにちはーーー」
僕は充分バカにした態度で部室に入ると、五人が言い争っている側に椅子を引き寄せ、それに座った。
「あっ。どうぞ。続き、あるんでしょ?」
「ねぇ、SF。きょうは雨でもないし、短縮授業でもない。なんであんたが来んのよ」
津軽土人は、言い争いの腰を折られたのが、気に食わないのか、食ってかかるような言い方をした。
もう気がついているかもしれないけれど、津軽土人は根っからの太宰ファンだ。
ならば津軽だけでもいいようなものなんだが、クォーターらしくて、日本人にはちょっと見えない、堀の深い顔立ちをしている。
だから土人がつく。
部室には、でかでかと、津軽土人によって、太宰の写真が貼ってある。
その大きさは、僕が毎朝おはようのキスをする、ベッド脇に貼っている小林麻美のポスターと同じくらいだ。
僕にしてみれば、そのポスターは小林麻美じゃないといけないわけで、それと同じように、津軽土人は壁に貼る写真といえば、太宰で、部長は川端というわけだ。
どれだけ二人がブンガクしているかは知らないけれど、僕からしてみれば、アイドル写真となんの変わりもない。
たぶんきょうの言い争いも、部室の中に、太宰か川端の写真を新たに貼りたくなって、縄張り争いからのものだと思う。
写真だけでなく、それぞれが聖書と崇める作品集を、部室の書架のどの位置に収めるか、なんてことでも紛争は勃発する。
僕からすれば、目クソ鼻クソでしかない。
「きょうはさ、顧問に呼ばれたのよ。どうしても来てくれって」
「顧問が? なんだろう。何かあったっけ?」
津軽土人が隣のミステリに言う。
ミステリは津軽土人のクラスメートで、何かというとつるんでいる。
ミステリって呼ぶのは、アガサクリスティーが好きだからだ。
ついでに言っておくと、僕のSFというのは、僕の書くものがSFっぽいから、って理由で、津軽土人がつけたあだ名だ。
僕自身としては、SFを書いてるつもりはないんだけど、どうも現実離れしているんで、そんな風に感じるらしい。
部長も、いつも取り巻きの、一学年下の青春とロマンスと目を合わせて、首を傾げている。
「みんなが、知らないなら、悪い話かもな。文芸部が解散とかさ」
僕は憎まれ口を叩くと、腕を組み、目を閉じた。
「で、続きがあるんでしょ。どうぞ続けて?」




