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風の祈り  作者: 銭屋龍一
建築家の夢
13/17

建築家の夢 1

 普段であるなら、彼は眠れない夜を無理に眠りへといざなうことはなかった。

 定期的に診察を受けているクリニックで処方された睡眠導入剤が、仕事机の筆指しに、きっちり挟み込まれていたとしてもだ。

 建築に直接的に必要ないくつかの本を読んだり、直接的ではないけれど、感性を刺激してくれる本や音楽を聴いて過ごせば、ベッドの中で眠れないことを悶々と思いながら、過ぎゆく時を恐れているより、よほど健康的だからだ。

 幸いなことに、彼の昼間の仕事は、そのすべての時間が、がんじがらめなものではなかった。

 十五分、三十分と細切れではあったけれど、仮眠をとることはさほど難しいことではない。


 ただし、今夜は少し違った夜だった。

 明日は大事なクライアントを連れ、建設予定地に赴き、たぶん今年最大の興味ある建築をスタートさせる儀式がぎっしりと詰まっていた。

 つまり、スケジュールはパンパンだったわけだ。

 それでも早くも午前零時を回ったときも、さほどあわててはいなかった。

 少し神経を鎮める、バロック辺りか、あるいはモーツァルト、もっと直接的にヒーリングミュージックなんかを聞きながら、重厚な感じの本でも読んでいれば、自然と眠れると思っていた。


 だが、今夜に限って、音楽は深く心の奥まで届き、酸素不足の金魚のように、水面に顔を出して何度も深呼吸しなければならなかったし、物語の方も、あるかなきかのくせに、ゆったりと流れる重低音のようなストーリーにすっかり掴まえられ、ページを繰る手を止められなかった。

 さすがに午前四時を回ると、焦りがきた。

 今すぐに眠ったとしても、二三時間しか眠れない。

 今更とは思ったけれど、睡眠導入剤を使うことにした。

 薬が残ってしまうことより、少しでも眠りによって神経を休ませることの方を選んだ。


 屋根裏にある仕事部屋からキッチンに降りていくと、グラスに水を注ぎ、ふたたび仕事部屋に戻ると、筆指しに挟んでいた薬を二回分手に取り、躊躇なく飲む込むと、ソファーベッドにダイブした。

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