建築家の夢 1
普段であるなら、彼は眠れない夜を無理に眠りへといざなうことはなかった。
定期的に診察を受けているクリニックで処方された睡眠導入剤が、仕事机の筆指しに、きっちり挟み込まれていたとしてもだ。
建築に直接的に必要ないくつかの本を読んだり、直接的ではないけれど、感性を刺激してくれる本や音楽を聴いて過ごせば、ベッドの中で眠れないことを悶々と思いながら、過ぎゆく時を恐れているより、よほど健康的だからだ。
幸いなことに、彼の昼間の仕事は、そのすべての時間が、がんじがらめなものではなかった。
十五分、三十分と細切れではあったけれど、仮眠をとることはさほど難しいことではない。
ただし、今夜は少し違った夜だった。
明日は大事なクライアントを連れ、建設予定地に赴き、たぶん今年最大の興味ある建築をスタートさせる儀式がぎっしりと詰まっていた。
つまり、スケジュールはパンパンだったわけだ。
それでも早くも午前零時を回ったときも、さほどあわててはいなかった。
少し神経を鎮める、バロック辺りか、あるいはモーツァルト、もっと直接的にヒーリングミュージックなんかを聞きながら、重厚な感じの本でも読んでいれば、自然と眠れると思っていた。
だが、今夜に限って、音楽は深く心の奥まで届き、酸素不足の金魚のように、水面に顔を出して何度も深呼吸しなければならなかったし、物語の方も、あるかなきかのくせに、ゆったりと流れる重低音のようなストーリーにすっかり掴まえられ、ページを繰る手を止められなかった。
さすがに午前四時を回ると、焦りがきた。
今すぐに眠ったとしても、二三時間しか眠れない。
今更とは思ったけれど、睡眠導入剤を使うことにした。
薬が残ってしまうことより、少しでも眠りによって神経を休ませることの方を選んだ。
屋根裏にある仕事部屋からキッチンに降りていくと、グラスに水を注ぎ、ふたたび仕事部屋に戻ると、筆指しに挟んでいた薬を二回分手に取り、躊躇なく飲む込むと、ソファーベッドにダイブした。




